第5話 寮の同居人


 C組の生徒はこの学園を卒業すると研究対象として研究所に送られ、

まだ未解明な能力を解明するために実験対象として研究の材料にされて・・・殺される。


 でもそれを回避する方法が一つだけある。

それは成績優秀者や功績を残した者に与えられる、1つ上のクラスに行く権利である”昇格権”。


 卒業まであと3年、それまでに昇格権を得てC組から這い上がる。

それができなければC組の生徒は研究所送りで死ぬ。

俺たちはこの学園の厳しい現実を突きつけられた。


 

「まあC組と言ってもA組とやることはそんなに変わらないから。とにかく、これがC組のクラスメイトだから仲良くするように。じゃあ入学式行くぞー」



 三田寺先生はそう言うと何事もなかったように教室を出て行った。

教室にC組のみんなが取り残される。


 誰一人、移動しようとしなかった。

いや、立ち上がることができなかった。

三田寺先生の言葉を頭の中で思い出す。



「C組の生徒は卒業すれば研究所に送られて、殺される」



 C組のみんなが何かしたか?

ただ、能力が発現したからこの学園に来ただけなのに。

好きでこの学園に来たわけじゃない。

半ば強制的に連れて来られたんだ。

それなのに入学していきなりそんなことを知らされるなんて。

C組のみんなの表情は暗かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 入学式は体育館で行われるらしく、

体育館の外で入場まで待機する。

体育館に一番近いところに新高校一年生、

そしてその後ろに新中一と新小一の子達が並んでいる。

それ以外の生徒はすでに入場しているようだった。


 新小一の子達はちっちゃくて可愛い。

みんな落ち着きがなくてわちゃわちゃ騒いでいる。

先生たちも落ち着かせるのに大変そうだ。


 中等部、小頭部の子達もA組B組C組と分けられているらしい。

この学園は小中高一貫だからそのままエスカレーター式に上がっていく。

噂によると中等部も高等部と同じシステムで中3のC組は高校進学時に研究所に送られるらしい。

そしてA組、B組だけが高校に進学できるとのこと。


 小頭部の子もみんな研究所行きのことを知ってるのか?

小頭部のC組の子達はそんなの知らないという風に楽しそうに走り回っている。


 この学園の制服は男女ともにブレザーで、

高等部はベージュの制服で中等部の生徒は赤色、そして小等部は青色になっている。


 新高校一年生は真ん中にA組、その両隣にB・C組と並んでいる。

各クラスの先頭には担任の先生が並んでいる。


 A組の担任の先生は白髪短髪ですごくガタイが良く、

筋肉隆々でずっと笑顔で白い歯をキラキラさせている。


 デケェ・・・

縦にも横にも体が大きい。

本当に人間か?


 この先生も能力者なのか?

大人でも能力者はいるけど、珍しいらしい。


 そしてB組は女性の先生で、

黒色の長い髪がとても綺麗だ。

先生と思えないほど若々しい。


 で、我らがC組は常にやる気のなさそうな表情の黒髪ウルフカットの三田寺先生。

他の2人とは比べ物にならないぐらいオーラがない。

 

 隣を見るとA組が並んでいる。

そういえば初めてA組の生徒たちを見たな。


 やっぱりC組とは違う、それぞれが類稀なる能力を持っているのが一目でわかる。

くそ!本当なら俺もA組だったのに!

能力面談の時にしっかり説明しなかったのが今になって悔やまれる。


 A組の生徒をよく観察する。

すると見たことのある女の子がいた。

あ!あいつ!


 美しい金髪で不愛想な態度。

さっきロープウェイから落ちたときに俺を救ってくれた金髪だ。


 腕を組んで指でトントン叩いている。

不機嫌そうで早く始まらないかと考えてるのがすごく伝わってくる。

こんなに離れていても無愛想なのがわかる。

助けてくれたお礼を言わないとな。


 そんな俺の視線に気づいたのか金髪と目が合う。

さっきはありがとう、と手でも振ってやろうかと思った時、

金髪がぷいっ、とそっぽを向いた。


 おい!そんなんじゃ友達できないぞ!

