第40話 ex. 英雄


 王様ゲーム終了後、参加した生徒たちは疲れを取るための2日間の休みを与えられた。

実際、俺たちC組は体がボロボロだった。


 しかし2日間で完全に疲れが取れた訳ではなく、

休み後は半ば体を引きずる形で学校に向かった。


 流星と一緒に寮から出て学校向かって歩いていると、

違和感に気づいた。


 ・・・なんかめっちゃ見られてる。

すれ違う生徒全員が俺を見てコソコソ話してる。



「日向くん、なんか・・・」


「わかる、めっちゃ見られてるよな」



 俺たちなんか悪いことしたか?

それとも先日の王様ゴールの噂でもされてるのか?



「あいつがC組でMVP取った奴らしいぜ」「まさかC組がA組から得点するなんて」



正解は後者だった。



「やっぱりC組がA組から得点したのはすごいことだったんだね」



流星が言う。



「なんせ得点したのは今までで初めてらしいからな」


「A組の先生が言ってたよね」



 それだけA組とC組には今も昔も大きな差があるってことだ。

でも俺と仙撃と赤坂で七罪に総攻撃したあの時、

七罪は本気を出していないようにも感じた。


 証拠に得点した後、

俺がボロボロで地面に倒れてる横をスタスタと歩いていったしな。

そんなことを考えていると誰かに話しかけられた。



「おい、お前か?A組から得点してMVPを獲ったってのは!」



 3人並んで俺たちの前に立っている。

上級生だろうか。

雰囲気的にC組っぽいな。



「あ、はい。そうですけど」


「まじかよ!すげーな!俺たちもC組なんだけど、俺らの時はボコボコにやられたよ!」


「へー、そうなんですね」



やっぱり毎年A組がC組にボコボコにされるのは決まってるんだな。



「お前らならB組にあがれるかもしれねぇな。俺たちはもう無理だから・・・」



 3人の表情が一気に暗くなる。

この人たち3年生か?

ということは1年後には・・・研究所送りで死ぬ。

3人はもうC組からB組に上がることを諦めているようにも思えた。



「そ、そんなことないですよ!まだB組にあがれるかもしれませんよ!」



流星が上級生の3人を励ますように声をかける。



「・・・無理だよ」



3人のうちの1人がポツリと呟く。



「C組は弱小能力者の集まり。どう足掻いてもA組、B組と同じステージには立てねぇんだよ」



 その呟きからは今まで経験したであろう他のクラスとの圧倒的な差というものが篭っていた。

上級生3人は去っていった。

その後ろ姿は悲しそうだった。



「・・・僕たちも将来、ああなるのかな」



 流星が不安そうに言う。

まるで自分と上級生の姿を重ね合わせているようだ。



「そんなことないって!流星ならB組にあがれるって!」



励ましても流星の表情は暗いままだった。



「一つ聞いてもいい?」



流星が言う。



「日向くんはC組全員で上のクラスに上がりたいって言ってたけど、もし卒業する時にB組にあがれる”昇格権”を自分だけ持ってたらどうするの?C組のみんなを見捨てるの?」



流星が俺を見つめる。



「み、見捨てなんてしないよ!俺は最後までC組のみんなで上のクラスにあがれるように努力するよ!」


「・・・そっか」



 流星が俺の言葉を聞いて歩き出す。

流星が哀しそうな顔をする。

まるで俺の考えを見透かしているようだった。


 俺は「見捨てない」って即答できなかった。

もしかして心のどこかに見捨てようとする自分がいるんじゃないか?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 この日はすれ違う生徒みんなに注目されるし朝の流星との会話もあって、

何となく居心地が悪かった。


 放課後、街が見渡せる高台で一人で街を見ていた。

大きく広い街を夕日が照らしている。


 こんな何気ない日常もあと3年しか見れないかもしれない。

そう思うと目の前の景色が愛おしく思えた。


 この学園に来る前は普通に暮らしていたのに。

入学してから突然、「死」という遠い存在だったものが一気に距離を詰めてきた。

俺はまだあと3年あるけど、上級生はあと2年や1年。



「ちょっとあんた!」



俺じゃ想像もできないような恐怖なんだろうか。



「聞いてんの!?無視しないでよ!」 



 意識が声に引っ張られる。

後ろを向くとA組の天使がいた。

なぜか両手を腰に当てて怒っているように見える。



「おー、久しぶり!いや、2日ぶりだな!」


「2日ぶりじゃないわよ!この前はよくもやってくれたわね!」



 天使がわざとらしく大きな足音を立ててズンズンと近寄ってくる。

目の前に来て俺の胸ぐらを掴みそうな勢いだ。



「え?俺なんかしたっけ?」


「したわよ!私のこと、ビルの下敷きにしたじゃない!」



 2日前のことを思い出す。

王様ゴール最終日のA組との対戦で天使が追いかけてきて、

俺がビルにエネルギー砲をぶっ放して天使をビルの下敷きにした。



「あー、そんなこともあったな」


「そんなことって!完全に殺す気だったでしょ!?私じゃなかったら死んでるわよ!」


「ごめんごめん!っていうか敵だから仕方ないだろ?」



 天使の怒りは収まる気配はなく、

俺に対して小声でブツブツと文句を言っている。



「っていうかあんた、B組への昇格権を手放すなんてホントにバカね」



天使が言う。



「まあ、俺はC組全員で上の組にあがりたいと思ったから」



天使がはぁ、とため息をつく。



「バカじゃない?C組全員って、そんなの無理に決まってるじゃない」


「そんなのわからないだろ?」


「わかるわよ。じゃああんた、卒業の時に自分は”昇格権”を持ってても使わないってこと?」



天使の問いかけが朝の流星の問いかけと重なる。



「そうに決まってるだろ!っていうかお前もウカウカしてたらB組に落とされるんじゃねーか!?」


「ふん、絶対にないから大丈夫よ」



天使が自信満々に答える。



「そもそも全員でC組にあがるなんて、本当にC組みんながそう願ってるの?中には自分だけでもB組にあがれればいいって人もいるんじゃないの?」



天使の言葉がドクンッと胸に突き刺さる。



「それってあんたのエゴじゃないの?」



 ・・・確かにそうだ。

C組みんなが俺と同じように思ってるかどうかなんてわからない。


 だんだんと表情が暗くなる。

天使がそれを察したのか俺の暗い表情を見て驚いている。



「ま、まあどうかわからないけどね!せ、せいぜい頑張りなさい!」



 天使が慌ててこの場を去っていった。

C組みんなで上のクラスにあがりたいなんて考えてるのは俺だけなのかもな。

心の中に大きなモヤモヤが残ったまま、俺は寮に戻ろうと歩き出した。

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