第11話 闇でうごめくもの

 何も見えない!

現れたA組の黒い霧の能力で瞬く間に視界を奪われた。


 その時、タタタッという足音が聞こえた。

何かが闇の中で動き回ってる!

この能力を使ってたやつか!?


 ちょっと待て、真っ先に狙われるのは王様の俺か?

そう理解した瞬間にサーッと冷や汗が流れる。


 落ち着け、状況を思い出せ。

相手は2人だったはずだ。


 冷静に位置を確認しよう!

俺は王様だから真ん中で他のみんなは護衛として仙擊を先頭に俺を取り囲んでる。

右隣には流星、左隣は神藤さんだったはずだ。

でも、暗闇で左右がわからなくなってる!

俺は今どっちを向いてるんだ!?



「流星!」



暗闇に向かって呼びかける。



「日向くん!僕はここにいるよ!」



近くから流星の声が聞こえた。


 その時、近くからぐあっ!という殴られたようなうめき声が聞こえた。

ドサッと地面に倒れこむ音が聞こえる。

嘘だろ?攻撃してるのか!?

いくら妨害するって言っても足止めするぐらいじゃないのか!

これはただのレクリエーションだろ!?


 様々な方向からうめき声が聞こえる。

暗闇の中で続々と仲間が倒れていっている。

能力を出したあいつはこの霧の中で俺たちの姿が見えてるのだろうか。


 先ほどのようにうまく頭が回らず、

ただA組との能力差に絶望するしかできなかった。


 もしかして俺はこの王様ゴールを甘く見ていたのかもしれない。

これは仲を深めるレクリエーションのゲームなんかじゃない。



「鳴神くん!逃げて!」



 どこかから神藤さんの声が聞こえた。

その声にハッとする。



「神藤さん!」



 神藤さんを助けようと声の方へ行こうとすると、目の前に何か気配を感じた。

誰かいる。

暗闇で見えないが、はっきり人の気配を感じる。



「お前が王様か」



 とても低く、引き摺り込まれそうな声が聞こえた。

感覚的に自分の身が危ないと理解する。

無意識に少しずつ後ずさりしていた。


 その時、目の前から強い威圧感を感じた。

感じた瞬間に咄嗟に右に飛びのけた。

上手く躱せたのかわからないが、暗闇で転がって完全に位置感覚がわからなくなる。

地面に転がって立ち上がろうとした時、誰かにぶつかった。



「なんだ!?」



 仙撃の声だ!

すぐに立ち上がり、仙撃と肩を合わせる。



「仙撃、俺だ!鳴神だ!俺から離れるな!」


「ああ!」


「2人とも!僕もいるよ!」



近くから流星の声が聞こえる。



「流星こっちだ!3人で流星の能力で逃げよう!」



 その時、グルルルルル、と何か獣のような鳴き声を感じた。

その声は俺たちの周りを獲物を捕らえるように回っている。

まるでこれから始まる狩りを楽しみにしているようだ。



「おいおい、これはやばそうだな!」



 仙撃も同じ気配を感じていた。

次の瞬間、一気に体が引っ張られた。


 流星の能力だ!

闇の中を駆け抜けているのがわかる。

どんどんと獣の気配は遠くなっていく。


 途端に視界が明るくなり、世界に光が戻る。

見ると流星が俺と仙撃の腕を引っ張って走っていた。



「ごめん!2人しか救えなかった!」



 後ろを確認すると、広範囲に黒い霧が広がっていた。

中は完全に真っ暗だ。

もしかしてあの霧、光を遮断してるのか?


 あの中にはまだ護衛のみんながいるはず。

大丈夫だろうか・・・



「まんまと能力にやられちまったな。俺の”衝撃”の能力もロクに使えなかった」


「ああ、でも王様の俺が生き残っててよかった。それにこの王様ゴール、只のお遊びじゃなさそうだな」



 さっきの霧の中で悲鳴やうめき声が聞こえる。

あれは誰かが殴られた音だ。



「”能力あり”ってことはつまり、相手に危害を加えてもいいってことか・・・」

 

「そうだね、うん・・・でも今は進もう!A組の陣地はこっちのはず!」



 流星が俺たちを先導する。

すると、ピーッと大きな音が聞こえた。

なんだこの音。



「あぁ!」



 流星が情けない声を出す。

ふと電光掲示板を見ると得点が3対0になっていた。



「もう3点もとられてるじゃねーか!」



 俺たちはまだ1点も獲得してない!

電光掲示板の下にはタイマーがあって、

3分のカウントダウンが始まっている。


 そうか、王様が得点するとクールタイムで3分間は得点できないんだったな。

その間は逃げないといけないのか。



「流星、急ごう!」


「うん!」



 流星の能力で街を駆け抜ける。

どんどんさっきの霧から離れていく。



「やっぱりA組とC組じゃ差がありすぎるのかな・・・」



流星の悲しい呟きが聞こえる。



「悔しいがそうだ。俺は”進学組”だからよくわかる」



 仙撃が”進学組”だと言った。

進学組って確か内部進学で中等部から高等部に上がった人のことを言うんだよな。



「仙撃は進学組だったのか」


「ああ、俺は中等部でB組だったんだ。その時にA組の実力はこれでもかって理解した」



 頼む、護衛のみんな、無事でいてくれ。

遠く後ろの黒い霧の中から、ウォォォォと何かの鳴き声が聞こえた。

これは・・・さっき霧の中で聞いた獣の声だ!


 途端、何かがバッ!っと黒い霧を抜けて飛び出した。

その何かが追いかけてくる。


 それは狼のような見た目で人を軽く上回る大きさの体。

そして白く輝く体毛で全身が覆われている。

その美しい見た目に対して爪は鋭く尖っており、

牙を向いて四足歩行で恐ろしい速さでこちらに向かってきている。


 上にはA組の生徒であろう女が跨っていて、

こちらを一心不乱に追いかけ続けている。

まさか遭遇した2人の能力者のうち、黒い霧の能力者じゃない方か!


 女の能力か?女が操っている獣・・・

いや、それは獣というにはあまりにも美しかった。

言うなれば、幻獣だった。

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