第5話 裏切り

朝。いつも通りに学校につくと


「七瀬君!!大変!!!」


葉月がかなり慌てた様子で駆け寄ってきた。


「咲希が!」


酷く息を切らしながら絞り出した言葉に颯は顔色を変えた


「咲希がどうした!?」


声を荒らげ、暑くもないのに額に汗が滲む。








病室の前。


表札には"七瀬咲希"と書かれている


颯は一度深く深呼吸をしてからドアをあける


入院着姿の咲希が振り向く。


どうしたら良いかわからずに数秒沈黙していると咲希はにこっと笑った


「なにやってるんだよ!」


初めて咲希に声を荒らげた


「颯、こっちきて」


咲希は落ち着いたまま言う。


颯が少しずつ近づくと、咲希は両手を差し出した。


颯と咲希が残り数センチまで近づいたところで咲希は颯の背中に手を回す


「あと85日」


咲希が耳打ちをする。その声はほんの僅かに震えていた。


「颯、私喉渇いた」


「なにが良い?買ってくるよ」


「コーラ!!」


「わかった」


颯は病室から出るとドアのすぐ横の壁に寄りかかった。


咲希の嗚咽が聞こえてくる。




「買ってきたぞ」


「やった!ありがと、だいすき」


冷えたコーラを手渡すと、早速フタをあけてプシュッと炭酸が抜ける音がする


「ぷはぁー。やっぱこれだよね!」


「咲希、訊いていいか?」


「うーん、ちょっとだけね」


「なんでこんなこと....」



昨日の夜


颯と別れた後のことだった。


もう十分に満たされた、もう良いや


咲希は毎晩飲んでいる薬を瓶に入っているだけ飲んだ。


苦しくなる。望んでいた。望んでいたはずだったのに頭によぎったんだ。








「もういいかなって思ったの」


その喋り出しはいつもの咲希とは違った


「颯に抱きしめてもらって"咲希"って呼んでもらえて、もう十分満たされた。死ねるって」

「でもね薬を大量に飲んで苦しくなった時に頭によぎったの....死にたくないって。まだ颯との約束があるって」


「そっか、ありがとね話してくれて」


「でも今こうして生きてる、そのおかげでこのコーラも飲めたし、生きてて良かった」


「もう死のうとしないか?」


「うーん、ちょっと約束はできないかなぁ..でも、颯がいてくれたらそんな気持ちにはならないかな」


「わかった」


颯はそう言って咲希に歩み寄ると、そっと手を握った。


「へへっ、好き」


「なら死ねないな」


「もー!」


咲希は頬を膨らませる。


「でもそうだよね..」

「なんかさ、私と周りの人の間に壁があるような気がしてね、辛くなっちゃったっ!」


無理矢理作られた笑顔の目元には涙が留まっていた。


「咲希、泣いてるぞ」


「えっ?」


咲希は目元に手をやった


「本当だ....うっ..」


「大丈夫か?咲希」


苦しそうに心臓に手をあてている


颯がナースコールを押そうと手を伸ばすと


「やめて!」


咲希の叫び声が颯に届いたのは既にナースコールを押した後だった。


「ばか!」


咲希は颯の頬を叩いた。


「ご..ごめん」


「出てって」


颯は言われるがままに病室から出て行く。


「夏樹君?」


聞き覚えのある声に呼び止められる、葉月香奈だ。


「もしかして咲希と喧嘩した?」


「まあそんな感じだよ」


そう言って帰ろうとすると


「待って!」


引き止められてそのまま沈黙してしまう


「咲希のこと、話そう」


重い空気でそう言う葉月の顔は



僕たちは病院内のコンビニで飲み物を買って近くの椅子に座る


「咲希はさ..その、なんていうか...愛情表現が苦手なの。だからわかってあげてほしい」


「もちろん、そのつもり」


「良かった、あとこれ」


葉月は赤い封筒を差し出す。颯がそれを受け取って中身を見ると、手紙が一枚入っていた。


「咲希からね、私が颯になんかしちゃったら渡してって預かってたの」


颯は二つ折りにされた手紙を開く


"颯へ。きっと私は颯のことを傷つけてしまう、だからこの手紙を書かせてほしいです。私は自分のことがずっと嫌いでした。何も出来なくて何の才能もなくて愛されなくて。でも颯は違いました。私を愛してくれました、抱きしめてくれました。私はそれで満たされました。どうせ颯との約束が終わったら死ぬつもりなので、普段なら恥ずかしくて言えないことをここに書きます。愛してるよ、颯。咲希より。"


