第47話 赤髪の少女 



 しずくちゃんと2人でもう1人のチームメイトを探す。

すでに3人集まっているチームも多く、

自己紹介や互いの能力を確認し合っている声が聞こえる。

まだ合流してない人に片っ端から声をかけるが遭遇できない。



「とらのよんですか?」



 しずくちゃんは見ず知らずの人にも躊躇わずに声をかける。

普通このぐらいの歳の子なら恥ずかしがりそうな気もするけどな。



「見つからないねー」


「ねー」



 一回先生に聞いてみるか?

もしかしたら紙の配り忘れとかかもしれないしな。



「あっ!あのひとかな?」



 ほとんどの生徒が既にチームで集まっている中、

しずくちゃんが闘技場の端の壁にもたれかかっている赤髪の女の子を見つけた。


 目を瞑って腕を組んでいる。

遠くからでも明らかに話しかけづらい雰囲気が伝わる。

ああいう子は積極的に協力してくれなさそうだな。


 しずくちゃんは俺を引っ張ってその子の方へずんずん進んでいく。

早くチームメイトを見つけたい気持ちとあの子じゃありませんようにという気持ちが混同していた。



「おねえちゃん、とらのよん?」



 しずくちゃんが話しかける。

すると女の子が気だるそうに目を開けてスッと紙を前に出した。

紙には俺としずくちゃんと同じ、寅ノ四と書いてあった。

まじか、この子かよ。



「おなじだ!わたしたちちーむおなじ!」



しずくちゃんは女の子のダルそうな雰囲気など気にせずに飛び跳ねて喜んでいる。



「わたしは2ねんBくみのたかなししずく!しょうがくせい!ほら、ひゅうがも!」



しずくちゃんは俺のことをもう下の名前で呼んでいる。



「俺は高2のC組。君は」


「A組、中2です」



 質問を言い終わる前に言われた。

それも素早く淡々と。


 やっぱA組って気難しい奴が多いな。

それに中2なんて思春期真っ只中だし。

これは打ち解けるのが大変だぞー。

心の中で覚悟を決める。



「そっか!じゃあこれから6日間よろしくね!」



 俺なりに頑張って元気よく女の子に向かって言った。

しかし女の子からの返答はない。

女の子は退屈そうに爪をいじっている。

ま、まあ最初はこんなもんだよな。


 よし、ここは年長者の俺が話を弾ませないと!

そうだ!この子の名前をまだ聞いてない!



「そういえば」


「國咲未来」


 

 俺が質問する前に答えを言われた。

え?なんで俺が名前を聞くってわかったんだ?

なんか俺が聞くことがわかってるみたいだな。



「くにさきみく!すっごくかわいいなまえだね!」


「うん、ありがとう」



國咲という少女がしずくちゃんに軽く笑って答えた。



「うんうん!いい名前だな!」



 俺もしずくちゃんと同じように言ったが、

國咲は俺のことをギロッと睨んだ。

え、ちょっと待って!?もしかして俺だけ嫌われてる感じ!?

なんで・・・まさか男嫌いとか?


 しずくちゃんが國咲に抱きついている。

國咲も嫌がる様子はない。

俺も距離を縮めないと!



「そっか!じゃあみくちゃんって」


「気持ち悪いんでやめてください」



 うっ!距離の詰め方を間違えた!

すると、國咲の顔が曇り始める。

そしてそっぽを向いて呟いた。



「なんで私がC組と・・・」



 俺の心がボッキリと折れた音が聞こえた。

ダメだ!俺には無理だ!

この子はガチガチの年頃の女の子だ!

それにとんでもない能力至上主義者だ!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



心が折れたまま、先生たちがいる場所に集まる。



「よーし、全部のチームが集まれたな。じゃあ今からスタートするんだが、これが今回お前たちに集めてもらう腕輪だ」



 すると全校生徒の前に立つ先生がポケットから腕輪を取り出した。

腕輪は金色でギザギザのデザインに大きく輝く宝石が飾られていた。



「もう一度確認だが、この腕輪を3つ集めてゴールしてもらう。腕輪は架空世界の様々な所に存在する。頑張って探し出すように。じゃあ先生お願いします」



 するとその先生の後ろから違う先生が出てきた。

手を太極拳のように大きく動かして何かをしている。


 ハッ!とその先生が決めポーズをした瞬間、

目の前にボワッと大きなワープホールのようなものが出現した。

おぉ!と歓声の声が生徒からあがる。

これが架空世界に繋がってるのか?

ワープホールの奥は眩しく光っている。



「スタート位置は各チームで全然違う。だから、はぐれないようにチーム3人で手を握って中に入るように」



マジか。



「てをつなぐだって!」



 しずくちゃんは嬉しそうにバッと俺の手を握った。

そして國咲に言った。



「ほら!ひゅうがとみくも、てをつないで!」



 しずくちゃんが曇りない笑顔で手を繋ぐように催促する。

國咲が俺を見る。

あからさまに嫌そうな顔をしている。 


 すると國咲は俺を避けてしずくちゃんを真ん中にして手を繋いだ。

まあそうだよな〜。

しずくちゃんが不思議な顔をしている。



「い、行こっか!」



変な空気を変えるようにワープホールの方向に引っ張った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 目の前の大きなワープホールがある。

生徒たちがチームで手を握ってどんどんと入っていく。


 いざ始まるとなると、少し不安な気持ちになる。

昨日までは全然不安なんてなかったのに。



「ひゅうが、どきどきしてる?」



 しずくちゃんが俺の顔を下から覗き込んでくる。

子供だから感情が伝わりやすいんだろうか。



「うん、めっちゃしてる!でも大丈夫だよ!何かあったら俺が守るから」


「たよりなーい!」



 しずくちゃんが言った。

このチームで一番立場が低いのは完全に俺だ。



「じゃあ次のチーム」



 いよいよ俺たちの番だ!

ワープホールの前まで進む。

眩しい光が中から溢れている。



「ちゅうかんしけんがんばるぞー!」



 しずくちゃんの可愛い掛け声とともに3人で手を繋ぎ、

光が漏れる空間に足を踏み入れた。


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