第9話 VS A組


 王様ゴール、俺たちC組はいきなりA組と戦うことに。

王様ゴールのルールは、クラスで王様を一人決めて王様が相手の陣地に入れば1点。

王様は得点すれば3分間得点できず、その間は逃げないといけない。

王様以外は王様を守って相手陣地まで連れていく「護衛」と自分の陣地を守る「防衛」に分かれる。


 懸念点とすれば、俺たちC組とA組には大きな能力の差があることだ。

その能力差をどうやって埋めるかだな。


 そしてこの王様ゴールで一番活躍したとされる生徒には、

MVPとして”昇格権”が与えられる。

これがあればC組からB組に上がることができる。

C組のみんなも喉から手が出るほど欲しいはずだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 A組と対戦すると告げられた後、C組のみんなで街の端まで移動する。

みんなの足取りは重いように感じた。


 まあそうだよな。

まだクラスメイトとも仲良くなっていないのに、いきなり格上のA組と戦うなんて・・・

でも、全員が内なる闘志を燃やしているようにも感じた。


 それは活躍してMVPに選ばれれば”昇格権”を与えられるからだ。

これがあればB組に上がれて研究所送りを、つまり死を回避できる。



「日向くん、勝てると思う?」



 流星が不安そうに聞いてくる。

その表情にはこの王様ゴールに勝つことの自信のなさが現れている。



「いや、わかんない。でもA組も大した事ないかもしれないぜ?」



 俺も不安だが、そんな気持ちを隠して元気づけるような言葉をかける。

でも本当にそう思う。

まだA組の能力を具体的に何も知らない。

知ってるのは天使の空を飛ぶ能力ぐらいだ。

 


「怪我しないようにね」



隣の神藤さんが言う。



「そうだね、まあ合宿の中のゲームだし!」



ただのゲーム、この時はそう考えていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 しばらく歩くと街の端に到着した。

