第16話 A組最強の能力者 


 逃げろ逃げろ逃げろ!

本能が脳に指示を出す。

しかし女の能力で動くことができない。

今すぐ逃げないと間に合わない!

首を切られる想像が駆け巡る。


 男の刀が俺の首を断ち切ろうとした瞬間、

体が思いっきり引っ張られて地面に叩きつけられた。

俺を引っ張ったのは流星だった。



「チッ、斬れなかったか」



すぐに刀の男が鞘に刀を戻す。



「ありがとう流星!動けたのか!?」



 そう言って流星の姿を見ると、

目や口から血が出ていた。



「流星!?ど、どうしたんだ?」



流星の目から出た血は頬を伝って顎から地面に滴っている。



「能力で血流の速度を・・・加速させて・・・最高速度で移動した・・・んだ」



 流星は肩で息をしている。

目の焦点も合ってなくて朧げだ。



「そ、そんなことできるのか!?」


「でももう・・・今の速度は・・・出せない・・・次の攻撃は・・・避けられない」



 男が刀をぎゅっと強く握って構える。

次の攻撃をするつもりだ。



「それに刀の男・・・恐ろしく速い。僕と同じ・・・いやそれ以上かも」



 確かに瞬きのうちに目の前まで迫ってきていた。

そういえばミリシャは!

後ろを振り向くとミリシャと目があった。



「あたしは大丈夫だ!それより前見ろ鳴神!」



 同じように殺気を感じた。

刀の男が迫ってきてる!



「こっち!」



 流星に引っ張られてミリシャのところまで下がる。

3人で横並びになる。

目の前には体が動かなくなる能力の女と恐ろしく動きの早い刀の男。



「さあ、なんとかして突破するぞ!女の方は目を見ちゃダメだ!さっきみたいに動けなくなる!」



 2人に声を掛ける。

もう少しだ・・・ゴールは見えてる!

みんなの力でやっとここまで来たんだ、絶対諦めない。



「流星!ミリシャ!こいつらを任せてもいいか?」


「もちろん!」



 強行突破だが、やるしかない!

俺は2人を置いて右に走り出した。



「逃すか!」



 俺が走り出すとすぐに刀の男が動き出した。

俺は見越していたように威嚇のエネルギー砲を男に向かって撃つ。

男はいともたやすく躱し、刀で俺を斬ろうとする。



「やめな!」



 その時、動きを止められる能力の女が叫んだ。

刀の男の動きが止まる。


 今だ!

隙をついて男を置き去りにして走り出す。


 目の前にもう1人の女がいるが、何かしてくる様子はない。

よくわからないがまあいい!今のうちに得点してやろう!

俺が横を通り過ぎる瞬間、



「この先にはS級の”超能力者”がいるよ」



 女がそう呟いた。

S級?超能力者?

何を言ってるかわからないが無視して走った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 流星とミリシャを置いて走り出す。

A組の陣地はすぐそこだ。

すると奥にA組の陣地の白線が見えた。

よし!ゴールできる!


 しかし白線の目の前に黒髪の男が1人立っているのに気づいた。

さっき女が言っていたことを思い出す。



「この先にはS級の”超能力者”がいるよ」



 でも前にいる男は強そうな能力者には見えない。

男はこっちをだるそうに見ている。


 進んでいくが退く気配はない。

ならこのままタックルしてゴールに飛び込んでやる!


 そう思った時、

俺の後ろから真横を紫色の火柱が通り抜けた。


 熱い!

通り過ぎた方の体の温度がどんどん上がっていく。

思わず左に飛び退ける。


 紫の火柱はゴオオオオと低い音を轟かせ、

白線の前に立っている男目がけて一直線に向かっていった。


 男の目の前まで紫の火柱が迫ったが、

男が手をかざすと一瞬で火柱は消え去った。



「やるじゃねーか」



 後ろから声が聞こえる。

俺の目の前に歩いてきたのはC組の作戦会議の時に一人でやると言っていた赤坂だった。

赤髪のオールバックが風に揺れている。

っていうか赤坂、火を操れる能力なのか!?



「お前、今まで何してたんだよ!」



赤坂の後ろ姿に声をかける。



「うるせぇ、お前には関係ねぇよ。俺はこいつに話があるんだ」



 赤坂がA組の男を見て言う。

今にも男に飛びかかる勢いだ。



「おい、赤坂!協力しよう」


「嫌に決まってんだろ」



 赤坂が俺の言葉を聞かずに男に突っ込んでいく。

くそっ!ダメだ!

赤坂の後ろについて走り出す。


 赤坂は一直線に男に向かって走っている。

2人が戦ってる間に白線を超えて得点する!


 赤坂が男に向かって何発もの紫の玉を放つ。

火の玉は男めがけてジュー、という音を立てて飛んでいく。


 その時、男が唐突に手を横にスライドさせた。

すると水の壁が発生し、

赤坂の放った火の玉は水の壁に当たって消滅した。


 この男、何の能力なんだ!?

