第2話・俺ってもしかして大金持ち?

 ──目の前にいた猫が突然喋ったかと思ったら? 今度は老人に……。

 俺疲れてるのかなぁ……。


「違うわい! これが本来の儂の姿じゃ! 猫は……忌々しい。思い出しただけでも──。まぁよいそのことは儂が何とかするとして、少年よ。助けてくれて感謝する。助けて貰ったところ申し訳ないがのぅ、ちと腹が減ってのぅ……。昨日から何も食っておらんのじゃ。恩人のお主に言うのも何じゃが……ゴニョゴニョ……」


 俺の目の前に立つ老人が、何やら俺に話掛ける。

 変な人に絡まれるのはゴメンだな。これは早めに逃げるべきだな。

 俺はそのあまりにも怪しい老人の言葉を無視して、この場を早急に立ち去ろうとした瞬間。


「お主に一つ教えてやりたいことがあるのじゃがのう? お主のそのスキルについて」

 そう言って俺の顔を見てニヤニヤする老人。


「スキル?」

 思わず俺は口に出していた。

「ああ、儂の望みを叶えてくれれば、教えてやらんこともないぞ? フォフォフォフォッ」


 気にはなるが、いや、絶対怪しい……。そもそもアノ猫何処行った?

 俺は再び周りをキョロキョロと見渡すが、猫の姿はなかった。


 そもそも、猫が老人になるとか、あるはずがないわ。

 ちょっと考えればわかることじゃないか。

 元々この老人があの木の陰に隠れていて、たまたま近くに居た猫を俺が見ている隙に、この老人が出てきただけだったんだ。ハハハハハッすっかり騙されるところだったよ。

 こうして、旅人から金を騙しとる作戦か? 老いた老人の格好で……酷い奴だなぁ。


「おい、凄い想像力だなぁお主。勝手に儂を盗賊扱い、しよってからに。フォフォフォフォフォ」

 そう言って笑う。


「え? ちょっと待って? 何で俺の考えたことが分かるの? 爺さん?」

 俺、喋ってないよなぁ? 何でこのじじぃ分かるんだ?

「おい! じじぃ言うな!」

「え? 何で?」

 俺は訳がわからず首を傾げた。


「その程度、朝飯前じゃわ。何せ儂は神様じゃからなぁ。フォフォフォフォフォ」


「は? 神様?」

 出た出た……。この時期変な人出るんだよな……。もういい年なんだから、そう言うの止めればいいのに……。

「お主が信じるか、信じないかは、お主の自由じゃが儂が神様であることは間違いないぞ? フォフォフォフォフォ」

「あーー。そう言うの俺いいですから。宗教の勧誘とか要らないですから」

 俺は今度こそ、この場を立ち去ろうとした。


 ──歩き出そうとした瞬間!


 シュッ。


 え? 

 確かに俺は、その爺さんに背中を向けて反対に歩こうと一歩踏み出したはず……

 何で?

 ──何故か目の前に、先程の爺さんが、立っていた。



 え? 何で?


「フォフォフォフォフォ。あったのう? 少年よ?」


「ちょ? どういうことですか? 俺、金持ってないですよ? それに、貴方さっき言いましたよね? 助けたら、俺にお礼をするって? それなのに何ですか? これ? お礼はもういいですから。ついて来ないで下さい!」


「金が無い? そんなことはなかろうて? 『変化師へんげし』のお主ならいくらでも金なんか作れるだろうに? 何を言っておる?」


「は?『変化師』?」


「なんじゃ? お前自分のスキルについても何も知らんのか? そう言えば先程もなんか変なことを言っておったのぅ……『変化へんか』とか? 言っておったか?」


 え?「変化師へんげし」? 何それ? 「変化へんか」じゃないの? 俺のスキルって?


「まぁ良い。ならば金を出してみよ」


 え? そう言って俺から金を盗もうとしている? やっぱり怪しいこの爺さん!


「誰が盗人じゃ! そんなセコイことせんわい!」


 だから……何で考えてることがわかるんだってば!


「神様だからだって言うておるじゃろうが!」


「その手にはのりませんよ? 俺? 宗教の勧誘とかも要らないですし!」

 俺は、背負っていたリュックを胸にギュッと抱きしめ、絶対に盗まれまいと思い、爺さんを睨んだ。


「いいから、やってみろって! 全部出せなぞと言うてはおらんだろう? 1枚だけ金を出してみろ。そして『変化へんげ』と唱えてみるがいい。そうすれば、そのスキルがわかるから」


 え? 何それ?「変化へんげ」と唱えるだけでいいのか? 

 俺はじっと、その怪しい爺さんの顔を見る。爺さんは俺の顔を見て笑顔で頷いた。


 俺は念の為、一番安い1ギル硬貨を、バッグの中の財布から取り出した。


「その硬貨を見て『変化へんげ』と唱えてみよ!」


 俺は爺さんの言葉を聞き、慎重にその硬貨を持ち、じっと眺めながら唱えた。


 ──変化!


 チャリン──


 は?

 ええええええええええええええええ??


 嘘だろ???


「それがお前の持つ『変化師へんげし』のスキルじゃよ」


 はああああああ?

 1ギル硬貨が、銅貨に?

 俺の1ギル硬貨何処行った? えええええええ?


「少年よ、今、手にしておるその銅貨に再度『変化へんげ』を唱えてみよ」


「え?」

 俺が驚いた顔をして、爺さんを見ると、またもや爺さんが俺に無言で頷いた。

 俺は爺さんに言われるがまま、再び唱える。


 ──変化!


 チャリン──


 は?

 え??

 今度は銅貨が銀貨に変わった。


 ちょ? これヤバくない? 

 やったらダメなやつじゃないの???



「まぁ金を勝手に鋳造するのはな、ちとな? まぁ1枚ぐらなら良かろうて? フォフォフォフォフォ」


 えええええええええええええええ?

 笑ってるし、この爺さん……

 ダメだろう????


 って1ギル硬貨が何で、銀貨になるのさ!

変化へんげ」??? 何それ???

 思わず、俺は辺りを見回した。

 誰にも見られてないよな?

 これヤバイやつじゃね?

 



「これで分かったろ? お前のスキル『変化師へんげし』とは、そう言うスキルじゃ。元の物質を変化へんげさせることが出来る『変幻自在』のスキルじゃ。まぁ金を生み出すのは、ちと? 控え目にのう? フォフォフォフォフォ」


「はあああああああ? なんじゃそれれえぇええ!」


「で、申し訳ないがのう。受講料として、1枚金貨作ってくれぬかのぅ? 少年よ?」

 目の前の老人は頭を掻きながら俺に小声で言ってくる。


「はあああ? 何言ってんのさ! そんなのダメに決まってるだろ!」


「お主、意外と真面目よのう?」



「そう言う問題じゃない! 勝手に金貨とか…………ダメだろ……」




 ──もしかして俺って働かなくても大金持ち?


「まぁそう言うことになるかの? でも金を作るのは程々じゃぞ? どうしても困った時だけにするんじゃぞ?」


「だーーかーーら! 何で俺の心の中分かるんだってば!」


「神様だからって言うたろ?」


 絶対怪しい、この爺さん……





 ──「って、何で俺について来るんだよ! 爺さん!」

 さっきからずっと、俺の後をついてきやがる。このじじぃ……。

「ん? お主一人じゃ危なっかしいからのう?」


「違うだろ? アンタ俺の、このスキル狙ってるだろ? 絶対作らないからな? 金は!」

 怪しすぎだろ、このじじぃ……。


「まぁ堅いこと言わずに……」

「絶対作りませーーーーん!」


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