第20話 食料奪取作戦
王様ゴール最下位で食事なしが決定した俺たちはあまりにもお腹が減ったため、
俺と神藤さんと”音操作”の能力者、音無さんでログハウスに食料を盗みに行くことに。
「まずは私の能力からだね」
神藤さんはそう言うと俺と音無の手を握った。
目をつぶって力を込めている。
初めて神藤さんと会った時を思い出す。
神藤さんの能力は”交信”。
口を開かず頭の中でコミュニケーションを取ることができる。
ー どう?聞こえてる? ー
頭の中に神藤さんの声が響く。
ー 聞こえてる!すごいね天音ちゃん! ー
そうか、音無さんは初めてか。
ー 俺も聞こえてるよ! ー
ー よかった!じゃあ次は静奈ちゃんお願い! ー
音無が神藤さんと同じように目をつぶって力を込めている。
すると握られている手の部分がボワッと光り始めた。
ー これでOK!試しに足踏みとかしてみて ー
その場で足踏みをしてみるが、音は全く聞こえなかった。
試しに拍手をしてみるが、
音は聞こえずに手が合わさる感触だけを感じる。
ー 自分の出す音だけが聞こえなくなってる! ー
外の環境音は聞こえてくるのに、
自分の出す音だけが全く聞こえてこない。
ー 自分が出す音も消えるんだけど、自分が触れたものが出す音も消えるの ー
音無が近くに積んであった薪を何本か取って落とした。
普通は聞こえるはずの薪の落ちるバラバラという音が聞こえない。
ー 一応、覚えといて? ー
神藤さんの”交信”も音無の”音操作”も、どちらもすごい能力だな。
でもこんなにすごい能力でC組か。
A組の能力者は空を飛んだり、中には龍になったやつもいた。
やっぱりA組とC組では圧倒的な差がある。
ふと三田寺先生の言葉を思い出す。
「このままじゃお前ら本当に負け組になるぞ」
負け組・・・
確かにこのC組の冷遇されている状況は負け組と言えるのかもしれない。
でも王様ゴールで活躍すれば評価が変わるかもしれない。
ー 鳴神くん? ー
俺の止まらない考えに神藤さんの声が聞こえてくる。
ー ああ、ごめん!じゃあ行こう! ー
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
裏口のドアを開ける。
普通ならドアが開くギィ、という音が聞こえるはずだが音無の能力で今は聞こえない。
扉を少し開けて中の様子を確認する。
裏口の先は食堂になっていた。
食堂は暗く、誰もいない。
ー 誰もいないみたいだな ー
時間は24時を過ぎている。
この時間なら生徒は自分の部屋で寝てるはずだ。
食堂の奥にはキッチンがあって、
テーブルの上には明日の朝の分だろうかの食事がズラッと並んでいた。
ー テーブルの上にいっぱいある! ー
神藤さんと音無の嬉しそうな声が聞こえる。
ー よし!いっぱい持って帰ろう! ー
音が出ないのをいいことに周りを警戒しながらも3人でダダダッと走る。
キッチンに行って物色する。
普通の料理だが、腹ペコペコの今はどれもご馳走に見える。
ー ちょっとつまみ食いしてもバレないだろ ー
ー あ!お菓子あったよ! ー
ー 鳴神くんも静奈ちゃんも、C組みんなの分だからね。どれを持って帰ろうかな ー
よし、これだけあればC組のみんなの腹を少しだけど満たせるな。
その時、食堂に誰かが歩いてくる音が聞こえた。
ー 2人とも隠れて! ー
神藤さんと音無さんに頭の中で指示を出す。
それを聞いた2人はキッチンに隠れた。
俺も急いで同じところに隠れる。
足音は見回りだろうか、食堂らへんを歩いている。
少し顔を出して覗いて見ると、足音の主は三田寺先生だった。
このままだとキッチンの中まで入ってこられる!
そう心配していると、
三田寺先生は踵を返して元来た方に戻っていった。
よかった、バレてない。
安心して食料漁りを再開しようとすると、
「・・・3人」
三田寺先生がそう呟いた。
3人って言ったか?まさかバレてる!?
ー え、バレてる!? ー
ー わかんない! ー
すぐに3人の脳内会議が始まる。
「出てこい、そこにいるのはわかってるぞ」
三田寺先生が俺たちが隠れているキッチンに向かって言う。
これは完全にバレてるな。
音無が能力を解いた。
「す、すみません・・・」
大人しく3人でヒョコッと顔を出す。
「お前ら何やってるんだ?」
「いや、お腹が空いて・・・」
「あー、お前ら何も食べてないのか」
その時、
「三田寺先生?」
三田寺先生の後ろから女の人の声が聞こえた。
すぐに俺たち3人は身を隠す。
「・・・宇佐美先生」
宇佐美先生?
ー B組の担任の先生だね ー
神藤さんの声が聞こえる。
ー 長い黒髪の綺麗な先生だよね、私も見たことある ー
音無が言う。
「何してるんですか?」
「いや、僕は見回りをしてまして」
「・・・そうですか」
ー 宇佐美先生、ちょっと怪しんでない? ー
ー そうだな、早くどっか行ってくれ ー
「明日もありますから、夜更かしはダメですよ」
「はい、わかりました」
三田寺先生が宇佐美先生にそう言われる。
トントン、と離れていく足音が聞こえる。
宇佐美先生は戻っていったみたいだ。
「おい、お前ら」
三田寺先生が上から隠れているキッチンを覗き込んでくる。
「あそこのテーブルの上のパンとか惣菜なら食っていいぞ。余りもんだし」
三田寺先生が向こうのテーブルを指差す。
「本当ですか!?」
「ああ、C組のみんなに分けてやれ」
「やった!ありがとうございます!」
神藤さんと音無が嬉しそうにテーブルに駆け寄る。
今までは冷徹でC組なんてどうでもいいって考えてそうなイメージだったけど、
案外優しいところもあるんだな。
「意外と優しいんですね」
「だろ?そういう面もあるんだよ」
その横顔はとても頼もしく見えた。
「・・・先生、どうやったら他のクラスに勝てますか?」
そんな頼もしい姿に頼りたくなった。
今のC組はA組に実力をわからされ、仲間割れもして最悪な状況だ。
はっきりいって他のクラスに勝てる見込みなんてない。
「俺から具体的な作戦をアドバイスすることはできないが・・・能力で勝てないなら頭を使え」
頭を使え、か。
確かに、ただ能力の強さで勝負するんじゃなくて、
みんなの能力を組み合わせればもしかしたら立ち向かえるんじゃ・・・
「簡単な話だろ?お前たちC組にあって他のクラスにないものがある。今はそれがわからないかもしれないが、じきに何かわかる。それがわかれば他のクラスに勝てるかもしれないな」
三田寺先生はいつもみたいな冗談ではなく、真剣に答えてくれた。
「明日、頑張れよ」
先生はそう言うと戻っていった。
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