第44話 ex. 食分析 


 C組の飯山小大。

能力は”食分析”だ。


 ”食分析”は食べ物の味や匂いを瞬時に頭で理解し分析できるという能力。

まあ能力と言えないほど役に立たない能力だ。

誰にでもできそうだしな。


 王様ゴールの時にこの能力が役に立つ訳も無く、

俺はずっと隠れて逃げ回っていた。


 俺はそんな能力のせいか、とてつもなく食べることが好きだ。

そして学園の下に広がる街には美味しいお店が沢山あるとの噂を聞きつけ、

放課後や休日は街に繰り出すことが習慣となっている。

そして今日は同じC組の鳴神から美味しい抹茶スイーツのお店があるとの情報を入手した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ここか・・・」



 城下町のような雰囲気の道に面するこの建物。

綺麗に一定間隔で並んだ瓦屋根にお屋敷を想像させるような白と黒の壁。

そして入り口には大きな暖簾が待ち構えている。

暖簾の横には緑の杉玉がぶら下がっている。


 綺麗で昔ながらのオーラを醸し出しながらも、

初見さんでもいらっしゃいと言わんばかりの雰囲気。


 この暖簾の奥にはどんな光景が待っているのだろうか。

よし、行くぞ。

暖簾を手で押し上げて突入する。


 中に入るとそこは売り場になっていた。

入り口が売り場になっていて、その奥に食事ができるカフェがあるようだった。


 左右を見ると豊富な種類の抹茶スイーツが陳列してある。

どれも美味しそうで今すぐ手にとってみたいが、今は我慢だ。

気持ちを必死に抑え、奥へ歩を進める。


 売り場を抜けるとなんと庭園が広がっていた。

心を落ち着かせるような深緑の木々。

手入れが行き届いているのが一目でわかる。

これは永遠に見ていられるな。


 途端に歴史ある自然の香りと抹茶スイーツの甘い香りを感じた。

まさかこの美しい庭園を横目に抹茶スイーツを楽しめるのか!?

自然と足が速くなる。

少し進むと庭園を横目に食事を楽しめるカフェが出てきた。



「お1人様ですか?」


「あ、はい」



 店員さんが笑う。

まさか、「こいつ1人でこんなとこ来てやがる」という嘲笑の笑みか!?

・・・いや違う!これはおもてなしの精神からくる「いらっしゃいませ」の微笑みだ!


 一人で謎の勘ぐりをしながら席に案内される。

座ってすぐにメニューを開く。


 ふむふむ・・・

パフェにぜんざい、ゼリーもある。

どれも美味しそうだ。


 確か鳴神のおすすめは抹茶パフェだったはず。

なんでも竹の筒を器としたパフェだとか。

・・・これだ!


 3cmほどの竹の筒の表面に抹茶クリームで蓋がしてある。

そこに抹茶をふりかけ、店のロゴが浮かび上がるようなデザインだ。

その下にぎっしりと抹茶アイスや白玉、抹茶ゼリーが敷き詰められている。

 

 他のメニューも美味しそうだが、

もうこれ一択だ。


 注文してパフェが届くのを待つ。

その間に庭園を眺め、お茶を飲む。

あぁ、普通なら退屈で早く料理が来るのを待つだけのこの時間も楽しい。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「お待たせいたしました」



 店員さんの声とともにお目当ての特製パフェが到着する。

目の前にすると大迫力だ。

竹筒の表面スレスレに店のロゴがデザインしてある抹茶クリームで蓋がしてある。


 スプーンを構える。

さあ、この下のスイーツたちとご対面だ。


 スプーンを強く持ち、

抹茶クリームに侵入させていく。

目一杯スプーンで掬って口に運ぶ。

この1口目が一番美味しく、記憶に残る。


 口に入れた瞬間に抹茶の苦味と甘みが同時に襲い、

最後に抹茶アイスが全てを優しく包む。

・・・完璧だ。


 味わって食べたいが、

刺激された食欲がそれを阻止して2口目、3口目とどんどん口に運ばせる。


 まさに至福の時間。

この上ない幸せが脳を襲い、気がつけば完食していた。


 口にほのかに残る抹茶の苦味と甘みを感じながら。

ホクホクと幸せな気持ちで寮に戻った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



寮の休憩スペース



「鳴神、お前におすすめされた抹茶の店・・・行ってきたぞ」


「お!どうだった!?」


「・・・最高だった」



 最上級の感想だ。

この一言に全てが詰まっている。



「そうだろ!あの店、他にも美味しそうなのあるしまた行きたいなー!」



鳴神の隣の白川もニコニコとしている。



「そうだ!実は街の北部に美味しいラーメン屋があってよ・・・」



 鳴神が話し始めた

俺の食の探求は終わらない。

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