第10話 格上の能力者
もうすぐ王様ゴールがスタートする。
赤坂のせいでろくに作戦会議もできてない。
白線の引いてある端の方を見ると、
腕を組んで不機嫌そうな赤坂が一人でいた。
明らかにこちらに対する敵対心を感じる。
「なあ流星、あいつどう思う?」
端の方に一人でポツンといる赤坂を指差し、
隣に並ぶ流星に話しかける。
「うん、もっと協力して欲しいよね」
「だよなー」
「私、ちょっとあの人苦手かも・・・」
神藤さんが眉をひそめ、嫌悪感を顔に出している。
「いやー、途中までいい雰囲気だったんだけどな!」
後ろから仙撃が歩いてきた。
「いや、クラスをまとめようとしてくれてありがとう」
「全然!これぐらいしかできねーから!」
こういうリーダーシップをとってくれる存在は本当にありがたい。
「っていうか俺が王様でいいのか?」
ポケットに入っていた腕章を出す。
「もちろん!どうせ話し合いもできてないんだ、誰がなったっていいだろ!」
「そ、そうか。じゃあいいか」
取り出した腕章を腕につける。
まさかの俺が王様かよ。
「よろしくな、王様!」
そういえば仙撃の能力って・・・
仙撃に能力を聞こうとした時、
「両クラス、準備できたようですね」
スピーカーから声が聞こえてきた。
「それじゃあ王様ゴール、スタートです」
スピーカーから笛の音が響き渡る。
いよいよ王様ゴールが始まった。
ルールは王様が相手の陣地に入れば1点。
俺はとにかく相手の陣地を目指さないと。
相手はA組・・・
いや、怖気付いてはダメだ。
スタートしたはいいものの、
護衛も防衛も決めておらず、みんなどうすればいいかわからずに立ち尽くしている。
「よーーし、みんな!とにかく最初の王様は鳴神に決まった!それぞれの能力は把握出来ていないが護衛と防衛に半分ずつ分かれて欲しい!俺は護衛に行く!」
仙撃がテキパキと指示を出す。
すごいな、仙撃の指示を受けてC組のみんなの役割がどんどん決まっていく。
「流星、神藤さん、どうする?」
「僕は鳴神くんを守る護衛に行くよ」
「私も!」
「そっか!よろしく、2人とも!」
隣にいる2人が頷く。
「よーし!何となく役割が決まったな!防衛のみんな、陣地の守りは任せた!じゃあみんな、頑張るぞー!」
おー!と、小さいがC組のみんなが掛け声に応じる。
「行くぞ、王様!」
仙撃が俺の背中を叩き、
先頭に出て走り出す。
さあ、いよいよ始まりだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王様の俺を守る護衛は仙撃や流星、神藤さんら全員で15人程。
仙撃が先頭で俺を中心に取り囲むように陣形を組んで街中を移動している。
自分の陣地から走り出して1分程経ったが、
まだ相手の陣地どころかA組の生徒の姿も見えてこない。
やっぱりこの街は広い、
テーマーパーク1つ分ぐらいあるって先生も言ってたよな。
電光掲示板には0対0と表示されている。
まだ得点されてないみたいだな。
「そうだ!護衛のみんなに聞くが、何か役に立ちそうな能力を持ってる奴はいるか?」
仙撃が先頭で走りながら後ろを振り向いて聞いてくる。
俺の能力は使えないな。
俺は自分の能力を人に撃ったことがない。
俺の能力は自分の中にエネルギーを溜めて、それを一気に解放することができる。
その破壊力は小さい山なら消し飛ぶぐらいだ。
もし人に向かって使えば人が死ぬ可能性がある。
使うにしても相手が同じぐらいの威力の能力を使ってきた時だ。
でもいくらA組といえ、そんな能力を持った奴はいないだろ。
あとこの能力はエネルギーが自動で体に溜まるから、
定期的に溜まったエネルギーを外に出さないといけない。
出さないとぶっ倒れる。
実はもうエネルギーはパンパンに溜まってる。
そろそろ出さないとやばい。
「僕の能力なら役に立てるかも!」
俺の右隣にいる流星が手をあげる。
「僕の能力は”速度変化”、対象の速度を加速させたり減速させたりできるんだ!人にも効果はある!」
そうか!流星の能力なら、護衛のみんなで高速で移動することができる!
