第12話 圧倒的能力差


 流星の能力で街を駆け抜ける俺たちの後ろを、脇目も振らずにどんどん迫ってくる。

まるで絵本の中で見たことのある幻獣のような見た目。



「こっちに向かって来てるぞ!」



 流星がスピードを上げる。

しかし幻獣に跨って操る女も同じようにスピードを上げて距離を縮めてくる。

その速さは凄まじい。



「召喚型の能力か!」



仙撃が追いかけてくる幻獣を見て叫ぶ。



「召喚型?」


「能力の種類だ!何か召喚できる能力をそう呼ぶんだよ。でも、幻獣の召喚なんて聞いたことがねぇぞ!」



 ジリジリと距離が縮まってくる。

流星の”速度変化”の能力よりも幻獣の足の方が少し速い。



「このままじゃ追いつかれる!」



流星を見る。



「これ以上スピードをあげられない!」



 流星が焦っているのがわかる。

思考が一瞬停止する。

ダメだ、考えろ、考えろ。



「どりゃあああ!」



 仙撃がおもむろに空を殴った。

すると空を切り裂く鋭い衝撃波が出て幻獣に衝撃波が向かっていった。



「そんなこともできるのか!」


「地面を殴るよりは威力が弱いけどな!」



しかし幻獣は仙撃の放った衝撃波をいとも簡単に躱した。



「くそっ、躱しやがった!」


「一旦どこかに隠れよう!このままじゃ追いつかれる!」



流星に指示を出す。



「どこに!?もう追いつかれるよ!」



 幻獣は既に俺たちの10m程後ろまで迫っていた。

近くで見るととても大きい。

鉤爪も大きく鋭い。


 こんなので攻撃されたら大怪我だぞ。

そう思った矢先、跨っている女が幻獣に指示を出し、

大きな前足をこちらに向けて振り下ろしてきた。


 鋭い前足が俺たち3人を襲う瞬間、

流星が一気に減速した。

急に減速したおかげで幻獣が俺たちの上を通っていく。

でもまずい、完全に追い詰められた。


 3人とも地面に尻餅をついていて、

目の前に幻獣がいる。

立ち上がろうとするとすぐにその鋭い爪で切り裂かれるかもな。



「これはただのゲームだぞ?足止めするだけでまさか攻撃したりしないよな?」



 幻獣に跨っている女に話しかける。

女は黒髪の長いポニーテールで、

俺たちに冷たい視線を向けている。

その眼に一切の甘えはなかった。



「確かにそうだけど、強者が弱者を踏みにじるのは当たり前のことでしょ?」



 女が残酷に言い放つ。

女が指示を出すと幻獣が2本の前足を大きく上げた。


 こいつ、マジで攻撃するつもりだ!

迷ってる暇はない!ここで能力を使う!


 幻獣に向かって右手を向ける。

左手で向けた腕を抑え、意識を手のひらに集中させる。

どんどんと手のひらにパワーが集まる。

そしてそのパワーを一気に解放する。



”中火力砲”



 俺の手のひらから放たれたエネルギー砲は一直線に目の前の幻獣に向かって飛んでいった。

中火力だが、当たれば大怪我だ!

幻獣は咄嗟に躱して後ろに飛び退ける。

しかし躱しきれずにエネルギー砲が前足をかすめた。



「よくもやったわね・・・」



俺たちに向けていた幻獣の前足からは血が出ていた。



「日向くん、すごい!」


「おい鳴神、お前本当にC組か?」



流星と仙撃が安堵の表情を浮かべる。



「すごいだろ?」



 そしてもう一度幻獣に向かって能力を使おうとした時、

違和感に気づいた。


 幻獣の上に跨っている女はこんな緊迫した状況で、

俺たちを攻撃する訳でもなく斜め上を向いてじっと空を見つめていた。

どこ向いてるんだ?



