第二章 中間試験 縦割りサバイバル編

第45話 中間試験


 入学してからもう一ヶ月。

5月に入って新生活にもすっかり慣れ、

慌ただしかった学生生活も落ち着いてきた。


 先日行われた王様ゴールも、もはや懐かしく感じる。

王様ゴールは学園の高校1年生がクラスの仲を深めるために行う伝統行事。

俺たちC組は格上のA組とB組にボコボコにされながらも最後まで戦い抜いた。


 最終試合ではA組から1点獲得することができた。

王様ゴールでC組がA組から得点したことは史上初で、

俺は巧妙な作戦、統率力、類稀なる能力が認められてMVPに選ばれた。


 MVPに選ばれて”昇格権”を獲得したのだが、それを辞退した。

理由は俺一人だけじゃなくてC組のみんなで頑張ったと思ったから。

それにC組のみんなで上の組にあがりたいと強く感じた。

今でもその思いは変わらない。


 あれから俺は学園内でちょっとした有名人になってしまった。

なんせMVPを辞退するバカなんていないからな。



「鳴神!」



 席に座っていると後ろから誰かにガッ!と肩を組まれる。

仙撃だ。

”衝撃”の能力者、王様ゴールでもチームの士気を上げ、隣で俺を支えてくれた。



「そろそろ中間試験の時間だな!」


「え、もうそんな時期か」



 中間試験。

まさかまた王様ゴールみたいなイベントでもするのか?



「中間試験って何か特別なことでもするのか?」


「当たり前だろ、ここは異能学園だぜ?」


「まあそうか。普通のテストってはずないもんな」



 すると、ガラガラと扉が開いて三田寺先生が教室に入ってきた。

今から帰りのHRの時間だ。



「おっ!ちょうど先生が説明してくれるんじゃねーか?」



 先生の「席につけー」という声とともに仙撃は自分の席に帰っていく。

先生が教壇に立ち、持っているものを雑に置く。



「みんないるな。えー、いきなりだけど来週から中間試験です」



仙撃の言う通り中間試験の話だ。



「早速だが説明するぞー。中間試験は筆記試験と実技試験がある。先に実技試験を行なってから数日後に筆記試験だ」



やっぱり何か特別な試験をやるんだな。



「とりあえず中間試験の概要が書いてあるプリントを配るから」



先生がプリントを持って配り始める。



「今回の試験は厳しいぞー」



配りながら不安を煽ってくる。



「先に言うが、中間試験の内容は”縦割りサバイバル”だ」



 縦割りサバイバル?

サバイバルはわかるけど、縦割りってなんだっけ。

プリントが手元に来る。



「各自プリントに目を通してくれ」



 先生が黒板に腕を組んでもたれかかった。

これは寝るな。

案の定目をつぶって寝始めた。

怠惰な勤務態度を横目にプリントを確認する。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



中間試験内容 「縦割りサバイバル」



概要



・場所は能力で作った架空世界の中

・架空世界内は1つの市ほどの大きさで、中には村・海・山・砂漠など様々な自然環境が存在する。

・メンバーは小中高合同の学園全校生徒で、3人でチームを組んで試験を行う。

・編成はA組B組C組から1人ずつの完全ランダム。



例1  A組:小3 B組:中2 C組:高1

例2  A組:高3 B組:小6 C組:小1



目標



「チームで協力して腕輪を3つ集め、ゴールに向かう」



・腕輪は架空世界内のどこかに存在する。

・腕輪の数は限られており、全チーム分は存在しない。

・期間は6日間。

・金銭の支給なし。

・他チームとの協力や他チームの腕輪の強奪可。

・成績は期間内の行動や獲得した腕輪の数を見て採点される。

・腕輪を3つ集めてゴールすれば成績大幅アップ。



要注意事項



「架空世界内に1体のみ存在する”神獣”を倒せばチーム3人分の”昇格権”を与える」



・災害級の強さのため、むやみに手を出さないこと。

・能力の扱いに自信があり、覚悟を持った者のみ挑むこと。

・架空世界で死亡すると実際に死亡することを忘れないこと。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 一通り中間試験の説明を読み終わったが、

気になるところが多すぎる。



「質問あるやついるかー?」



みんなが読み終わったタイミングで先生がだるそうに目を開け、黒板から体を離した。



「あの、お金の支給なしってことは食事はどうするんですか?」



早速、先生に質問が飛ぶ。



「自分たちでなんとかしろ」



 はい?

衝撃の言葉が出る。

なんとかしろって言ってもお金がないとどうしようもできないだろ。

C組全員が先生を睨みつける。



「6日間ぐらい何も食べなくても大丈夫だろ。架空世界の中には水もあるし」



いやいや、そんなの死ぬ寸前じゃないか。



「まあちょっと助言するが、中間試験の舞台は能力で作られた架空世界。架空世界の中には村があってそこで生活している、能力で作られた”架空の人間”もいる。つまり架空世界の中の人間に対しては架空の存在であるから何をしてもいいってことだ。もうわかるだろ?」



 なるほど、そういうことか。 

架空世界の中にある村や人間から食料を強奪しても罪には問われない。

極論、殺してもいいってことか。



「腕輪ってどんなのですか?あとゴールってどこですか?」


「腕輪は金色で宝石が飾られてる。詳しい場所は言えないが、腕輪は架空世界の住人に聞けばわかるかもな。あとゴールの場所は言えない。自分たちで見つけ出せ」



 自分たちで見つけ出せってそんな無茶な。

架空世界の大きさは一つの大きな市ぐらいなんだろ?



「神獣って?」


「あー、それは説明しとかないとな。架空世界の中には1匹の神獣が存在する。神獣は架空世界のどこかに生息しているはずだ。災害級とあるように、能力者じゃなければ即殺されるような強さだからな」



昇格権は欲しいけど絶対出会いたくないな。



「お前らは能力者だから多少戦えるが、だからといって舐めてかかると死ぬぞ。プリントにもあったが、架空世界だから死んでも大丈夫とかはないからな」



そっか、架空世界と言っても死ぬと実際に死んだことになるんだよな。



「毎年、この中間試験では過酷な環境に耐えられず死亡する生徒が必ずいる」



 途端にC組のみんなの顔が曇り始める。

C組なんて死ぬリスクが一番高いじゃないか。



「まあ仲間にA組がいるから、やばかったらそいつに守ってもらえ。それとお前らも王様ゴールで経験を積んだかもしれないが、この中間試験は想像以上に厳しく辛い。何があっても最後まで諦めずに折れない覚悟を持って挑むように。じゃあHR終わりー」



 シリアスな話をしたと思ったら急にヘラヘラとした声で告げて三田寺先生は教室を出て行った。

途端に教室が騒ぎ出し、

みんなが中間試験の縦割りサバイバルについて一斉に話し始める。



「鳴神くん、中間試験頑張ろうね」



隣の席の神藤さんが話しかけてくる。



「だなー、成績に繋がるからな」


「でも学力のテストだけじゃなくてよかったね!鳴神くん授業寝てばっかだし!」


「いや、そうだけど」


「でも6日間か。長いようで短いのかな」



神藤さんの前の席の流星が言う。



「まあ、あっという間なんじゃないか?俺は結構楽しみだな」


「鳴神くんなら楽しそうにサバイバルできそうだね」


「うん、日向くんは大丈夫そうだね」



 2人に言われるように自分でもそう思う。

実際、全く不安は全くなかった。

王様ゴールでちょっとは自信がついたからかな。



「頑張りますかー、縦割りサバイバル」



 今回の中間試験は縦割りサバイバル。

大きな期待感を俺は抱いていた。

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