突然ハンターに誘われた

@morukaaa37

第1話 プロローグ




 そこは都心の小綺麗な、ビジネスホテルだった。外とは対照的にライトに照らされた明るい室内には、シングルベッドが部屋の真ん中にしっかり取り付けられている。

 ベッド同様、鋭く白い光りを浴びている1人の男は、そのベットの上にダラシなく寝そべっていた。くたびれた白シャツに、ぶかぶかのズボン。手には、厚みを帯びた大量の紙幣がある。


 「……おい」

 「……」

 「おい、サトウ」

 「……」

 「おいって、聞けよ」


 紙幣を器用に数えていたサトウの腕が、背後からガシッと掴まれた。振り返ると、黒スーツに身を包んだ好青年が、眉をひそめその鋭い目をこちらに向けている。


 「ぁー?なんだ、伊織かよ。邪魔すんな。今いい所なんだよ」


 「金を数える行為のどこに良いところがあるのか、俺には分からないんだが」


 「へー、悲しいやつ」


 「世間的に見れば、お前の方が悲しいと思うが」


 「………」

 

 「おい、黙って再開しようとするなっ」


 数えている途中で、また腕を掴まれる。1度目より、腕に伝わる力は強かった。


 「真面目な話をしに来たんだ。少しは聞く態度ってのを見せろ」

 

 「聞く態度ってなんだよ?オレ教わった記憶ねぇから教えてくれって」


 「とりあえず、その金を置け。ベッドから降りろ。話はそれからだ」


 「嫌だって言ったら?」


 意地悪くサトウの口が歪んだ。次の瞬間、握られていた腕が奇怪な方向に曲げられ、サトウの口からは情けない呻き声が漏れる。


 「あがぁっ!?」


 「さっさと降りろ。関節の一つや二つ、外すことぐらい俺には簡単だ」


 「テメェ、冗談も通じねぇのかよ!離せって!」


 「黙れ。俺はつまらない冗談は嫌いだ」


 「はぁ?知らねーよ。野郎にゃ興味ねぇんだ」


 「あ?」


 サトウの腕の関節が鈍い音を上げた。同時に、サトウの体が瞬発的に動く。ベッドから転が落ち、腕をなんとか戻そうとするが、なかなか元に戻らない。


 床の上で腕を押さえ、悶えるサトウ。本当に外されるとは微塵にも思っていなかったらしい。

 伊織はサトウに近づき、腕を動かすと、関節は嫌な音を上げながら、元の場所に戻った。


 「あ、ありがどぉございます」


 驚きと痛みでしおらしく床に突っ伏すサトウに、伊織は大きくため息をついた。


 「お前な、いい加減その性格をどうにかしろ。弱い上に生意気だと、この先、生きて行けない」


 ぐちぐちと説教を始めようとする伊織を尻目に、サトウは肩をぐるぐると風車のように回す。ゴキゴキと骨のなる音がするが、次第に消えていった。


 「はいはい、分かったよ。でなに?」


 「お前、、ほんと調子がいいやつだな」


 伊織はまたため息を吐くが、サトウは素知らぬ顔でベッド脇にあった椅子にどかっと座る。


 「まあ、もういい。要件だけ言う。ボスがお前を呼んでいる。さっさと着いてこい」


 「え、あの、おっさん?」


 「……殺されたいのかお前」


 伊織はボスのことを割と尊敬している。佐藤もそのことは重々承知のはず。なのに、軽々とこんな発言をするのだから無性に腹が立つのだ。


 「オレあの人苦手なんだよ。笑わねぇし。顔怖いし。ゴツいし。あ、あと、金を全くくれない」


 「そこがいいんだろうが。あと、金のことは政府に言え。最近、ハンターにばかり金を使っているせいでこっちには全く入ってこない」

 

 「あー、あの厨二病集団か。仕事で何回か会ったぜぇ?可愛い女が多かったなぁ」


 「まあ、それはどうでもいいが。とりあえず、ボスのところに行くぞ」


 「急すぎねぇ?」


 「元々、これが本題だ」

 

 嫌そうに顔を歪めるサトウ。言葉以上に、ボスのことが苦手らしい。確かに、享楽主義のサトウと、厳粛なボスの相性が良い訳がない。だが、伊織からすればそんなもの気にする価値もない。何故なら、ここでサトウがついてこなければ、評価が下がるのは自分だからだ。

 だから、伊織は指を折り、高圧的に骨を鳴らす。


 「ちっ、わかってんよ。行くからよ。一々関節取ろうとすんな。足し算覚えて浮かれるガキかよ」


 「その表現はよく分からないが、分かったならオレの肩に手を置け。転移する」


 この部屋はシングルベッド。宿泊者はサトウだけだったのに、伊織が突然現れた理由。それは、伊織が転移者だからである。

 もちろん、サトウはそのことを知っているため驚きはしない。


 「いいよなぁ、それ。オレにもくれよ」


 「譲渡できるものでもないし、出来たとしてもお前にはやらない。自分で開花させろ。もっとも、才能があるかの問題だがな」


 「けっ、嫌味なやつ」


 悪態をつきながら、サトウは、黒スーツの肩に手を置く。華奢な見た目に反し、伊織の体格は悪くない。真性の虚弱体質であるサトウと並べば、その差は一目瞭然だった。


 「移動する」


 その声と共に、2人の姿が部屋から消えた。

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