「あんたら運がよかったね・・・いや、逆かな」



女は謎の言葉を言い残すと幻獣を操って去っていった。



「な、なんだったんだ?」



 3人で去っていく幻獣の後ろ姿を地面にへたり込みながら見つめる。

どんどんと幻獣の姿が遠くなって行く。



「でもよかった!相手陣地に向かうぞ!」


「うん・・・でも何か嫌な予感がする・・・」



 流星が不安そうな顔をする。

すると今度はグァァァァという先ほどの幻獣とは種類が違う、

恐ろしい声が聞こえた。



「おいおい、こいつはまずい!今すぐ逃げるぞ」



 仙撃が先ほどよりも焦っている。

この声の主を知っているのか!?

幻獣よりも恐ろしい存在なんて、何が現れるんだ?


 途端、上空から俺たちを包み込むほどの大きな影が現れる。

その影に太陽の光が完全に遮られ、辺りが暗くなる。


 上を見上げると、黒い何かが飛んでいた。

すると空からその黒い何かが降ってきた。



「危ない!」



 ぶつかるすんでのところで影から脱出して躱す。

それは目の前でバサッバサッ、と飛んでいる。



「龍!?」



 目の前には確かに龍がいた。

黒く光っている体に空を覆い尽くすほどの大きな翼。


 ドシンッ!という音と共に30m程先に龍が着地する。

着地しただけで地震が起こったかのような地響きがする。

龍の後ろには長く固そうな尻尾が生えており、ズズズッと地面を這って音を出している。



「こいつはA組の黒崎雌雄、能力は”龍化”だ」



 仙撃が言う。

龍化!?



「まじかよ!これも能力なのか!?」


「俺が中等部でB組だった時、こいつに散々やられたよ!今日は学園でも強い能力者ばかり出くわすな!幻獣の次は龍・・・どうやら俺たち、運が相当悪いみたいだな」



 龍がその凛々しい顔で天を仰ぎ、

ゴォォォォという雄叫びをあげた。


 空気が割れる。

龍の雄叫びが耳に入ってきた瞬間、体がすさまじい恐怖に襲われた。

今の俺たちは完全に捕食対象になっている。

 

 目の前の龍はそんな俺たちを嘲笑うかのように大きな口を空に向かって開けた。

すると龍の口から赤い煌めきが溢れる。

まさか・・・



「おい、火を吹くわけじゃないよな!?」


「まずい、このままじゃ丸焦げだ!」



 3人とも目の前の非現実的な光景に唖然として動けない。

瞬間、龍は大きな口をこちらに向けて勢いよく火を吹いた。

まだ離れているのに暑さが伝わってくる。


 その暑さで我に返る。

避けないと!


 龍の圧力に対抗し、気合いで体を動かそうとする。

同時に仙撃も動き始める。

しかし流星が一向に動こうとせず、

地面にへたり込んだ。

流星は完全に腰が抜けている。


 龍の吹いた灼熱の火はどんどんと近づいてくる。

脳裏に”死”が想像される。

ここで死ぬのか?・・・いや、ここじゃない!

流星の腕を掴んで強引に引っ張り、ヘッドスライディングする。



「熱っちぃ!ちょっと燃えたぞ!」


「・・・あ、ありがとう日向くん!」



 今のまともに喰らったら丸焦げで死んでたぞ。

龍は再び大きく口を開け、2発目の準備をしている。



「まさか、A組の能力がこれほどまでとはな!」



あまりにも俺たちと能力が違いすぎてもう笑うしかない。


 さっきの幻獣といい龍といい、

俺たちがなんでC組なのかがこの短時間でよく理解できた。


 A組とC組では能力の格が違う。

こんなの・・・勝てるわけない。



「流石にこれは逃げるしかないよね!?」


「ああ、2人とも逃げるぞ!こっちだ!」



 仙撃が地下へ続く階段を指差す。

ここは街だ、地下鉄もある!


 龍は俺たちを待たずに火を吹いた。

ギリギリで火を避けて地下への道に飛び込む。


 振り返らずにひたすら階段を下る。

下りきった時、地上からグァァァァという雄叫びが聞こえ、

バサバサッと飛んでいく音が聞こえた。



「よかった・・・流石に龍はここまで追ってこれないようだね」



 流星が安心したのかその場にへたり込む。

俺と仙撃もつられて座り込む。

3人とも疲労困憊だった。

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