第19話 仲間割れ



 目の前でC組の生徒2人がつかみ合いの喧嘩をしている。

それを止める男子、怯える女子たち。



「おい、どうしたんだ!?」



 テントから出て俺たちも止めに入る。



「いや、A組が料理をちょっと分けてくれてさ、みんなで分けようって話になったんだが、こいつらが分ける量で揉めてるんだよ」



 仙撃は苦笑いで、自らも無茶苦茶に掴まれている。

そんな理由かよ!



「お前何も活躍してないだろ!」「お前こそだろうが!」



語気荒く叫んでいる。



「まあまあ」



仙撃が2人をなだめる。



「まあ、それ言えば全員何もできてないからさ。落ち着けって2人とも」



 俺がそう言っても2人は全然収まる気配がない。

どうしたもんか。



「あら?C組さん、どうしたんですか?」



 奥から数人の生徒がニヤニヤと笑いながら近づいてきた。

A組の生徒だ。



「さっき料理を分けてあげたじゃないか〜。そんなに喧嘩するなって〜」



 嫌味ったらしく言う。

こいつら、こうなることを見越して料理を分けやがったな。



「ほら、もっと分けてあげるよ」



 A組の生徒はそう言うと手に持っていた皿をひっくり返し、

入っている料理を地面に捨てた。



「C組なら落ちてても食べるよね〜。ほら、食べなよ。アハハ!」


 

 大きな笑い声を響かせながら去っていく。

・・・なんだあいつら。


 全員がその場に立ち尽くし、A組の後ろ姿を見ていた。

いつの間にか喧嘩は収まっていた。



「あぁ、せっかくの料理が・・・」



流星が勿体なさそうにしている。



「まだ食えんじゃねーか?」



仙撃が地面に落ちた料理を拾って食べようとする。



「やめときなって・・・」



 見ている女子が止めにかかる。

なんだか俺たちC組が惨めに思えてきた。

でもこれも俺たちの能力が弱いせい・・・なのか?



「・・・なんかごめん、騒いじゃって」「俺こそごめん」



 さっきまで喧嘩していた2人がC組みんなに謝った。

しかしC組の雰囲気はいまだに悪いままだ。



「まあ今日は何も食べれないけど、今は我慢してこの合宿が終わったら美味しいものいっぱい食べようぜ!」



C組みんなをなんとか慰める。



「そ、そうだな。この合宿が終われば・・・」「あと1日の辛抱だもんね」



自分に言い聞かせる暗示のような呟きが聞こえてくる。



「あの・・・」



 すると後ろの方から声が聞こえた。

C組のみんなをかき分けて一人の男子生徒が名乗り出る。



「実は隠れてお菓子持ってきてたんだよ!」



その手にはポテトチップスが一袋握られていた。



「おいまじか!」



 みんなが喜んでその生徒に駆け寄る。

普段だと普通のポテチだが、今はご馳走に見える。

男子生徒がみんなにポテチを1人1枚ずつ分ける。

たった1枚ではあるが、「食べた」という行動が俺たちの心を和らげた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「おい、お前はいらないのか?」



 隣にいる赤坂はポテチを取ろうとせず、

テントに戻ろうとする。



「いらねぇ」



赤坂が見向きもせずテントに戻っていく。



「じゃあお前の分は俺が食べよーっと」



赤坂の分のポテチを口に放り投げた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そして深夜。

テントの中にグーッとお腹の音が響く。



「・・・腹減った」


「僕も」



 俺と流星のお腹の音がテントのBGMになっている。

やはり1枚では足りなかった。



「なあ赤坂、お前なんか食うもん持ってない?」


「ねーよ」



 赤坂がこっちを向かずに寝転がったまま答える。

狭いテントの中で俺が中心になり、流星と赤坂に挟まれる形で川の字で寝転がる。



「おい流星、このままじゃ寝れないぞ」


「うーん、そういえばA組B組が食べた料理の残り物とかないのかな?」



流星が顎に手を当てて考える素振りを見せる。



「ログハウスの中にありそう・・・盗みに行くか」


「え、ダメだよ日向くん」


「大丈夫だって!静かに行けばバレないから、行くぞ流星!」



 早く食べたい思いから、

早速テントを出ようとする。



「もし成功したらお前にも分けてやるから」



寝ている赤坂に話しかける。



「いらねーよ」


「ほんとか?さっきからお腹めっちゃ鳴ってるぞ?」


「うるせぇ!早く行け!」



追い出されるようにテントを出る。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 時間は深夜を回っている。

外は誰もおらず、みんなテントの中ですでに寝ているようだった。



「どうする日向くん、2人で行くの?」


「どうするかー。なんか役に立ちそうな能力を持ってるやついないかな」



2人で考え込む。



「そういえば神藤さんと同じテントの人、何か音を消せる能力とか言ってた気が・・・」



流星が思い出したように言う。



「マジか!じゃあ神藤さんのテントに行こう!」


「でもみんな寝てるんじゃない?」


「いや寝てないって。女子はこういう時、絶対遅くまで話してるから」


「そうなのかな?」



 流星が苦笑いをする。

そんな流星を横目に神藤さんのテントに向かう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 神藤さんのテントの前に2人で並ぶ。

中からは微かに楽しそうな話し声が聞こえる。



「まだ起きてるみたいだな。よし、開けるぞ」


「日向くん、勝手に開けちゃダメだよ!」


「大丈夫だって」



 そう言ってゆっくりテントのチャックを開ける。

静かなキャンプ場にジーッという音が響く。

途端、中から拳が出てきて俺の頬にクリーンヒットする。



「ぐへぇ!」



衝撃で地面に尻餅をつく。



「誰だ!こんな夜中に女子のテント覗こうとする奴は・・・って鳴神、それに白川も」



 中から出てきたのはミリシャだった。

パジャマ姿で王様ゲームの時とは違う姿だ。



「こんな夜中に何の用よ。もしかしてあたしたちを襲おうとしたの?」



ミリシャが冷ややかな目つきで俺を睨む。



「違うわ!神藤さんいるか?」


「どうしたの?鳴神くん。それに白川くんも」



 テントから神藤さんが出てきた。

神藤さんもパジャマでいつもと雰囲気が違う。



「いや、腹減って寝れなくてさ。ちょっと食料でも盗みに行こうと思って。流星に聞いたんだけど、同じテントに音を消せる能力の人がいるんでしょ?」


「それって私のこと?」



 そう言ってテントの奥から女の子が出てきたのは

茶髪ショートヘアで大人しそうな子だった。



「おお、一緒に来てくれないか?」


「話は聞いてた。私は音無静奈、能力は”音操作”。音を消したり大きくしたりすることができる。しょうがないし行くよ」


「おお、ありがとな!」


「私も行くよ!私の”交信”の能力があれば便利でしょ?」



神藤さんも手を挙げて立候補する。



「ミリシャ、お前はどうする?」


「うーん、あんま大人数で行ってもバレるでしょ?あたしは待っとくよ」


「そうだね、僕も待っとくよ」



ミリシャと流星が待つと言う。



「そっか。じゃあ2人は待っててくれ」


「私たちにも盗んだ食料分けてよね?」


「もちろん分けるって。それじゃあ行きますか」



 ミリシャと流星をテントに残し、

俺と神藤さんと音無さんで食料を盗みに行くことに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る