第3話 目覚め
「今日観た映画みたいに私もいつか誰かとキスしたりするのかな」
「するかもなー」
空もすっかり暗くなった帰り道。
「ちょっとだけあそこの公園のベンチで休憩しよ」
映画の後に買った服が入った紙袋がくしゃっと音を立てる。
「星見えないね」
「そこそこ都会だしな」
「星見たいなー」
「じゃあ今度行くか」
「今から」
「え?」
思わず聞き返してしまった
「今から行こ」
「さすがにもう暗くなってきたし..明日大変だぞ」
「だって明日の事は明日になってから考えれば良いの」
こうなると七瀬は人の話を聞かない。それは颯もよく分かっている。
「わかったよ」
呆れ気味に言うと
「やった!」
電車に乗って一時間ほどかけてやって来たのはアニメで見るような田舎の風景が広がっている場所だった。
「綺麗だね」
七瀬は空を見上げながら呟く
「近くに展望台があるらしいよ、行ってみる?」
「行く!」
スマホのマップを頼りに歩いていると、七瀬が颯の左手を握った
「今くらい良いでしょ、ここなら誰にもばれないから」
少し俯きながら言う七瀬に返事をするように手を握り返した。
「ここを登ったら展望台だ」
「うわーきつそー」
七瀬は棒読みで言いながら一段目に足をのせた。
七瀬は息を切らしながらも足を止めない
「ちょっと休憩するか?」
「ううん、平気」
「無理すんなよ」
「着いたっ」
思いっきり腕を伸ばして伸びをする。
「七瀬、すごい綺麗だっ...」
言いかけた言葉が自然とフェードアウトした。颯の前には子供みたいに目をキラキラさせて星空を見上げる七瀬の姿があったからだ。
「ほら、良いことあっただろ」
「...うん」
細くも力強い声で言った。
話を逸らすかのように足速に歩く
「あそこのベンチ座ろ」
七瀬に続いてベンチに座る。
「綺麗だね」
「ああ」
「ねえ颯」
「どうした?」
「ごめんね、色々と」
「良いよ、気にしないで」
なんて返すのが正解なのか分からなかった。分からないなりの精一杯の言葉だった。
「私のこと、死のうとしたことも...全部全部、話せるようになったらちゃんと話すから、それまで....」
「大丈夫、いつまでも待つから」
気がつくと颯は七瀬の頭を優しく撫でていた。
七瀬は必死に涙を拭う。
「颯...」
「うん?」
振り向こうとした時
七瀬が颯の頬にキスをした。
言葉を見失う
「へへっ、大好きっ」
「あれ?頬赤いよ〜、照れちゃった?」
「もう!帰るぞ!」
「照れ隠しってやつ?可愛い」
七瀬の数歩先を颯が歩く。来た道を逆走して家に帰った。
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