第2話 夢
「またね、また明日」
手を振ってから玄関のドアを閉めるとそのままドアに寄りかかって俯く
「また笑わなきゃ」
一度深く深呼吸してから靴を脱いで家にあがる。
鼓動が速い、息が苦しい。自分の部屋にたどり着けずに廊下に蹲る
何度も深呼吸をして自分を落ち着かせる。
15分ほどしてようやく鼓動が落ち着くと自分の部屋から着替えをとってお風呂場に向かう
シャワーを浴びながら涙を流すのが毎日の日課だった。この時ならどれだけ泣いても誰にもバレないからだ。
一頻り泣いたら髪を洗って体を洗う。湯船に浸かってスマホをいじっていると友達からLINEがきた
"今日は大丈夫だった?"
中学から一緒の葉月香奈(はづきかな)からだった。香奈は毎日のこうしてLINEをくれる。なんでも話せる唯一心を許せる相手だ。
「死のうとしたことは....言えないや」
私は独り言を言ってから
"ちょっと発作は起こちゃったけど、大丈夫だったよ"
"最近頻繁に発作起こるね、なんかあったの?心配だよ"
"大丈夫だってばー、そういえばさこの前始まった映画一緒に観に行こうよ"
無理矢理話を変える。
香奈とのトーク画面を閉じて、今度は颯とのトーク画面を開く帰り際に交換したばっかでまだ会話という会話は一回もしていない
"今日はありがとね"
"それと今日の事は二人だけの秘密だからねー。"
"こっちこそありがとな"
"わかった、秘密にする"
数分で返事がきた。
お風呂からあがったら歯磨きをして、すぐに布団に潜る。
「やっぱり無理か」
そう言いながら一旦ベッドから起き上がって机の上に引き出しから小瓶を取りだす
「やっぱこれだよねー」
蓋を開けて中の錠剤を3錠手に出して飲み込んだ
「落ち着くー!」
再び布団に潜って目を瞑る。
朝。
アラーム音が響く
「もう朝...」
寝ぼけながらも立ち上がって顔を洗いにいく。
朝ご飯を食べてからテーブルの端に置いてある錠剤に手を伸ばす
2錠手に出して口に含んで水で流し込む。
学校に着くと
「おはよう」
「おはよう」
香奈と挨拶を交わす
「昨日もありがとね」
「ちゃんとお薬飲んだ?」
「もー香奈お母さんみたい、ちゃんと飲んだよ」
香奈はこうして毎朝確認してくる。それは昔、私が喘息の薬を飲むことを拒んでいたからだ。
「もう大丈夫だから、安心して」
落ち着いた声で言った。
「安心した!じゃあまたあとでね」
「うん!」
二人はそれぞれの教室に向かう。
「おはっよー!」
ばん!と颯の背中を叩いた
「痛ってな!なんだ七瀬か、おはよ」
振り向いた颯にそっと口を寄せて
「あと99日」
と、耳打ちをした。
一瞬戸惑ったがすぐに答えた
「分かってる、任せとけ」
「ふーん」
七瀬は思わせぶりにその場を去った。
休み時間
「咲希お昼だよー」
七瀬のもとに香奈がやってくる
「おなかすーたー」
てきとうなことを言って、いつも二人でお昼ご飯を食べているところに向かう。
雑談をしながらお昼を食べる時間は幸せだった。食べ終わると
「咲希、じゃあこれ」
渡れたのは朝飲んだのと同じ薬だ。喘息の薬だ。とある理由でお昼の文は香奈に持ってもらっている。
「一人で飲める?」
「薬ぐらい一人でちゃんと飲めるよー」
「よくできましたっ!えらいえらい!」
香奈は咲希の頭を撫でる
「ありがとう、落ち着く」
午後の授業を終えて。七瀬は颯の席に行く
「一緒に帰ろ」
「いいよ」
二人は並んで歩く
「なあ七瀬、なんで死のうとしたのか訊いて良いか?」
「そんなことっ..」
「どうでも良くない」
七瀬の言葉を遮る。
「ごめんね、でも言えないの」
「そっか」
それ以上は訊かなかった。
「今日はどこ行く?」
「うーん..映画観に行きたい」
「じゃあ行くか」
「うん!」
「ポップコーン買お!!」
子供みたいにはしゃいで売店の列に並ぶ。颯はその後に続いて一緒に並んだ。
スクリーンにはもうすぐ公開される映画の予告が流れている。
「もう少しだね」
咲希が小声で話しかける。
「ああ」
と、上の空の返事に少し頬を膨らませて視線をスクリーンに戻す。
咲希が選んだのは恋愛映画。ありきたりだからこそ良いと評判らしい。
「私最後泣きそうだったよぉ」
「僕も最後は涙目だったよ」
余韻に浸りながら9番シアターから出る。
「颯、服買いたい」
急な要望にもそろそろ慣れてきた。
「じゃじゃーん!」
咲希は試着室のカーテンを勢いよく開けてそれっぽいポーズを取る。
「ねえ私可愛い?」
「可愛いよ」
「へへっ、私たち付き合ってるみたい」
咲希は小さく笑う。
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