第7話 カウントアップ
放課後。
「今日はどこ行く?」
「この前の星もう一回見に行こ」
「そうしよっか」
二つ返事で決まった。
「ちゃんと話すからね」
電車の中で咲希は何度もそう言う。
電車を降りてこの前と同じ道を辿って展望台に辿り着く。
「まだちょっと明るいね」
「あそこのベンチで座って待つか」
二人はベンチに座る
「今から話す」
咲希がいつもより真面目なトーンで言う
「ああ」
いつも通りの返事で応えた。
「きっと香奈から少しは聞いてるよね」
そう話し出した
「うん」
と頷く
「歌うことが大好きで、ずっと歌っていたかった。でもね喘息になっちゃってお医者からは歌うのは辞めた方が良いって言われたの、それが辛くて学校も行けなくなって引きこもった」
咲希の声が涙混じりに霞んでいく
「私はもうどうでも良くなってた。でもね、喘息の薬は飲みたくなかったの」
「どうして?」
「認めてしまう気がしたの、歌えなくなった自分を。それで気づいたの、私はまだ歌いたいんだって。香奈が私の気持ちに気がついてくれて、応援してくれたの」
相槌を打ちながら話を聴く
「また歌うにはちゃんと薬も飲まなきゃだよって香奈に言われて薬も飲むようになった。家には居づらくて香奈と一緒ならって学校にも行けるようになった.....でも歌えなかった」
顔を抑えて涙を流している。
「何度歌おうと声を出しても歌えなくて、そのうち歌おうとするとパニックになるようになった。お医者さんからパニック障害って言われた。もうね魂が抜けていくような感覚だった」
止まらない涙を必死に抑える咲希の頭を優しく撫でる
「もう歌は辞めようと思った。薬は惰性で飲み続けて、夜は睡眠薬がないと眠れなくなった」
颯は咲希をぎゅっと優しく抱きしめた。咲希の涙が溢れ出る
「だからあと100日で死ぬことにした。100日間で咲希に恩返しして...それで満足だった。そして100日目を迎えた日に颯と約束をしたの」
「そっか、話してくれてありがとう」
「颯のことも話して」
「え?」
「私に"生きて"って言った理由」
颯は深呼吸をして話し出す
「妹がいたんだ。事故で亡くなっちゃったんだけど。だからもう周りの人が死ぬのは嫌だったんだ」
「ありがとう、話してくれて」
「あともう一つだけ聴いて良い?」
颯が尋ねると、こくんと頷く
「歌うのは今でも好き?」
咲希は動揺した。でも素直に答えることにした
「好き、大好き」
「じゃあ歌え」
颯の言葉に勇気づけられて決意する。
上手く出ない声を絞り出して歌った。綺麗な星空の下で颯のために歌った。
一曲歌い切ったところで颯が大きな拍手をする
「良い歌だった、また聴かせてよ」
「うん!」
嬉しそうに返事をした。
月日は流れ約束の日になる。偶然にも今日は2月14日、バレンタインだった。
授業を終えて咲希と下校していると
「颯、渡したい物があるんだけど..まあなんとなくわかるよね」
苦笑しながらカバンから取り出したのは、綺麗にラッピングされた箱だった
「はい、バレンタイン」
そう言って手渡され、受け取る。
「ありがとう」
颯がお礼を言うと
「あと..その...ホワイトデー、待ってるからね」
咲希は頬を赤らめながらそう言った。
「ああ、楽しみにしててくれ」
そう返すと
「じゃ..またね!」
照れた顔を隠すかのように走って言ってしまった。
カウント 海音 @kaito_novel
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます