勇者誕生-王様が勇者を創りまくる話-
桃地 春百
序章
1:フォルテ・ランデリア
「ダークエターナルファイアーソード!!」
自分が考えた必殺技の練習をしていたところを
城で働くメイドに偶然見られてしまい
僕は生まれて初めて死にたいと思った。
僕はフォルテ。
フォルテ・ランデリア。
今年で10歳。一応、王子だ。
そしていつか本物の勇者になる男。
本物の勇者……それは本や人形劇に出てくるような
偶像のものではなく、実際に世界を救った英雄の事だ。
300年前…ご先祖様はその本物の勇者に会った事がある。
ランデリア王国の初代王様。
彼は勇敢な若者を勇者として任命し、悪と戦う力を授けた。
勇者は世界中で大活躍をし、ついに世界を脅かす魔王を倒したんだ。
僕はそんな伝説の勇者に憧れて10年間を過ごしてきた。
「ボルケーノインパクトスラッシュ!!」
伝説の剣(レプリカ)を振ると、
轟音を鳴らし剣先からマグマがあふれ出たような気がした。
「王子、
後ろからうるさい声が聞こえる。世話係のレベッカだ。
「レベッカ。勝手に入らないでっていつも言ってるよね?」
「ちゃんとノックはしましたよ」
「僕が良いっていうまでダメなんだけど」
レベッカはその大きな身体を身軽に動かしながら、散らかった部屋を片付けてくれている。彼女はいつもこうやって僕の面倒を見てくれる優しくておっかない女性だ。
レベッカはカーテンをシャっと開け、南向きの大きな窓をあけた。
「今日は良いお天気ですよ。午後からの乗馬訓練はさぞ気持ちの良い事でしょう」
「乗馬なんて必要ないよ。移動魔法で大陸から大陸へだって一瞬で行けるもん」
「そんな魔法があったらさぞ素晴らしいですね。ですが王子たるもの乗馬の一つくらい出来なくては恥ずかしいですよ」
僕はその聞き飽きた「王子たるもの」という言葉を聞いてとても苦い気持ちになった。
「王子になんてなりたくてなったんじゃない」
「まあ!王妃様が聞いたらとても悲しみますよ」
「なぜ母上が悲しむのですか」
レベッカは僕を見ながら少し考えると
「フォルテ様を愛しておられるからです♪」
と満面の笑顔で言った。
大人が言う事はいつも良く分からない。
こうやって色々と理由を付けて勉強や訓練をさせようとするのが、大人の悪いところだ。
それでも小さい頃から立派な王になるための勉強や訓練はこなしてきた。
でも僕はそれを勇者になるのための修行だと思ってやっているんだ。
「さあフォルテ様、洗濯を致しますのでパジャマを脱いでくださいまし」
「待てっ僕はまだ寝ていたい!」
すかさずベッドに飛び込み毛布をかぶった。
「伝説の剣を持ったまま眠るのですか?」
「………」
「風の魔法、ライトフウロ!」
レベッカはそう叫ぶと毛布を力いっぱいに引っ張り、僕を引きずり出した。
情けなくベッドの上で仰向けになり天井を見る。
光に反射した白い埃が、ゆっくりと宙を舞っていた。
今日も平和な一日が始まる。
――――――――――――――――――
朝食後、午前中は座学。
退屈だけどこれも勇者になるためだ。我慢しよう。
午後は乗馬訓練。
馬はうんちばかりするし言う事を聞いてくれないから好きじゃない。
でも勇者は格好よく馬に乗れなきゃいけないから、これも我慢する。
汗だくになりながら必死に馬に乗る練習をした。
そして夜。
「一体いつになったら、剣や魔法の修行をやらせてもらえるのだろう」
秋が近づくランデリア王国の風を受けながら、
僕は城の屋根の上に座っていた。
ここから見えるランデリア平原の景色はまさに絶景で、
満月が夜の静かな自然を青白く照らしている。
「このままでは、僕は剣も魔法も使えないダメ勇者になってしまう」
「フォルテよ、急ぐ必要はない。その内、なるようになっていくものだ」
この突然話しかけてきた人は僕の祖父。
つまり先代の王、マエスト・ランデリア
今は隠居してただの物知りなお爺ちゃんって感じ。
夜はいつもこうして、二人で屋根へ登っていた。
「おじいさま、僕は立派な勇者になれるのでしょうか」
「フォルテ、心配なのは分かるが未来ばかりを見てはならんぞ」
「分かっています。大事なのは今だと言うのでしょう」
「そうだ」
おじいさまは立派な白いひげを撫でながら優しく僕を見た。
「しかしフォルテよ、この世にはたくさんの職業がある。なぜそこまでして勇者になりたい」
「もう、この間も言ったじゃないですか」
おじいさまは本当に忘れっぽい。本当に王様だったのかな。
「幼き頃母上に読んでいただいた本…『勇者誕生』。その物語が僕の原点なのです」
「そうだったな、初代ランデリア王国で生まれし勇者の物語か…」
「はい、勇者ランド様は凄いんですから!僕はランド様のような強くて優しい勇者になりたいのです」
おじいさまは僕の頭に手を置き優しく撫でながらこう言った。
「フォルテや…お前はきっと強くて優しき者になれる、だから安心しなさい」
おじいさまはそう言うけれど、僕は別に強くて優しいひとになりたいんじゃない。
そう言い返そうとしたけど、おじいさまに撫でられている内に不思議と眠たくなってしまって、僕はおじいさまの膝の上で眠ってしまった。
まどろみの中でおじいさまが何かを言っているような気がしたけれど
僕にはそれが聞き取れなかった。
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