泣いていた。涙が止まらない。


「咲希っ....」


嗚咽混じりに彼女の名前を口に出す。


「じゃあもう一回!行っておいで!」


葉月は颯の背中を力強く叩いた。





















#5 裏切り


朝。いつも通りに学校につくと


「七瀬君!!大変!!!」


葉月がかなり慌てた様子で駆け寄ってきた。


「咲希が!」


酷く息を切らしながら絞り出した言葉に颯は顔色を変えた


「咲希がどうした!?」


声を荒らげ、暑くもないのに額に汗が滲む。








病室の前。


表札には"七瀬咲希"と書かれている


颯は一度深く深呼吸をしてからドアをあける


入院着姿の咲希が振り向く。


どうしたら良いかわからずに数秒沈黙していると咲希はにこっと笑った


「なにやってるんだよ!」


初めて咲希に声を荒らげた


「颯、こっちきて」


咲希は落ち着いたまま言う。


颯が少しずつ近づくと、咲希は両手を差し出した。


颯と咲希が残り数センチまで近づいたところで咲希は颯の背中に手を回す


「あと85日」


咲希が耳打ちをする。その声はほんの僅かに震えていた。


「颯、私喉渇いた」


「なにが良い?買ってくるよ」


「コーラ!!」


「わかった」


颯は病室から出るとドアのすぐ横の壁に寄りかかった。


咲希の嗚咽が聞こえてくる。




「買ってきたぞ」


「やった!ありがと、だいすき」


冷えたコーラを手渡すと、早速フタをあけてプシュッと炭酸が抜ける音がする


「ぷはぁー。やっぱこれだよね!」


「咲希、訊いていいか?」


「うーん、ちょっとだけね」


「なんでこんなこと....」



昨日の夜


颯と別れた後のことだった。


もう十分に満たされた、もう良いや


咲希は毎晩飲んでいる薬を瓶に入っているだけ飲んだ。


苦しくなる。望んでいた。望んでいたはずだったのに頭によぎったんだ。








「もういいかなって思ったの」


その喋り出しはいつもの咲希とは違った


「颯に抱きしめてもらって"咲希"って呼んでもらえて、もう十分満たされた。死ねるって」

「でもね薬を大量に飲んで苦しくなった時に頭によぎったの....死にたくないって。まだ颯との約束があるって」


「そっか、ありがとね話してくれて」


「でも今こうして生きてる、そのおかげでこのコーラも飲めたし、生きてて良かった」


「もう死のうとしないか?」


「うーん、ちょっと約束はできないかなぁ..でも、颯がいてくれたらそんな気持ちにはならないかな」


「わかった」


颯はそう言って咲希に歩み寄ると、そっと手を握った。


「へへっ、好き」


「なら死ねないな」


「もー!」


咲希は頬を膨らませる。


「でもそうだよね..」

「なんかさ、私と周りの人の間に壁があるような気がしてね、辛くなっちゃったっ!」


無理矢理作られた笑顔の目元には涙が留まっていた。


「咲希、泣いてるぞ」


「えっ?」


咲希は目元に手をやった


「本当だ....うっ..」


「大丈夫か?咲希」


苦しそうに心臓に手をあてている


颯がナースコールを押そうと手を伸ばすと


「やめて!」


咲希の叫び声が颯に届いたのは既にナースコールを押した後だった。


「ばか!」


咲希は颯の頬を叩いた。


「ご..ごめん」


「出てって」


颯は言われるがままに病室から出て行く。


「夏樹君?」


聞き覚えのある声に呼び止められる、葉月香奈だ。


「もしかして咲希と喧嘩した?」


「まあそんな感じだよ」


そう言って帰ろうとすると


「待って!」


引き止められてそのまま沈黙してしまう


「咲希のこと、話そう」


重い空気でそう言う葉月の顔は



僕たちは病院内のコンビニで飲み物を買って近くの椅子に座る


「咲希はさ..その、なんていうか...愛情表現が苦手なの。だからわかってあげてほしい」


「もちろん、そのつもり」


「良かった、あとこれ」


葉月は赤い封筒を差し出す。颯がそれを受け取って中身を見ると、手紙が一枚入っていた。


「咲希からね、私が颯になんかしちゃったら渡してって預かってたの」


颯は二つ折りにされた手紙を開く


"颯へ。きっと私は颯のことを傷つけてしまう、だからこの手紙を書かせてほしいです。私は自分のことがずっと嫌いでした。何も出来なくて何の才能もなくて愛されなくて。でも颯は違いました。私を愛してくれました、抱きしめてくれました。私はそれで満たされました。どうせ颯との約束が終わったら死ぬつもりなので、普段なら恥ずかしくて言えないことをここに書きます。愛してるよ、颯。咲希より。"


泣いていた。涙が止まらない。


「咲希っ....」


嗚咽混じりに彼女の名前を口に出す。


「じゃあもう一回!行っておいで!」


葉月は颯の背中を力強く叩いた。

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