第2話 デートと彼女の家

 悠輝が柏原沙織という一人の女性と逢引の約束をした日から数日後の日曜日。

 

 悠輝は彼女との約束を守るため、待ち合わせ場所へ向かっていた。

 

 待ち合わせ場所は駅前にある噴水の前。時刻は午前九時ちょうど。

 

 現在の時刻は8時半。まだ時間には早いが、早めに着いておきたかったのだ。

 

(それにしても……)

 

 先日の出来事をふと思い出す。

 

 あれからというもの、毎日のように彼女の夢を見ているような気がする。

 だけど起きた時にはもう覚えてなくてもどかしい。

 

 そんなことを考えながら、悠輝はすこし足を早めた。

 

―――――

 

 駅前に着いたものの、人混みの多さに少しうんざりしてしまう。

 休日だから仕方ないとはいえ、もう少しどうにかならないものだろうか? そんなことを思いつつ噴水の前に目を向けると、そこにはすでに彼女が待っていた。

 

「早くないか?」

 

 そう言いながら彼女へ近づく。

 

 彼女はこちらを振り向くと、少し驚いたような表情を浮かべる。

 

「私から誘ったのに遅れたら申し訳ないからね。にしても、今日は髪整えてきたんだね?」

 

「まあ、柏原さんの隣に立つからには最低限の容貌は必要だと思ってな。それに同校のやつにバレないようの変装でもある」


 今日の柏原は淡い水色のトップスの上に白いカーディガンを羽織り、下はデニムのスカートを履いている。

 悠輝からすると普段は制服姿しか見ていないから新鮮だ。


 それに対して、悠輝は髪をワックスで整えて、シンプルな服を着ている。だか、長身な悠輝にはよく似合っていた。

 

「それで今日はどこに行くんだ?」

 

 とりあえず悠輝が話題を振る。

 すると彼女は楽しげな表情で行き先を告げた。


「水族館」


―――――


 待ち合わせ場所から電車で二駅。二人がやってきたのは近くの有名な水族館。


 水族館は中々の盛況ぶりだった。

 

 二人は館内に入ると順路に沿って歩いていく。

 

 魚たちの優雅な姿を眺め、時折写真を撮ったりしながら進む。そしてお目当てのクラゲコーナーにやってきた。

 

 そこには大小様々な水槽があり、色とりどりのクラゲたちが泳いでいた。

 

 その光景を見て、思わず感嘆の声を上げる二人。

 

「うわぁ……。すごい綺麗……」

「すごいな……まるで宝石みたいだな」

 

 そうしてしばらくクラゲを鑑賞した二人は、そろそろお昼時になっていることに気づいた。

 

「どこかご飯食べれるところ探さない?」

「そうだな」

 

 二人で館内マップを見ながら、レストランを探していく。

 すると、ある店が目に止まった。

 

「ここなんてどう?」

「いいんじゃないか? ここにしよう」

 

 二人が入った店はイタリアンのお店で、店内は白を基調とした清潔感のある内装になっていた。

席につくとメニューを開く。

 

「何食べる?」

「俺はパスタかな」

「じゃあ私はカルボナーラにしよっと。すいませーん!」

 

 柏原が店員を呼ぶと注文を始める。

 しばらくして運ばれてきた料理を食べ始める二人。


「美味いなこれ」

「うん! こっちもすごくおいしいよ」

 

 お互いに満足げに食事を進める。

 すると、柏原が思い出したように口を開いた。

 

「ねえ、今日この後なんだけどさ、私の家に来ない? 夜ご飯準備してあるのよ。食べて欲しいの」

 

 突然の誘いに戸惑ってしまう。断ろうとしたが、準備してあるのならしょうがないと思い、悠輝は承諾することにした。

 その後、食事を済ませた二人は店を後にし、デートの続きを楽しんだ。

 

――

 

 時刻は午後六時半過ぎ。柏原の家に着いた二人はリビングのソファーに座っていた。

 

「適当に寛いでて〜」

 

 と言い残して、彼女はキッチンの方へ向かっていった。

 

 それから数分後、テーブルに次々と料理が並べられる。

 

「これはまた随分と豪勢だな」

「頑張っちゃいました」

 

 目の前にはビーフシチューやサラダなどたくさんの料理がある。

 どれもこれもとてもおいしそうな匂いを放っており、今にも腹の虫が鳴り出しそうだ。

 

「それでは手を合わせていただきます!」

「いただきます」

 

 まずはビーフシチューを一口食べる。肉は柔らかく、濃厚な味が口の中に広がる。

 

「うまっ……」

 

 あまりの美味しさについ声が出てしまう。

 

「よかったわ。口に合って」

 

 そう言って笑う彼女。その姿はとても嬉しそうだ。

 その後もお互いの近況を話したりしながら楽しく夕食を過ごした。

 だが、その時に彼女が少し硬い表情をしているのが少しだけ気になった。

 

――

 

「ごちそうさまでした」

「お粗末様です」

結局、出された料理を全て平らげた悠輝。

かなり量があったはずなのに、ほとんど完食してしまったのだ。

「いや、本当にうまかったぞ。特にこのハンバーグは絶品だったな」

「ふふっ、ありがとうね」

その時、悠輝が眠そうにあくびをする。


「眠いの?」

「あぁ、なんかとても眠い」

「ふふっ寝てもいいよ? ソファもあるし」


 彼女がソファを指差しながら言う。


「いや、流石にそれはまずい。そろそろ帰るわ」

「待って! 眠い状態で帰ったら危ないよ!」


 悠輝が帰ろうと立ち上がると、彼女が悠輝の手を掴む。

 そして、少し必死げに悠輝を呼び止める。


「あれ、なんだ? 急に意識が――」


 急に眠ってしまって、崩れ落ちる悠輝を彼女が抱き止める。


「ごめんね、許して」


 そんな言葉をこぼしながら。

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