第78話 覚醒 


 擬似覚醒状態”になるために腕輪を6つ装着するが、何も起こらない。

確かに腕輪から力は流れてくるが特段、覚醒したような感じはない。



「おい!何も起こらないぞ!?」



俺のその言葉に全員が絶望している。



「な、何も起こらないって・・・腕輪を6つ着けたら”覚醒”できるんじゃないんですか!?」



東雲が仙撃に言う。



「鳴神ならいけると思ったんだが・・・」



仙撃が呟く。



「もしかして覚醒には何か条件があるんじゃないですか?ただ能力を腕輪で増強するだけでは・・・」



 國咲が何か言っているが、

覚醒できない焦りから耳に入ってこない。

全身に力を込めるが意味はない。



「ダメだ!何も起こらない!」



 どれだけ力を入れてもダメだ。

腕輪からもこれ以上何も感じない。

俺じゃ無理なのか?



「東雲くん!」



 三島が叫んだ方を見ると、

東雲が地面に膝をついていた。



「能力を長時間使いすぎました・・・”不可侵領域”も、もう長く持ちません・・・」



 東雲が苦悶の表情でそう呟いた。

全員に焦りが見え始める。


 ミツカミサキの攻撃は止まらない。

このまま東雲の”不可侵領域”が解除されれば勝ち目はない。

全員、死ぬ。


 俺のせいだ。

みんな俺を信じて腕輪を託してくれたのに、何もできなかった。



「鳴神、もういい!ミツカミサキを倒すことは諦めよう!腕輪を全員に戻して逃げるんだ!」



覚醒することを諦めて腕輪をみんなに渡そうとした時、



「諦めるんですか?」



國咲が横から言った。



「・・・諦めよう。俺は覚醒できるような能力者じゃなかったんだ」


「C組全員で上のクラスに上がるんじゃなかったんですか!?諦めてどうするんですか!」


「そんなこと言ったってできねぇんだよ!」



場が静まり返る。



「お、おい!もう時間がないぞ!?」



仙撃が言う。



「あなたはすぐに諦める人間なんですね!そんなんじゃC組全員で上がるなんて夢のまた夢ですよ!」



何も言い返せない。



「あなたを信じて私としずくちゃんは今までついてきたんですよ!それは王様ゴールの時だってそうじゃないんですか!?C組のみんなはあなたを信じてA組に立ち向かったんでしょ!?」



國咲の熱が上がっていく。



「私を助けてくれたカッコいいあなたはどこに行ったんですか!」



 その言葉が強く突き刺さった。

思えば自分を特別だと思っていたのかもしれない。

俺はA組の実力があるって。

ただ、手違いでA組に入れなかっただけだって。


 だからC組から上のクラスにすぐ上がれるって自信があった。

もしかして心の奥底ではC組のみんなをバカにしてたんじゃないか?

俺とは違うって。

負の感情が流れ込んでくる。

強い劣等感を感じ、頭に血が上る。


 今までの思い出が走馬灯のように駆け巡る。

王様ゴールでA組から1点取ったこと、中間試験で國咲としずくちゃんとこの世界を生き抜いたこと。

みんないつだって俺を信じてついてきてくれた。


 自分に対する悔しさとC組に対して見下していた自分が嫌になる。

いつの間にか、涙が一滴落ちた。

涙は手のひらに落ちて消えていった。

瞬間、全身が燃え上がるような感覚に襲われた。

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