一気にA組の陣地まで行って得点できるかも!
「おお!それはいい!じゃあ俺たちにその能力をかけてもらえるか?」
流星が護衛のみんなに触れようとした時、
「おい!あれを見ろ!」
護衛の誰かが叫んだ。
叫び声の主はなぜか空を指差している。
護衛全員で立ち止まってその方向を見る。
よく見てみると、速いスピードで何かがこっちに近づいてきていた。
「人だ!人が空を飛んでる!」
嘘だろ?・・・まさか!
目をこらすと確かにそれは人だった。
長い金髪で背中から生えた白く大きな翼。
”飛行”の能力を持つ天使がこちらに飛んできていた。
腕には王様の腕章がつけてある。
そうか!あいつの能力なら点を獲るのなんて簡単だ!
「なんだあいつは!?空を飛んでやがるぞ!」
仙撃が驚いた声を出す。
どんどんと天使の姿が鮮明になる。
ものすごい速さでこちらに向かってくる。
天使は涼しい顔をしていて、
俺たちのことなんて眼中にないみたいだ。
「王様の腕章をつけてるぞ!」
しかし周りに王様の護衛は付いておらず、あいつ一人だ。
まさか護衛をつけずに点を取るのをあいつ1人に任せて、あとは防衛に回すつもりか!?
このままじゃ俺たちの頭上を超えていかれる!
C組の防衛は天使を止められるか!?
「止めないと!」
流星が叫ぶ。
「よーし任せろ!」
仙撃がそう言って前に出た。
そういえば仙撃の能力をまだ聞いてない。
まさか天使を止められる程の能力なのか?
高らかに宣言した仙撃は拳を握ってそのまま大きく後ろに振りかぶった。
何をするかと思ったら、拳を振り下ろし思いっきり地面を殴った。
何やってるんだ!?コンクリートだぞ!?
途端、仙撃が殴った場所がバキバキと荒々しく砕け、
すぐにあたりに大きな地響きが起こった。
先頭の仙撃から後ろの俺たちにまで強い衝撃が伝わってくる。
まるで地震が起こっているみたいだ。
よく見ると殴った場所から白い波の形をした大きな衝撃波が発生し、
その衝撃波が天使に向かって一直線に飛んでいた。
「俺の能力は”衝撃”!衝撃波を生み出すことができるんだよ!」
衝撃波は飛んでいる天使に向かって高速で進んでいく。
このままいけば天使に衝撃波が当たる!
しかし天使はすぐに向かってくる衝撃波に気づき、勢いよく垂直に高度を上げた。
衝撃波はその下を通過し、消えていった。
「くそ!あんな上空じゃ俺の衝撃波はとどかねぇ!」
仙撃、本当にC組か?
これだけ見ればA組並みの能力に感じられる。
天使は高度を上げたまま俺たちの頭上を超え、
俺たちの陣地方向へ飛んで行こうとする。
ダメだ、高度が高すぎる!
「みんな、あいつは防衛に任せよう!俺たちの役目は王様を連れていく事だ!」
仙撃が言う。
俺はただ見ているだけしかできない。
天使は俺たちを一瞥し、俺たちの防衛の陣地の方へ飛んで行った。
「とにかく進もう!あの能力じゃ防衛がいつまで持つかもわからない!」
また護衛のみんなで走り出そうとした時、
「お前らがC組の王様とその護衛か」
A組の生徒だろうかが2人、前から歩いてきた。
「ちっ!見つかっちまった!」
仙撃が先頭でさっきのように拳を握り、地面を殴ろうとする。
衝撃波であいつらを吹き飛ばすつもりだ。
いける、A組にだって負けてない!
このまま押し切って得点しよう!
しかし、仙撃よりも一足早くA組の生徒が動いた。
A組の1人が両手を伸ばすと、手のひらから黒い霧のようなものが出た。
その霧は瞬く間に広がり、俺たちは謎の黒い霧に飲み込まれた。
「なんだこれ!?」 「みんないるか!?」 「何も見えない!」
護衛のみんなの声が闇の中に響き渡る。
突然の出来事にパニックに陥る。
どうなってるんだ!?
黒い霧のようなものは濃度が高いのか、
目を瞑っているように完全に視界が真っ暗になった。
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