2:青い炎に包まれて
ある朝、おじいさまが眠るようにして亡くなった。
もともと心臓が悪く、魔術師や薬草師などが治療をしていたが、
結局おじいさまは旅立ってしまった。
父上は現ランデリア王として、冷静に葬儀の指示を出していたけれど、
臣下が居ないところでは声を出して泣いていたのを僕は知っている。
その日の夜。いつもの屋根に初めて一人で登った。
外を見ると変わらず美しいランデリアの幻想的な景色。
広がる星のどこかから、おじいさまと…大好きだった母上が見ているような気がした。
おじいさまの葬儀の日。
朝から雨がしとしとと降っていて。
僕は傘をさしてレベッカと一緒に葬儀の会場へ向かった。
城の中庭に集まった参列者たちは、みんな僕よりもずっとずっと年上だった。
白髪に深いしわの入った老人。
車いすに乗った老婆。
他にも…みんなおじいさまが王様だった頃の知人や臣下だ。
僕は知らない大人たちがおじいさまの死を悲しんでいる様子を、なんだか不思議な気持ちで見た。
最後のお別れの儀式が始まり。
僕はいつも優しく頭を撫でてくれたおじいさまの手を握った。
父上や妹たち…臣下やメイド…おじいさまをよく知る人たちみんなで、おじいさまの手や顔に触れる。そうして大好きだったランデリア国花である【デリアマリー】という花を棺に添えた。
全ての生き物は【女神ラジュラ】によって創られたという。
女神によって創られた生命は、最後に女神のもとへ還るのだと【ラジュラ教】では信じられていて。おじいさまも魔術で生み出された「青い炎」によってその女神ラジュラのもとへ還っていくらしい。
魔術師たちが長い詠唱を唱え終えると
青い炎がねずみ色の雨雲に向かって真っすぐに燃え上がった。
おじいさまの棺をその青い炎へ入れて、皆で棺が燃えていくその様子を見守った。
こうしてこの日、大好きな祖父マエスト・ランデリアは居なくなった。
――――――――――――――――
おじいさまの葬儀からしばらくして、僕の訓練に【剣術と魔法】が加わった。
ああ…おじいさま、ありがとうございます。
ついに僕にも勇者としての力を試す時が…!
と思ったがおじいさまは関係なく、
どうやら師範に話を聞くと、元々僕が11歳になるまで剣術と魔法の指南はしないつもりだったらしい。
「その内なるようになる」この言葉を思い出して、僕は念願の剣術訓練に打ち込んだ………のだけれど…
「初日でこんなにボコボコにされるとは…」
「うふふ…フォルテ様、顔が山ブドウみたいですね♪」
「うるさいなレベッカ…いてて」
顔を棒で殴られすぎて赤く腫れまくった僕の顔に、レベッカは上級薬草を塗ってくれた。
「回復魔法でさっさと治して欲しいな…」
「すぐに治りますが跡が残りやすいです、薬草でゆっくり癒したほうが良いですよ」
「うう…これじゃごはんも上手く食べられないよ」
「私がしっかり食べさせてあげます」
宣言通りレベッカは僕に一口ずつ夕飯を食べさせてくれた。
今日の夕飯はランデリア産の地鶏をローストして野菜と和えた一品。
塩コショウと油が野菜と肉とうまく調和していてとてもおいしい。
「王様も訓練を厳しくするなどと酷ですが、フォルテ様には強くて立派な王になって欲しいという想いがあるからですよ」
「別に訓練の厳しさについて僕は何も思っていないよ…王じゃなくて勇者になるんだけどね…いてて」
口の中が切れているので喋ったら痛いや。
レベッカは困ったように…それでも優しい顔で僕の口に夕飯を運んでくれた。
――――――――――――――――
次の日、顔の腫れがマシになったので予定より早く魔法の訓練が始まった。
「魔法に関しては何も知らないからすごく楽しみだな…」
僕はウキウキしながら魔法訓練場へ向かった。
王宮にはこうした訓練施設がいくつもあり、城の下層階では兵士や傭兵がよく出入りをしている。
小高い丘の上に立つランデリア城は、かつてあった魔族との戦争の名残がいくつもあって、要塞としてもかなり優秀な造りになっているとおじいさまが言っていたな。
屋外にある魔法訓練場に着くと、魔術師の格好をした男性が僕を待っていた。
「はじめまして、フォルテ王子。私はマスタンド・レイブン。あなたのおじい様の弟子です」
マスタンドと名乗る大きな身体の男が、ゆっくり僕へ近づいてきた。
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