第18話


郁美さんにのちほど説明すると告げたら、案外あっさりと解放された。色々と察してくれたのだろう。前回のように命の危険はないだろうと感じ取ってくれたようだ。また説明しなければならないが、頭ごなしに怒るようなことはしない人だ。あっちの釈明は簡単に済みそうだ。


「はぁーまさかこっちの情報がバレるなんて……」


俺らは天恵の部屋で会議らしきものを始め、知りうる限りのおおまかな事情は話し終えていた。文音ちゃんの夢をたまたまキャッチしたこと。その夢の映像を元に彼女を救出したこと。そして、なぜ彼女がこの場所を特定たのか俺達自身もわからないが関連性があるかもしれないとのこと。機械を作った理由は文音ちゃんにはぼかしつつ話したが、イタズラで作ったことはわかってもらえているようだ。

可能性は低くとも深淵を覗くとき深淵もこちらを覗いていると言われるように、こっちが探せば逆にあちらに見つけられる可能性はあったというわけだ。しかも意識を失っていたとはいえ、顔合わせはしているのだから可能性が上がるのはなおさらだ。

で、特定されたやつの慣れ果ての出来上がりってわけだ。この部屋の主である天恵は説明の疲れからかホワイトボードを背にしてダイニングテーブルに突っ伏していた。


で、その話を聞いた二人の反応はちょっと意外だった。俺の右隣にいる燐は、話を聞いてた直後は『夢を見る機械……?』と驚いていたが今はなにやらぶつぶつ独り言を言いながら考え事をしているようだった。機械開発に初期段階しか関わっていないとはいえ、当事者だったのにも関わらずわずかながら驚きのリアクションがあることに驚いた。

そして、今回一番の当事者といえる文音ちゃんはあまり表情を変えていなかったし、驚いた反応がなさそうだったのが驚いたた。話す内容が内容なのと対面で表情がよく見えるのにそう感じたのだから本当に驚いてなさそうだ。


「それで今後はどうするつもりなんだ?」


「当面は文音ちゃんのことを私は調べてみたいと思ってます……まだなにか謎があるかもしれないし」


まるでクラスではおとなしい美人のようにたどたどしく話す。


「わ、私もて……」


「あんたは帰りなさいよ」


「なんでそんな冷たいの!?」

 

まだなにも言ってないが、朱野は協力しようとしてるのだと思う。それなのに、こんな扱いをするのは酷い気がする。


「なんで燐にそんな冷たいんだ?」 


「こいつ頭おかしいのよ。あんたはなにされるか知らないでしょうけどね」


議題の中心がほぼ文音ちゃんのことだったので俺への対応は聞いてなかった。色んなことに首つっこみ過ぎてたまに自分が当事者だと忘れちまう時がある。


「でも、変な提案はしないだろうーー」


「とりあえず源太郎の脳を開いてみたいと思う。出来れば機械の取り出しに挑戦したいと思う」


満面の笑みで言った。分子運動がすべて停止したかのように、時間が止まり、俺の心臓が絶対零度になったかのように思えた。本当の恐怖だと声を出ないというのはそれなりに経験済みなおかげか、俺の心臓と脳が動き出すのにそう時間はかからず徐々に運動を再開し、熱を取り戻していく。


「天恵の意見に賛成だ。帰れ。タクシー代とか置いて帰れ」


「なんで源太郎もそんな冷たいの!?」 


だって怖いもん。冷たいとか言ってる俺が感じてる冷たさはこんなもんじゃないからね。


天恵はまだズレている自覚があるからいい。だが、こいつはズレいるという感覚すらなさそうで怖い。悪気のない不可抗力ほど怖いものを未だに俺は知らない。


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夢見る天才少女と夢を知られた少年 引田 籠 @hikitalaw

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