第6話 愛情

「咲希!」


病室のドアを開ける。しかしそこには誰もいない。


病院内を探し回る。


「見つけた」


そう呟いたのは、病院の屋上だった。


「咲希?」


「うん?」


「こっちおいで」


颯の言葉に引っ張られるように咲希は覚束無い足を動かす。


倒れ込むように颯に寄りかかり包まれる


「どうしたの?」


「訊かなくてもわかるでしょ」


そう言う声は落ち着いていて颯の想像とは正反対だった。


「わかるよ、だからこれ以上は訊かないから」



抱きしめあっていると


「さっきはごめんね、叩いたりして」


「気にすんな」


颯がそう言うと同時に咲希が嗚咽する


「ずっと寂しかった、誰にも言えなくて」


「そっか、ごめんな。気づけなくて」


「私が悪いの..自分が一番わかってる」


「咲希は悪くない」


颯は断言する


「そう思い込まないと壊れちゃいそうになるの」


「僕が支えてやるから安心しろ」


颯の服を掴む力か強くなる


「退院したら....全部話すから、その時はまた慰めて」


「ああ、任せろ」



それから、咲希が退院するまで毎日病院に通った。


「やっと来た!」


咲希が笑ってくれることが増えた、それだけで嬉しかった。


「いよいよ明日だね、退院」


「うん!楽しみ!」


「明日、話すからね」


その言葉の意味はきっと僕にしかわからない。二人だけの話。


「ああ」


颯は少し素っ気ない返事をする。



次の日の朝。


「じゃあ帰るか」


綺麗に片付いた病室を見て言う


「そうだね!」


にこっと笑う咲希を見て颯も笑った。



「明日から学校かー」


咲希が呟く


「サボっちゃうか」


颯が言う


「そうしたいのも山々だけど、香奈が心配するから学校には行くよ」





翌日。


「おはよう、香奈」


「咲希っ!おはよう!」


久しぶりに一緒に登校できて嬉しそうに話している


「ご心配おかけしました」


笑いながら言うと


「もー!すごく心配したんだからね!」


「ごめんごめん」


「でも元気そうで良かった」


「ありがとう」


「私はなにもしてないよ」


「ううん、香奈がいなかったら私..」


「もっと楽しいお話しよ!」


遮るように言う


「そうだね」


咲希は微笑む。




「颯おはよっ」


「おはよう」


「あっ、咲希」


自分の席に向かおうとする咲希を呼び止める


「この前席替えしたんだよね、だから咲希の席はここ」


そう言って指差したのは颯の隣の席だった。


「やった!」


嬉しそうに席に着く。



授業もなにもかもが颯の隣というだけで楽しくなった、これをきっと恋というのだろう。


でも私は颯を好きにはならない。約束が終わったら死ぬのだから。

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