第3話・何者?

 ──結局、あのまま爺さんは俺の後をついて来た。「お互い住むところもない者同士仲良くしようや。老人は大切にしたほうが良いぞ」と訳のわらかない言葉で言いくるめられた俺は、何故か爺さんと行動を共にすることになった。


「なぁ。爺さん俺、そんなに金持ってないんだって。やるのは、絶対嫌だからな!」

 俺は時、金を創り出すことはやらないと決めていた。

 あんなことしたら人間ダメになっちまいそうな気がしたからだ。

 ちゃんと働いて稼がないとな!


「ん? それなら心配いらんぞ? 働いて金を稼げば良いのだろ?」

 爺さんは俺の顔を見ながらニヤニヤしている。

 また、何か企んでいるな? この顔は?


「失礼だなぁお主。ちゃんと働くぞ? お主がな!」

「なんだよ! 結局俺が働くんじゃねぇか!」

「心配するな。手伝ってやるから。ついて来い」

 そう言って爺さんがスタスタ歩き出す。

 老人を大事にしろ! とか言ってたくせに歩くの速ぇえし!

 絶対怪しいこいつ……。


「いいから、黙ってついて来い!」

「って、お前また人の心読んだろ! 今度やったら本気で殴るぞ!」

「ん? 出来るならな? フォフォフォフォフォ」

 そう言って笑い出す。

 本当にムカつく。 何でこんなじじぃと一緒に……。


 俺は仕方なく、爺さんの後をついて歩く。

 ──ん? 川? 何で川なんかに?

 そこは、草が生い茂ったごく普通の川原だった。


「着いたぞ。少年よ」

 爺さんが着いたと言った場所は、先程の川の下流付近の砂場になっていた場所だ。

 ここで仕事??

「こんな所で何をするんだ?」

「うーーん……」

 そう言って爺さんがキョロキョロと辺りを見渡し、少し歩いて行ったかと思うと、おもむろに足で地面をトントンと鳴らす。


「うん。ここじゃな。少年よ。ここをちょっと軽く掘ってみよ」


 は?


「いいから掘ってみよ!」

 掘れって言っても道具とか俺持ってないし……。

「ああ、道具なぞいらんぞ? 軽く掘るだけだから手でじゅうぶんじゃぞ?」


「だから! 心の中を読むなって言っただろ!」

「フォフォフォフォフォ。すまんすまん。なら? お主が心の中で呟くのをやめたら良いのじゃ」


「…………。」

 このじじぃ本当に殴ってやろうか……。


「いいから、さっさとやれ」

 むぅうーーー

 俺はちょっとムカついたが、仕方なく軽く地面を掘ってみた。


「ああ、そのくらいで良いぞ」

「え? もう終り?」

「それだけあればじゅうぶんじゃろうて。ちと待っておれ?」


 爺さんがそう言って、俺が掘った砂土に向けて手をかざした。



 ん?

 何やら光る? 土が光る?


「砂金じゃよ。金山がある地の川原の砂には微量ながら金が混ざっておるんじゃ。今からその砂金を儂が集めてやるから、ちと待っておれ」


 え?? 金山?? 砂金??

 金があるの? 砂の中に?


 爺さんが手を再びかざす。



 !!


 先程の砂がどんどん金色に変わっていく。


 嘘だろ? 

 俺の目の前に金色の砂山が出来た。



 ──この爺さんいったい何者?


「このくらいで良いかな。これだけあれば暫くは何とかなるだろ? さて、ここからはお主の仕事じゃぞ?」

 そう言って爺さんは、また俺を見てニヤニヤ笑う。


「え? 俺の仕事??」


「この砂金に向かって『変化』を唱えてみよ」

「え??」

「いいからさっさとやれ!」

 俺は言われるがまま唱える。


 ──変化!


 え?

 えええええええええええええ?


 うそーーーーーん?


「これなら、働いたから良いであろう? フォフォフォフォフォ」


 ええええええええええ!!

 俺の目の前に先程まであった金色の砂が……。



 ──金の塊の延べ棒になっていた。

 これって……良いのか?


「良いだろ? 砂から砂金を分離し塊にしただけだ。別に悪いことはしてないぞ? 山から鉱石掘るのが許されるなら、別に砂の中にある砂金を採って何が悪い?」

 そう自慢そうに言う爺さんを見て俺は言葉を失った……。


 え? 良いの? これ? 大丈夫なのか???


 まぁ。確かに山に行って鉱石を掘り当てた場合は、掘った人の物だよなぁ……山の持ち主が居ない場合は……。

 ここって川原の砂場だよなぁ? 川って誰の物だ?


「何をごちゃごちゃ言っておる? 流れている川の水を飲んで罪になるのか? 川原にある砂から混ざってあった金を取り出しただけだ。やりたいなら皆やれば良いのだ。フォフォフォフォフォ」



 やりたいならやれば良いって……そんなことみんな簡単に出来るわけないだろ。

 ……この爺さん何者だ?


「よし換金しに行くぞ! 早くせねば日が暮れてしまうわい! 急ぐぞ少年!」


 その後、俺は何となく、やましい気持ちを抱えたまま、爺さんに半ば強引に引っ張られながら、俺達は大急ぎで金塊を換金した。

 換金所の人にかなりジロジロと変な目で見られたが、そこは爺さんがうまく言い……なんとか換金出来た。


 やっぱりこの爺さん怪し過ぎだろ?

 にしても……。

 この金──

 俺はずっしりと重くなったリュックを、誰かに盗まれやしないか? と、ビクビクしながら抱きしめた。



「これだけあれば暫くは大丈夫であろう? フォフォフォフォフォ」


 暫くって……。

 これいくらあると思ってるんだよ……。



 


 はぁ……何か、凄い疲れた気がする。

 









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