第48話 1日目 A組とB組とC組 




 ワープホールに入った途端、光に包まれる。

眩しくて思わず目を瞑る。


 暗闇の中で感じるのはしずくちゃんの手を握っている感覚。

しずくちゃんは少し怖いのか俺の手をぎゅっと握っている。

俺も無意識に強く握り返した。

それが最後の感覚で、いつの間にか意識が飛んでいた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

 だんだんと消えていた意識が戻る。

まぶたの裏に伝わる眩しい光を感じなくなった。

代わりに体がヒリヒリするような感覚が体に伝わる。

此処はどこなんだ。

俺は恐る恐る目を開けた。


 すると驚きの光景が目に飛び込んできた。

下はサラサラと流れる砂。

上には容赦無く照りつける太陽。

なんと俺たちは砂漠にいた。



「何だここ、砂漠!?」


「さばくだー!」



 色々な地形があるとは聞いてたが、

まさか砂漠まであるなんて。


 しゃがみこんで砂を軽く手に取る。

砂はサラサラと手のひらからこぼれ落ちていく。


 見渡す限り一面砂だ。

周りには人どころか村も動物の影もない。

ただ果てしない砂の大地が永遠に広がっている。

食料や飲み物は3人の誰も持ってない。



「これって結構やばいんじゃ・・・」


「わー!」



しずくちゃんはそんなことに気づかず、無邪気に砂をすくって遊んでいる。



「とにかく砂漠を出ましょう。こんなとこにいたら干からびて死にます」



 國咲もヤバさに気づいているのか足早に歩き出す。

俺としずくちゃんも後ろに続いて歩く。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 中間試験のサバイバルは6日間。

6日間の間に腕輪を3つ見つけてゴールに向かう。

腕輪はこの世界のどこかにあるらしい。


 でも今は腕輪のことなんかどうでもいい。

とにかくこの砂の地獄から脱出したい。


 永遠と続く砂の地平線。

歩こうとしても砂に足が取られてうまく進まない。

そのせいで普通に歩くよりも体力を奪われる。

果てしなく広がる砂の大地に太陽が反射して暑い。

上からも下からも照りつけられており、体の温度が限界まで上昇している。



「もうすなやだ・・・」



 さっきまであんなに元気だったしずくちゃんも、

今はヘロヘロと弱々しく歩いている。

國咲も疲れている様子だ。


 3人に会話はない。

ただ機械のように歩を進め、

この地獄が終わるのを待っている。

このままじゃダメだ、何か気を紛らわすような会話をしないと!



「な、なぁ、みんなの能力を確認しとかないか?」



喉が乾ききっていて普段の声を出せない。



「・・・そうですね」



國咲から小さな返事が返ってくる。



「じゃあ俺から。俺の能力は”超力”。体の中のエネルギーを放出して攻撃できるんだ」



よし、ちゃんと説明できたな。



「むずかしくてわかんない」



自分の思いとは反してしずくちゃんからツッコミが入る。



「変な能力、流石C組ですね」



國咲がもうストレートに言ってくるようになった。



「まあ後々わかるわ!じゃあしずくちゃんは?」



しずくちゃんに話を振る。



「わたしは、”しんたいきょーゆー”!」


「え?しんたいきょーゆー?」


「そう!こころとからだをきょーゆーできるの!だからつらいこともうれしいこともはんぶんこだよ!」



 心と体を共有する?

うーん、これこそよくわかんないな。



「そっか!じゃあ國咲は?」



しずくちゃんの能力がわかったフリをして國咲に話を振る。



「”未来視”」



ん?なんだって?



「もう一回言ってくれる?」


「だから”未来視”」



國咲が面倒くさそうに返す。



「え、未来視!?どういうことだ?」


「・・・未来を見れるんですよ」



 未来を見れる!?

そんなことありえるのか?

國咲はサラッと言ってるがこれって最強の能力なんじゃ・・・



「みく、みらいみれるの!?」



 しずくちゃんもテンションが上がっている。

キラキラした目で國咲を見つめている。



「そうだよ」



 國咲がしずくちゃんに優しく答える。

なんていうか、能力者って本当に人を超えた存在なんだな。



「私の能力は”未来視”。詳しく説明すると、数秒先の未来を見れるんです。能力を使えば数秒先の未来の映像が頭に流れるんです」



これはなんてやばい能力なんだ。



「なるほど、これは今回の縦割りサバイバル、断然俺たちのチームが有利そうだな」



 未来を視れる能力なんて強すぎだろ!

使い勝手も絶対いい!



「まあそうですね。C組とは格が違います」



 國咲が嫌味を言う。

その時、



「あしあとだ!」



 しずくちゃんが下を指差して叫んだ。

確かにそこには砂の彼方に続く足跡があった。



「おお!この足跡を辿れば村とかに着くんじゃないか!?」



 希望が見えた嬉しさから一気にテンションが上がる。

疲れなんてふっとんだみたいにしずくちゃんと足跡を走って辿る。



「はぁ・・・」



そんな俺たちの子供っぽい行動を見た國咲のため息が聞こえた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



足跡を追いかけるが一向に足跡の主にも、村やオアシスにも辿り着かない。



「ぜんぜんつかないじゃん!」



しずくちゃんが不満の声を漏らす。



「確かに全然つかないね・・・」



 足跡は砂の上に長く奥まで続いている。

この足跡どこに続いてるんだ?

っていうか、足跡ってこんなに消えずに残るものなのか?

そんな疑問を持った時、ゴゴゴゴという音がどこかから聞こえた。



「なんだこの音」



 3人で立ち止まってあたりを見渡す。

瞬間、



「足跡から離れて!」



 國咲が叫んだ。

それを聞いて体が反射的に飛び退ける。

するとゴゴゴゴという音が大きくなって、

俺たちがいた場所から勢いよく何かが砂の下から飛び出してきた。



「なんだ!?」



 あたりに砂が舞い上がる。

砂風の奥に黒い影が見える。

舞い上がった砂が治ると、そこにいたのは大きなサソリだった。



「さそりー!」



 そのサソリは太陽の光を吸い込むような黒さで、

車ほどの大きさの体に巨大な2つのハサミを持っている。

そして尻尾には針ではなく人の足のようなものがついていた。



「あの尻尾の足で砂に足跡をつけて自分の巣におびきよせてるんでしょうね」



國咲が冷静に分析する。



「なるほど、俺たちはまんまに騙されたってことか」


「最っ悪ですね」


「たたかうの?」



しずくちゃんが俺を見る。



「やろう。逃げられないだろうしな」



そう言って3人でサソリに向かって構えた。

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