さっきは赤坂の火柱を手をかざしただけで消し去ったし、

今度は水の壁を発生させた。

そして男は白線の前に立ち、さっきから一歩も動いていない。



「チッ!」



 赤坂が悔しがる。

すると男の周りに黒く丸い塊が幾つも出現する。

その黒い塊は鋭く尖った細長い形に変化し、

赤坂に目がけて飛んで行った。


 ダメだ!赤坂が反応できてない!

このままじゃ貫かれるぞ!


 咄嗟に男の放ったものに対して中火力のエネルギー砲を放つ。

エネルギー砲が見事に黒く細長いものに直撃して消えていく。



「余計な真似すんな!」


「はぁ!?俺が助けないと死んでたぞ!?」



 すると赤坂が右手を後ろに大きく引いた。

赤坂の右手が紫色に燃え上がる。

そして今度はさっきよりも勢いの強い紫の炎を横から投げるように放った。



「今度のは広範囲で密度が高いぞ!これでも防げるのか?」



赤坂が男に向かって叫ぶ。



”紫炎”



 目の前を覆い尽くすような巨大な紫の火柱が男に向かっていく。

火柱で男の姿が見えなくなる。

どうなった!?


 ゆらゆらと紫の火柱が消えていく。

しかし男は何事もなかったように、涼しい顔で一歩も動かず立っていた。


 紫の火柱が通った下のコンクリートは黒く焼け焦げていて、

男の周りには火柱の残り火だろうかが燃え広がっている。



「これも効かねぇのか・・・なら」



 赤坂が構えをとって次の攻撃をしようとする。

途端、男の頭上の何もない空中から鎖が出現し、

赤坂に向かって飛んで行った。


 鎖は赤坂に絡まり、

男の元へ勢いよく連れていかれる。

赤坂が男の目の前で鎖でガチガチに縛り付けられて跪いている。



「C組がA組に勝てると思うなよ」



 男が言うと赤坂に向けて衝撃波のようなものを放った。

瞬間、赤坂の体がビュン!と吹っ飛び、

近くのビルにガッシャーン!とぶつかった。


 今の技、仙撃の衝撃波に似てる・・・

いや、今はどうでもいい!

俺はすでにA組の白線の目の前まできてる!すぐに白線を超えられる!


 足を上げて走り出そうとした時、

目の前に男が現れる。


 俺は考える前に男に向かって中火力のエネルギー砲を放った。

しかし男は体を竦めてエネルギー砲を躱した。

エネルギー砲が空中に消えていく。



「お前、普通じゃねーな」



 男が呟く。

すぐにもう一発撃とうとしたが、

男が体を回転させ、俺の腹を蹴ろうと迫ってきた。

こいつ、蹴るつもりか!でも一発蹴られるぐらいなら耐えられる!

蹴りを耐えて這いずってでも白線を超えて得点してやる。


 しかしその時、

男の足が白いオーラに包まれているのが見えた。

これって・・・ミリシャと同じ!”重量変化”の能力か!?


 途端に蹴りが俺の腹に命中した。

俺は蹴りを耐えるどころか、

体が曲がるほどの衝撃を受け体が後ろに吹き飛ばされた。


 こいつ能力どうなってやがる・・・

仙撃やミリシャの技を使ったり・・・


 地面と平行に吹き飛ばされ、

勢いよく地面に叩きつけられる。

全身に強い痛みが走る。

ダメだ、立ち上がれない。



「お前の能力、いいな」



 顔を上げると、男は何事もないように立っていた。

そしてその背後には空を覆い尽くすような大きさのエネルギーの塊があった。

ま、まさか、これは俺の能力なのか?



「お前、何者なんだよ・・・」


「俺とお前は弱者と強者。同じ土俵だと思うなよ」



 意識が遠くなっていく。

ああ、ダメだ・・・せっかくA組から得点できそうだったのに・・・

そこでプツンと意識が途切れた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「・・・くん!日・・・くん!日向くん!」



 遠くで声が聞こえる。

薄く目を開けると流星とミリシャがいた。



「日向くん!よかった!起きた!」


「鳴神!大丈夫か!?」



 頭がクラクラする、

あまりのダメージで視界がぼやけ、目の焦点が合いにくい。



「A組の白線前に立ってた男からデケェ何かの塊が出てきてビックリしたわ!なんか迫ってきてたし!」


「俺・・・それにやられたのか?」


「いや、その前に試合終了の合図があって助かったんだよ」



 そうか、よかった。

もしあの大きさのエネルギーの塊を放ったら、この地域一帯が吹き飛ぶぞ。



「試合は・・・どうなった?」



流星が俯き、電光掲示板を指差す。



「どうやら、僕たちの完敗みたい・・・」



 電光掲示板には12対0と表示してあった。

俺たちC組は1点も獲ることができなかった。

そして1点も守ることができなかった。

この日、俺たちはあらためてA組との差を思い知らされた。


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