そっぽを向かれてもこっちを向け!とじっと見つめていると、



「これがA組か」



 C組からそんな声が聞こえてきた。

C組のクラスメイトたちもA組の雰囲気に圧倒されているようだった。


 A組がそんな視線に気づいたのか、

C組を見ている。


 どれも蔑んだ目だ。

ああ、所詮C組、弱小能力者の落ちこぼれだろ、と馬鹿にしているのが伝わる。

上と下、勝ちと負け、そんな大きな違いを感じた。



「それでは新入生の入場です!」



 体育館から大きな拍手が聞こえる。

A組がその拍手の音に呑まれるように入場していく。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 A組が入場すると続いてB組も入場し、

最後に俺たちC組の番だ。


 体育館はとても大きく、

厳格な雰囲気で体育館というよりホールのような感じがした。


 A組のように暖かく迎えられると意気揚々と体育館に入場したが、

そんな雰囲気ではなかった。


 拍手の音も小さいし、気持ちも全くこもっていない。

それに拍手しているのはほとんどが2年、3年のC組だった。


 上級生のA組は歓迎するどころか俺たちC組を見てニヤニヤと笑っている。

この学園はここまで能力が大事なのか。


 拍手してくれているC組も、

これから俺たち新入生のC組に起こることを哀れんでいるような雰囲気を感じた。


 上級生・・・

C組の2年生はあと2年、3年生はあと1年で研究所行きか。

C組の3年生の表情からは光が消えているように見えた。


 そこから入学式は始まって学長の話や新入生の心構えの話があったが、

どれもA組やB組を中心とした話ばかりだった。


 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



息苦しく居心地が悪かった体育館からやっと解放され、教室に戻ってくる。



「えー、入学式お疲れー」



 C組担任の三田寺先生が言う。

ちなみに三田寺先生は入学式の時、体育館の壁に寄りかかって寝てた。

今もあくびをして眠そうにしている。

この先生は本当に大丈夫なのか?



「まあ今日はこれで終わりだ。授業は明日からだぞ、よかったな」



もう終わりか。



「じゃあ今からお前らが生活する寮に案内する。まず男子は俺についてこい」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 三田寺先生について行って教室を出る。

寮は学校のすぐ近くにあり、男子寮と女子寮に分かれている。

男子寮と女子寮の間には中庭があって、

噴水や綺麗な花壇、さらにはベンチやテーブルがあって休憩できるようになっている。


 寮は全て中庭の階段で繋がっており、

一番上が高等部、その下の階段を下がると中等部、さらに下がると小等部と移動できる。



「女子寮には立ち入り禁止だぞー。まあ入ってもいいけどバレないようになー」



 先生がそんなこと言っていいのか?

この先生は本当に適当だな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 男子寮に入る。

中は思ったよりも綺麗で、

質素だが清潔感があった。


 偏見だけど男子寮ってもっと汚くて散らかってるイメージだったんだけどな。

男子寮は1階が休憩スペースで食堂や小さな売店があり、

2階がC組、3階がB組、4階がA組の寮と分けてあった。


 1年から3年まで全て同じ寮で、部屋はC組B組は2人で1部屋らしい。

A組は1人で1部屋、つまり個室ということだ。

ずるいな。


 部屋は思ったよりも広く、2人でも十分な広さだった。

2段ベッドに本棚、テーブルなど、

寮にしては綺麗で充実していた。

さすが国が管理している学園だな。


 部屋を確認しているとガチャ、とドアが開く音が聞こえた。

誰か入ってきた!

もう1人の同居人か!?


 バッ!とドアの方を向くと入ってきたのは白髪で細くてハーフのような整った顔立ちで、

女子が見たら可愛いと言いそうな男の子だった。



「えっと、この部屋の方ですか?」



 入ってきた男の子に話しかけられる。

爽やかな雰囲気で既に好印象だ。



「そ、そう!俺は鳴神日向!」


「あ、僕は白銀流星!これからよろしくね!」



 流星は俺に微笑みかけた。

優しく、ふんわりとした笑みだった。

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