普通の街から急に道が途絶えていて、少し奥には森が広がっている。

街の一番端には白線が引いてある。



「この白線より奥がお前らの陣地だ」



 いきなり声がしたと思ったら、

いつの間にか三田寺先生がいた。

白線近くの壁にもたれかかっている。



「防衛の仕事はこの白線より向こうに王様を入れないようにすることだ」



防衛か・・・俺の能力は防衛には役立たないかもな。



「先生、俺たちC組は勝てると思いますか?」



 三田寺先生はどう思ってるのか気になって聞いてみる。

王様ゴールは毎年の恒例行事らしいし、

三田寺先生は過去の王様ゴールの結果を知ってるはずだ。



「まあ相手はA組だ。C組の担任の俺が言うのもあれだが、例年通りボコボコにされるだろうな」



 予想通りの返答が返ってきた。

やっぱり毎年、C組はA組に勝てないんだな。




「A組の能力はそんなにすごいんですか?」


「ああ、A組は能力者の中でも限られたものしかなれない一つ上の存在だ」



 一つ上の存在・・・

頭の中でA組に対する恐怖感が募り始める。



「そんなに・・・」


「A組の能力はお前らの想像を遥かに超えてくる」



クラスのみんなの表情にどんどんと不安が募る。



「まあ頑張れよ。あとこれ・・・王様はこの腕章をつけてもらうから」



 三田寺先生が俺に腕章を渡した。

真っ赤な腕章で、金色で綺麗にデザインしてある。



「とりあえず鳴神に渡しておく。誰を王様にするかはあとで話し合えよー」



 そう言うと三田寺先生はポケットからライターを取り出し、

煙草に火をつけ始めた。



「それじゃあ今から10分の作戦タイムです」



 近くのスピーカーから声が聞こえる。

B組の女の先生の声だ。


 10分の作戦タイム・・・

王様、護衛、防衛を決めたり、それぞれの作戦を決めたりとか、

やることはいっぱいある。


 なんとなくみんなで近くに寄って集まる。

三田寺先生はそれを遠くで煙草を吸いながら見守っている。


 多分これがクラス全員で話す初めての機会だ。

C組は全員で35人程。

この人数をまとめるのは簡単じゃない。


 誰も話そうとせず、

みんな様子を伺っているようだった。


 そりゃそうだ、ほぼ初対面なんだから。

それに試合への不安感もある。

誰かまとめてくれるような奴がいれば・・・



「よし!作戦会議を始めようぜ!」



 大きく元気な声が後ろから聞こえる。

その声の主は生徒をかき分けて前に出てこようとしている。


 出てきたのは青髪のサイドを刈り上げたベリーショートでジャージを腰に巻いている男子生徒だった。

口角が対称に上がっている眩しい笑顔で綺麗な白い歯をキラッと覗かせている。

なんか・・・いかにも明るいやつって感じがするな。



「俺は仙撃音波!よろしく!どうしたみんな、不安なのか?」



仙撃という生徒は不安なんて一切感じていないような希望に満ちた笑顔で話しかける。



「そりゃ不安だよ・・・」「相手はA組だしな・・・」



対照的にC組のみんなから不安そうな声がポツリと漏れる。



「そんなに不安がるなって!まだA組の能力も見たことないんだからよ!始まる前からそんなんでどうする!」



仙撃がC組のみんなを奮い立たせる。



「どうする?A組がショボい能力ばっかだったら。ははは!」



仙撃は天を見上げ、大きく笑っている。



「その通りだよ!」「うん、まだわからないよね!」



 どんどんとやる気の輪が広がっていく。

仙撃のおかげでクラスがやる気になってきた。


 少しずつ打ち解けていき、話し合いが始まった。

C組のみんなも協力的な人ばかりだし、

これはうまく行くかもな。



「とにかくみんなの能力を把握しよう!」



仙撃のおかげでC組が少しずつまとまりかけていた時、



「俺は1人でやる」



 そんな声が聞こえてきた。

みんなが驚いたように声の方向を見る。

そう言ったのは俺たちと同じテントで赤髪オールバックの赤坂紫炎だった。

こいつ、俺が声をかけた時も仲良くするつもりはないって言ってたよな。



「まあそんなこと言わずにさ、仲良くやろうぜ!」



 仙撃が赤坂に近づいて肩に手を置こうとすると、

赤坂がその手をバッ!と振り払った。



「俺はお前ら弱小能力者と仲良くするつもりはねぇ!」



おいおい、こいつヤベェな。



「そんなこと言わずにさ〜」



 仙撃が赤坂をなだめている。

さっきまでの楽しそうな雰囲気は跡形もなくどこかへ行った。



「そんなこと言ってもお前もC組じゃないか」



クラスの誰かが呟いた。



「あぁ!なんだと!?」



 赤坂にはその声が聞こえており、

言ったであろう男子生徒に掴みかかった。



「お、おい!やめろって」



 仙撃とともに止めに入り、

掴みかかっている赤坂を男子生徒から必死に引き離そうとする。

場の雰囲気が騒然としてピンっと張り詰める。


 赤坂をなんとか引き離し、

男子生徒と距離を取らせる。



「俺は絶対A組になってやる!お前たちみたいな弱い能力者とは違う!」



 赤坂が男子生徒だけでなく、

C組全員に向かって言った。


 空気が凍る。

まずい、さっきまで一つになりかけていたのに、

赤坂のせいで一気に全員の心が離れていった。



「作戦タイム終了です」



 スピーカーから残酷な内容が聞こえる。

最悪だ・・・

作戦なんて全く立てられてない。



「それでは両クラス、それぞれの役割に分かれてスタートの準備をしてください」



 赤坂はそんなスピーカーからの声なんて聞こえてないのか、

フンッ!と1人で歩いてどこかに行ってしまった。

残りのクラスメイトが最悪の空気に取り残される。



「あー、まあこういうこともあるよな!」



 仙撃がアッハッハ!と笑っている。

赤坂に全然怒ってないみたいだった。

しかし、C組のみんなの心はもう手遅れなほど離れていた。

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