第7話 王様ゴール
いよいよ学園の授業が本格的に始まった。
普通の授業に加えて能力のための変わった授業もあり、毎日新しい経験ばかりだった。
そんな楽しい日々だが、
頭のどこかにあるC組は卒業すれば研究所送りという現実が心を引っ張っていた。
そして入学して一週間ほど経ったある日の授業終わりのHR。
「突然だけど明日から合宿でーす」
担任の三田寺先生がだるそうに生徒たちに告げる。
合宿?
クラスからざわざわと騒ぎ出す。
「新高校一年生の恒例行事なんだよ。内容は学園の裏山にある施設で2日間の共同生活だ」
裏山の施設?2日間?
その言葉にクラスがさらに騒ぐ。
なんだか楽しそうだな。
合宿を想像して気持ちが高まってくる。
「はーい静かに。とにかく明日の朝に高等部寮前の中庭に集合すること。じゃあ解散!」
三田寺先生は勝手に話を終えて教室を出ていく。
合宿か・・・それも2日間。
まだ入学して日も浅いし、クラスメイトとは仲良くなれてない。
話すのは同じ寮部屋の流星と隣の席の神藤さんぐらいだ。
「合宿だって、神藤さん」
隣の席の”交信”の能力を持つ神藤さんに話しかける。
「合宿・・・ちょっと不安だけど楽しそう」
神藤さんがニコッと微笑む。
確かに合宿だもんな。
みんなで2日間一緒なんだ、楽しいに決まってる。
この時は楽しい合宿になると思っていた。
これから始まる、ある”ゲーム”の存在なんて知る由もなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして翌日の朝、
言われた通りに寮の中庭に集まる。
他の担任の先生は先生らしくビシッ!としてるのに、
C組の担任の三田寺先生は誰よりも眠そうだ。
中庭には高1のA・B・Cすべての組が集まっている。
みんな体操服で、
半袖やジャージなどそれぞれが上手に着こなしている。
「それでは今から合宿の説明をする!」
A組の担任の先生が高らかに言う。
「今回の合宿は今日と明日の2日間!まだみんな入学して日が浅い。クラスメイトとも仲良くなってないだろう。ということで合宿の目的はクラスの仲を深めること!」
今までクラスの人と話すことはあんまりなかったし、これはいい機会になるな。
「そしてこの合宿ではあるゲームを行ってもらう」
ゲーム?レクリエーションみたいな感じか?
「まあそれは後々説明する。とにかく合宿だ!存分に楽しんでくれ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
合宿についての説明が終わると、
各クラスの担任が先導で学園の裏山にある施設まで移動することに。
寮から学校の裏を通って森の中の獣道を進んでいく。
目の前には木が生い茂る、大きな森が広がっている。
元々、山の上を切り開いてこの学園と街は建てられてるし、
当然、周りは森に囲まれてる。
学園にくる途中にロープウェイに登ったのも山の上だからだ。
「合宿、楽しみだな」
隣を歩く神藤さんと流星に話しかける。
神藤さんと流星は俺の紹介ですぐに仲良くなった。
「そうだね日向くん。僕も楽しみになってきた」
「うん、私も楽しみ」
朝の森に鳥の鳴き声が響いている。
新鮮な空気がおいしい。
「先生が言ってたゲームってどんなのだろうなー」
「でもクラスで協力するような楽しいやつなんじゃない?」
そうだといいな。
仲良くなることが目的の合宿なんだし、
クラスで戦うようなことはしないだろ。
「もうちょいだぞー。頑張れー」
C組を引率している三田寺先生が生徒を置いてどんどん進んでいく。
出発して10分ほど経ったがまだまだ到着する気配はない。
学園の裏っていうからすぐそこだと思ったら全然違うじゃねーか!
もう疲れた、帰りたい。
「流星、神藤さん、俺もう疲れた・・・」
「頑張って!」
「先生ももうちょっとって言ってるよ!」
2人が俺を優しく励ましてくれる。
もうちょっとなんて絶対嘘だって・・・
そこから30分は歩いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「着いたぞー」
三田寺先生の声が聞こえる。
「すごい!」
神藤さんが驚く声をあげる。
俺はもうヘトヘトで景色なんてロクに確認してる場合じゃなかった。
踏ん張って顔を上げると目の前には木で建てられているとても大きなログハウスがあった。
ログハウスでここまで大きいのは初めて見た。
これは学年全員が泊まれるわけだ。
辺りには木の優しい香りがする。
「みんなにここで2日間過ごしてもらう!色々説明したいことはあるが、それは荷物を置いてからにしよう!」
A組の先生がログハウスの中に入っていく。
こんなとこで合宿なんて最高だ。
「めっちゃいいとこじゃん!」「早く入ろう!」
C組のクラスメイトの喜ぶ声が聞こえる。
ワクワクしながら中に入ろうとすると、
「あー、お前らはここじゃないぞ」
三田寺先生がログハウスに入ろうとするC組を止める。
え?ここじゃない?
「ここじゃないって、どういうことですか?」
「お前たちはこっち」
三田寺先生がログハウスの横を指差す。
そこには小さな広場にテントがいくつも設置してあった。
「お前らはログハウスじゃなくてあのテントだから」
え!?
「な、なんで?」「どういうこと?」
C組の戸惑いの声が聞こえる。
「いやー、俺もログハウスに入れてやりたいけど、ログハウスの空き部屋がないんだよ」
空き部屋がない!?こんなに大きいのに!?
っていうかなんで全員分用意しておかないんだよ!
「さっきA組の先生がみんなはここで過ごしてもらうって言ってましたよ!」
「”みんな”にお前らは含まれてないんだよ」
あからさまな待遇の違いに言葉が出ない。
「でもなんで俺らなんですか!」
誰かが先生に強く問いかける。
「そりゃ、一番下のC組だからだろ」
C組だから・・・
こんなのただのC組への嫌がらせじゃないか!
「C組とか関係ないだろ!」
C組の誰かの不満の声が聞こえる。
「いや、俺に言われても・・・」
三田寺先生とC組のみんなで押し問答になる。
A、B組がそんな光景を横目にゾロゾロとログハウスに入っていく。
A、B組は俺たちの待遇のことなんか全然気にしていない。
中には嘲笑う、蔑むような視線を向ける生徒もいる。
まるで自慢するように軽い足取りでログハウスに入って行っている。
「とにかくこれは決定事項だから。じゃ、また後でくるからテントで待ってろ」
三田寺先生はそう言うとA、B組の生徒とともにログハウスに入っていった。
C組の俺たちはログハウスの前に呆然と取り残された。
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