第46話 青髪の幼女


 いよいよ中間試験当日。

王様ゴールを行った演習場の横にある闘技場に学園の全校生徒が集められた。


 闘技場に入ると、すでに多くの生徒が集まっていた。

お椀のような形の円形闘技場で、

中心の平べったいコンクリートの床を取り囲むように席が広がっている。


 小中高合わせて全校生徒およそ1000人ほどだろうか。

これが全員能力者だと思ったらちょっと怖いな。


 奥の方には小頭部の子達が集まっていて、

わーわー騒いでいる。

担任の先生が鎮めるのに手こずっている。



「各自クラスごとに集まって座って下さい」



 見たことのない先生が声を出して生徒に呼びかけている。

闘技場の中心には先生が大勢。

もちろん我らがC組の担任の三田寺先生もいる。


 

「いやー、ワクワクしてきたな」



 まるで運動会が始まる前のような感覚だ。

そんな感想を述べながら自分たちの席に着席する。



「僕も不安だったけど闘技場に来たら楽しみになってきた」



隣に着席している流星が言う。



「チームを組むのは小中の子とかなのか。難しい年頃だからなー」



 チームは小中高それぞれ完全ランダムで、

もしかしたら年上の人と組むかもしれないし小学生2人と組むかもしれない。



「小1の子とかとペアになったらどうしよう。私、ちゃんと守ってあげられるかな」



神藤さんが不安そうにしている。



「大丈夫だって!」



根拠のない自信で神藤さんを励ます。



「それでは今から一人ずつチームが書いてある紙を渡します」



 アナウンスとともに先生たちが動き出す。

先生たちが散らばっていき、小さな紙を持って生徒に配っている。



「でも同じチームにはなれないもんね」



流星が言う。



「ABC組一人ずつだしな」


「A組の人と上手くやれるかなぁ」



神藤さんが言う。



「大丈夫だって!」



 またまた根拠のない自信で励ます。

確かに王様ゴールの経験からA組への恐怖感はある。

でもA組にだって話のわかる良いやつもいるしな。

天使とか。


 先生が紙を配りに近くまでやってくる。

知らない先生だな。

小等部か中等部の先生だろうな。

順番に紙を配っていき、俺の前に先生が来た。


 するとその先生は紙を手渡したが、俺の顔を見て動きが止まった。

ジーッと俺の顔を見ている。

な、なんだ?



「あなたが鳴神日向です、か」



見ず知らずの初対面の先生が俺の顔を見てそう言った。



「え、あ・・・はい」



 その先生はしばらく俺の顔を見つめた後、

サッと紙を渡して行ってしまった。



「今の先生、なんで日向くんの事知ってたんだろうね」


「鳴神くん、あの先生と会った事あるの?」


「うーん・・・ないと思うけどなぁ?王様ゴールの件で有名になったからかな?」



多分そうだろうな。



「あ、そういえば紙」



配られた紙を見てみると、



ー 寅ノ四 ー



と書いてあった。



「なんだこれ、これがチーム名なのか?」



流星の紙を見ると「申ノ二」、神藤さんは「亥ノ五」と書いてあった。



「日向くんは寅なんだね。神藤さんは・・・亥?寅とか申って動物だね。それに数字の組み合わせ」



 流星の言う通り動物と数字の組み合わせだな。

まあ特に意味はない、チーム分けのためだけのものだろう。



「それでは紙に書いてあるチームの場所に移動してください」



 すると下に居る先生たちがプラカードを持って掲げる。

プラカードには動物の名前が書いてある。

子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥。

これって十二支か?

闘技場の席に座っていた生徒たちが立ち上がって下に移動し始めた。



「じゃあ行こっか!鳴神くんも白川くんも頑張って!」


「うん!日向くんも神藤さんも頑張って!」


「おう!」



 2人に別れを告げる。

6日間のお別れか、2人とも成長して帰ってくるんだろうな。


 よし、俺も行くか。

俺は寅だよな。

それぞれのプラカードの前には生徒が集まって、

数字を声に出しながら自分のチームメイトを探している。



「寅ノ四、寅ノ四・・・」



 そう呟きながら寅のプラカードの近くに立って自分のチームメイトを探す。

紙を見せながら歩くがなかなかチームメイトと出会うことができない。


 すると突然、後ろから軽くズボンを引っ張られた。

もしかしてチームメイトか?

足を止めて振り向くが誰もいない。

ん?


 目線を下に落とすと、

俺の腰ぐらいの身長の小さな女の子がズボンをチョンと掴んでこちらを見上げていた。


 空色のボブにパチクリとした長いまつげ。

子供っぽい可愛い子だな。

もしかして・・・



「おにいちゃん、とらのよん?」



 軽く首をかしげながら聞いてくる。

可愛らしく守ってあげたくなるような声だ。

この子、俺のチームメイトか?



「そ、そうだよ!えっと・・・君も?」



 しゃがみこんで目線を合わせ、

紙を女の子に見せる。

するとハッと嬉しそうな顔をした。



「うん!わたしもとらのよん!」



 女の子はチームメイトだとわかって安心したのか俺の胸に飛び込んでギューッとハグしてくる。

子供だからか距離感がバグってる。


 あぁ、なんか親になった気持ちだ。

ついつい親心が芽生え、頭を撫でてあげる。

もっと撫でて欲しいのか頭を手のひらに擦り付けてくる。

よし、この子は俺が死んでも守ろう。


 ふと我に帰ると、こいつ小さい子に抱きついているという周りの痛い視線に気づいた。

慌てて立ち上がって平然を装う。



「じゃ、じゃあもう1人のチームメイトを探そっか!」


「うん!」



 無邪気で元気な返事が返ってくる。

チームは3人だよな。

女の子は俺の手を握り、俺を引っ張って歩き出した。

楽しそうにどんどん進んでいく。

小さな空色の髪の女の子は握っている俺の手をブンブン振っている。



「名前聞いてもいい?」


「2ねんBくみの、たかなししずく!しょうがくせいだよ!おにいちゃんは?」



 小学2年生か。

っていうことはまだ8歳とか?

当たり前だけどめちゃくちゃ子供だな。

っていうかこんな子がサバイバルするなんて危険すぎないか?


 それにB組ってことはもう1人はA組か。

もう1人も優しくて話し合ってくれる子がいいな。



「俺は鳴神日向!高1のC組!」


「Cくみ!よわいのうりょくのひとたちだよね!」



 グサッとひどいことを言われた。

でもしずくちゃんは悪気がなさそうにキラキラした笑顔で俺を見つめている。



「そうだよ〜能力弱いけどやる気はあるよ!」



 グッ!とガッツポーズをするがしずくちゃんは無視して進んでいく。

あぅ・・・素直で元気な子だな。

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