"無能"と言われ追放された俺は『何でも形を自在に変えれる』【変化師】スキルで世界初の"戦わずして最強"に〜あ!師匠はメル友の『神様』ですけど~

蒼良美月

第1話・神様?拾いました

 ──とある屋敷の一室。

「出て行けぇーー! お前のような役立たずなど必要ないわ! この、ガークハイム家の面汚しが!」

 鬼の形相で俺を殴り倒したこの男。そうこれが俺の父である、ジェールズ・ガークハイム。ガークハイム家当主、ちなみに伯爵だ。


 名門ガークハイム家の長男として生まれた俺は、跡継ぎとして両親だけでなく、屋敷内で働く使用人や、領民達にも将来を期待されていた。

 

 幼少時より次期当主として、礼儀作法や、読み書き、算術は勿論のこと、歴史や法律などあらゆる教育を受けてきた。「お前は、成人したら『魔導師』のスキルを授かって優秀な魔導師になるんだからな」これが、父が俺に毎回言うセリフだった。


 魔法を使える者は沢山いるが『魔導師』は別だ。『魔導師』は凄まじい魔力量を有し、その威力は通常の魔法を使える者とは桁違いだ。その『魔導士』を俺の生まれ育ったこのガークハイム家は、代々輩出している国内有数の名家だった。俺の父であるガークハイム伯爵も『魔導師』であり「宮廷魔導師団」の副団長を務めていた。


 ──そんな俺が15歳の成人となり、皆の期待を一身に受けた「成人の儀」で授かったジョブスキルは──


 ──「変化へんか」だった。

 何だこれ? と思うでしょ? ですよね。俺にもさっぱりわかりません。

 もはや、ジョブですらないし……。

 

 代々優秀な『魔導師』の家として、国内でも知れ渡っているガークハイム家ですらこの「変化へんか」なんてスキル誰一人聞いたこともなければ、見たこともないと口を揃えて言った。

 

 勿論、魔導書や、魔術に関するあらゆる書物を調べたが、俺の授かったこの「変化へんか」なんて文字は一言も載ってなかった。



 ────その結果。

 俺は晴れてめでたく家を追い出され、今日から華々しい無職デビューとなりました。


 どうしましょうかねぇ? これから。家から「手切れ金」として持たされた金は、たったの1万5千ギル。

 これじゃぁ宿屋にも泊まれそうにないよな……。

「腹減ったなぁしかし。でもこれからどうやって生きていこう? 取り敢えず仕事探さないとなぁ。はぁ……」

 俺はトボトボと町の外れに向かって歩き出す。

 領内に居ては俺の顔を知っている者もいるだろうし、どうせ追い出されたならガークハイムとは関係ないところで俺は生きていく。


 乗合馬車に乗り、俺は少しでも早くこのガークハイム領を離れたかった。少ないお金を使うのは少々痛かったが、それでも俺は誰も俺のことを知っている人が居ない町へと急いだ。

 逃げるように故郷を出てきた俺は、決意を新たにした。

 俺はそこで新たな人生をやり直す!



 所持金の問題で、俺の逃避行は二つ離れた町で呆気なく終わってしまったが、まあそれも仕方ない。

 広大なガークハイム領を脱出出来ただけでも上出来だ。

 俺は初めて見る町並みをキョロキョロと見渡す。

「金もないし野宿かぁ……まぁ仕方ないかぁ」

 取り敢えず今日は野宿を覚悟した。

 明日にでもギルドに行って仕事探さないとなぁ。

「水があるほうがいいしなぁ。腹減ったなぁ……」

 少なくなった金を見る。

「仕事かぁ……」



「おい、少年、そこの少年よ!」


 ん? 声? 

 キョロキョロ周りを振り向くが誰も居ない。


「気のせいか?」


「気のせいではない。少年よ! 止まれ! 儂を助けてくれんかの?」


 ん? 誰? 

 もう一度辺りを見渡すが、誰も居ない。

「やっぱり気のせいか……」

 そう思い俺は先に進もうとした。


「おい! 行くな! ここじゃ!」


 ボンッ!


 ぇ?  猫?


「やっと見つけたわ『変化へんげ』を持つ者を。長かったわ。おい、儂を助けろ!」


 ええええええええええええええええ

 猫が喋った!!!!!

 嘘おおおおおお!!


 ねこ? え? 何で?


「説明は後でする! 取り敢えず儂を元の姿に戻してくれ。お主の『変化へんげ』で!」


「ね、猫が喋ってる…………。嘘ぉーーーー助けてぇええーーーー」

 信じられないこの状況に俺は足が震え、急いで逃げようとしたが脚に力が入らず、そのまま地面に座りこんでしまった。


「ね、猫が……猫が喋ってる……とうとう俺は目までおかしくなったのか。いや? おかしいのは耳か?」

「あああ! もう! 焦れったい奴じゃのぉ! 説明は後からするから、取り敢えず儂を『変化へんげ』で元に戻してくれ! そしたら全て説明してやるから!」


「……やっぱり頭がおかしくなったのかも……やっぱり俺は父上の言う通り無能なのかもな。猫が喋るだなんて……あるわけがない。追い出されたことのショックでついには頭もおかしくなってしまったのか。この先どうやって生きていけば……」


 俺はだったことを忘れて、その場を立ち去ろうとする。

 すると再度声が。


「少年よ。儂を助けろ! そうしたら必ず礼はすると約束する。だから頼む!『変化へんげ』で儂を元の姿に戻してくれ!」


 ん? 『変化へんげ』? 『変化へんか』じゃなくて??


「少年。そうだ! 儂に向かって『変化へんげ』と唱えてみよ! さすればお主の力が発揮されるはずじゃ!」


 え? 『変化へんげ』なの? これって??


 俺は『変化へんか』だと思って『変化へんか』と唱えていた。だが、何も変わることもなく、何も起こらなかった。それを父上に報告すると、アレだ……。ガークハイム家の面汚しだと激怒され、屋敷を追い出された。でも『変化へんげ』だったとしても、父上のような『魔導師』でない俺は結局は、追い出されることになっていただろう。


「少年。その話は後で説明してやる! 取り敢えず儂に向かって『変化へんげ』と唱えてみろ! そうすればわかる!」


 え? 猫がまた喋った??

 やっぱり俺頭おかしくなったんだな……。

 まぁ取り敢えず、間違えだったのかもだから一回やってみるか?


 そう思い俺は目の前の猫に向かって呟いた。


 ──「変化へんげ



 ──ボンッ!



 え?


 ええええ?


 えええええええええええええええええええ


 なんじゃこりゃあああああああああ!



 俺の目の前に、さっきまでいた猫が突然消えて、目の前に、見たこともない老人が立っていた。



 ──やっぱり俺、頭もおかしくなったわ……。

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