第6話 二度目の春

咲夜と出会って、一年が経ち、咲夜がいなくなってから数か月が過ぎた。あの日は意外なことにも、お母さんにも、お父さんにもバレなかった。

でも、僕にはかなりのダメージだった。沢山の手を打った。神に会いに行って、抗議した。家をこっそり抜け出したりした。あの後も沢山泣いた。元から覚悟はしていたけど、いざその時が来ると人間誰しも泣いてしまうだろう。

次、咲夜と会うときは僕も咲夜と同じ神がいいかな。そしたら、二人で小さな村を大事に、大事に守り続けるんだ。そんな夢を見て僕は新しい年を迎えた。

 ああ、咲夜はこの世界にもういない神達と仲良く話して、僕の自慢を沢山しているかな。僕も咲夜と同じくらい大事な親友二人に咲夜の事を話しているよ。

「翔。その咲夜って奴、どんな奴なんだよ。」

「え~?知りたいの?」

「翔の友達に翔が取られるじゃないかって心配していたんだよ。渚。」

 翠がそう言うと、渚は「そんなんじゃねぇし」と顔を背けていた。

 僕は耐えられなくて笑ってしまった。

「いいよ。じゃあ、話すか。咲夜はね、とても優しくて、馬鹿が付くくらいお人よしなんだ。で、キラキラが大好きなの。この村も大好きなんだ。すっ、ごく、世間知らずで、時々寂しそうにしてて、お稲荷さん、が、大好き、な僕の親友…」

 途中で渚と翠に話していたら僕は小さい子供みたいにしゃくりあげて泣いていた。改めて口に出してみると、すごく現実味を感じた。神なんて皆が本当に苦しくなった時にお願いしますって責任を押し付けるようなイメージだった。そんな神が目の前に出てきて、そんな神が優しくて、お人よしで、僕の一番の親友になるだなんて。

 二人は何も言わずに僕の隣で頭や背中を撫でてくれた。

「うん。ありがとう。もう、大丈夫。」

「そっか、無理しなくていいんだよ?いつでもいいから私達の事も頼って?」

 翠はそう僕に言った。また涙が溢れそうになるのを我慢して僕は上を向いた。

「咲夜の秘密聞いてくれる?」

 二人は当たり前だと笑ってくれた。

「咲夜はね、神だったの。この村の神社の。ずっと昔から。僕達が生まれるよりもずっと前から、この村を守り続けてくれていたんだ。僕はここに来た時に咲夜と会ったんだ。その時に友達になった。それで、去年の冬、この村の神社が壊されることになった。咲夜の話だと、神社がなくなって守る場所がなくなった神は天国みたいな所で暮らすんだって。今、咲夜はそこにいるんだ。」

 僕は咲夜の瞳とは逆の真っ青な空を見上げながら二人に話した。

 渚は何とも言いずらい顔をしていた。翠は考え込む様に言った。

「そっか…渚、ドンマイ。今の話聞くと、翔の一番の友達って咲夜君じゃん。」

 翠に言われて固まった渚は頭を抱えて俯いていた。

「でもね、咲夜は神達の所にいても、あそこの神社でずっとこの村を守り続けているんだ。」

 だから、寂しくないと付け足すように言うと、渚は僕の頭を鷲掴みにしてそのままぐちゃぐちゃに撫でた。しばらく撫でた後、渚は僕の頭をポイっと捨てた。困惑して固まっていると翠がポケットから出したおしゃれなくしでぐちゃぐちゃになった僕の髪を整えてくれた。

「泣くんじゃねえよ。それなら、咲夜って奴は翔が泣いてるの見てんるんだろ?」

「確かにそうだね。咲夜君に心配かけちゃうよ?優しい神様なんでしょ?」

 渚と翠は僕の話を馬鹿にしないで、慰めてくれて嘘だって言わなかった。信じてくれた。

「うん。そうだね。」

 僕は薄っすら残っていた涙を服の袖で拭って笑った。今度、神社に二人を連れて行ってみようかな。咲夜がいなくなってから、あまり行く気になれなくてずっと行っていなかった。久しぶりにお稲荷さんを持っていこう。


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