第8話 昇格権


ログハウスを背に、テントのある広場へ向かう。



「なんで私たちだけ・・・」「他のクラスがそんなに偉いのかよ」



ぶつぶつとC組のみんなの不満の声が聞こえる。



「俺、この学園で楽しいことばっかりあると思ってワクワクで入学したんだけど」



思わず俺もポツリと呟く。



「僕もそうだったけど、現実は厳しいみたいだね」


「私も、せっかく遠い田舎から頑張って来たのに・・・」



 流星と神藤さんと3人で肩を落としながら歩く。

周りを見ると同じような光景が目に入ってきた。

この学園、思った以上にC組への風当たりが強い。



「なあ、こんなの教育機関としてダメじゃない?」



行き場のない怒りをもっと大きなところにぶつけてみる。



「・・・でも、この学園は国が直々に管理してるし、何言っても無駄かもしれないね.」



流星から現実的な一言をもらう。



「私たちみたいな弱能力者は必要ないんだね」



 神藤さんが悲しそうに言う。

でもそれが現実だった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 C組用のテントは全部で十数個程だった。

テントの数的に1つのテントをだいたい3人で使用しなければいけなかった。

広場の真ん中にはキャンプファイヤーをできるような場所があり、薪を組んである。


 俺と流星ともう1人の男子生徒でテントを使用することに。

テントは広いが、3人で使うとなると狭い。

テントの中に荷物を置くと足を伸ばしてちょうどぐらいだな。



「なんでこんなテントなんだよ・・・」



 テントを一緒に使うもう1人の男子生徒も、このひどい待遇に文句を言っていた。

赤の長髪オールバックに鋭い目つき。

体格は筋肉質で怒らせると怖そうだ。



「なぁ、名前聞いてもいいか?」



恐る恐る名前を聞いてみる。



「・・・赤坂紫炎」



少し無愛想だが答えてくれた。



「そっか!俺は鳴神日向!」


「僕は白川流星」



 チャンスだと思って流星と2人で赤坂に自己紹介する。

今日から2日、一緒にこの狭いテントで暮らすんだし仲良くしないとな。



「これからよろしくな!」



元気に挨拶してみる。



「あぁ?俺は仲良くするつもりはねぇよ」



 赤坂がギロっと俺を睨んで言う。

返ってきた言葉は恐ろしかった。

あー怖い!流星助けて!

流星を見ると、俺と同じように顔が引きつって強張っていた。

せっかく仲良くなれると思ったのに・・・


 帰りたい・・・こんなやつと2日も生活するのは無理だ!

あぁ、寮の同居人が赤坂じゃなくて流星で本当に良かった・・・



「おーい。お前ら出てこーい」



 テントの外から三田寺先生の声が聞こえる。

声に呼ばれてテントから出る。


 他のC組の生徒も同じようにテントから出てきたが、

みんな少し疲れた顔をしていた。

それはここまで歩いてきた疲れではなく、このひどい待遇についての疲れだと理解できた。



「今から合宿でやるゲームの説明をする。ついてこい」



 ゲームの説明か。

三田寺先生についていき、広場を後にする。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ログハウスの目の前にある獣道を進む。

少し進むとA組とB組の姿が見えた。

そしてその前にはありえない光景が目の前に広がっていた。


 なんとそこには街があった。

ビルに道路に信号、本物の街だ。


 学園前にある街だけじゃなくて、

こんな山奥にもう一つ街があるなんて!


 ・・・でもこの街、何かおかしい。

とても違和感を感じる。



「流星、神藤さん、この街何か変じゃない?」


「うん、僕も違和感を感じるけど、それが何かわからないんだ」



流星も同じ違和感を感じているようだった。



「人がいない・・・」



神藤さんが呟く。



「本当だ!よく見るとこの街、人が全くいない!」



違和感の正体はこれか。



「お、C組も来たな。それでは合宿で行うゲームの説明をする!」



A組の先生が説明を始める。



「まず、みんなの目の前に広がっている街は、学園の演習場だ」



演習場?



「見てもらってわかると思うが、広さは大体テーマパーク一個分ぐらいはある。そしてこの街には人がいない」



やっぱり人がいないんだな。



「だからここでは好きなだけ能力を使ってもいい」



 好きなだけ・・・

何か嫌な予感がした。

A組が能力を好きなだけ使ったら・・・


 街をよく見ると一部のビルが崩れていたりしている。

これも能力の痕なのだろうか。



「そしてこの合宿ではみんなにあるゲームを行ってもらう。それは・・・」



A組の担任の先生が大きく息を吸う。



「王様ゴールだ!」



王様ゴール?


 

「ルールは簡単!まずクラスで1人、王様を決めてもらう。王様が相手の陣地に入れば1点獲得だ。陣地は演習場の端と端にある。そして王様以外は王様を守って相手の陣地まで連れて行く「護衛」と自分の陣地を守る「防衛」に分かれる。得点すれば王様は3分間得点できない。その間は相手から逃げることが必要だ。最終的に得点の多いチームの勝利とする。制限時間は1時間だ!」



 長々と説明されたが、

要は自分の陣地を守りつつ、王様を相手の陣地まで連れていけばいいってことか。

っていうか、まさかクラス対抗のゲームをするとは。



「もちろん能力は使用可能!さらに作戦は自由だ!王様の護衛を手厚くするも良し、能力の強い王様なら護衛を少なくして陣地の防衛に力を入れられる。作戦はたくさんあるぞ!」



 能力あり・・・

でもそれじゃあA組が有利にならないか?

まあ、そんな理不尽は当たり前か。



「得点はこの電光掲示板に表示される!」



 A組の先生が指差した先には大きな電光掲示板があった。

ここには得点と残り時間が表示されるようだった。



「ゲームは各組総当たり戦で今日を含めて2日行う。そして今回の2日間の合宿でお前たちの食事はこのゲームの順位によって決まる」



え?なんだって!?



「1位は学園が用意した高級料理、2位は普通の料理、そして3位は・・・食事なしだ」


 

 食事なし!?

周りから生徒の驚いた声が聞こえる。

A組の先生は気にせずに進めていく。



「そしてもう一つ、この王様ゴールで一番活躍したとされるMVPの生徒には、”昇格権”を与える!」



 おぉ!と一気に場が盛り上がる。

昇格権!これがあればC組から上がれる!



「C組の生徒であれば昇格権1枚でB組に、B組の生徒であれば昇格権2枚でA組だ!みんな頑張ってくれ!」



 俄然やる気が出てきた。

しかしA組の生徒は全く動じていない。

昇格権なんて要らないって思ってるんだろうな。



「それでは早速、最初の組み合わせは・・・A組対C組!」



いきなり俺たちかよ、しかもA組と。



「それぞれの陣地は街の端にある。じゃあ各組は移動してくれ!」



 能力あり・・・それだけで勝ち目が薄いのがわかる。

A組を見るとニヤニヤと勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

俺たちC組はなんとなく、これから起こることの想像ができていた。

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