第16話
天恵はとても慌てていた。俺も同じだ。冷えた手で心臓を掴まれたかのような衝撃を受け、身体が一瞬飛び跳ねそうになったがなんとかこらえた。
「空って意味かな?」
俺は矛先を空へと逸らす。
「それはありえません。そういったものは感じません。間違いなくあそこに宇宙人……とは違います……なんというかそのアジト? ともかく関連した施設、機材、もしくは痕跡が残されてる可能性があります。そして、あなたからもなにか感じます」
文音ちゃんは崖から崖へ飛び移るための助走のように大きく息を吸い込み、発言した。
「郷田さんでしたっけ? お住まいはどちらですか?」
相当な勇気なんかを振り絞っていったのだろう。走ってもいないのに息が荒い。
「源太郎の家はあっち!」
天恵が答える。なんでお前が答えるんだよ。クールで美しい氷細工のような文音ちゃんの表情が怒りのような熱の感情により、少し崩れる。熱源は明らかに不信感をきている。
「あそこがなにがあるのか知っていますね?」
まずいぞ天恵。分が悪い。ここはいったん誤魔化そーー
「お前らなにやってるんだ?」
左手にぶらさげている買い物袋と胸を揺らしながら、文音ちゃん以上の不信感を露わにした表情の人物が立っていた。
その人物とはこのマンションの管理人である牧之瀬郁美さんであった。物音が全然聞こえなったぞ。忍者かこの人は? そして右手では天恵を捕まえていた。
「こいつまた逃げようとしてたけど、また危険なことをしようとしてわけじゃあるまいな」
猛禽類に睨まているうさぎのような気分だ。
「え? 由乃さん?」
振り返ると燐が驚きの表情をしていた。そういえばこいつは天恵の母親の顔を知ってるんだった。その妹である。郁美さんは面影がある。これ隠し通すのは無理そうだぞ。という目線をつかまったうさぎへと送る。
そのうさぎに例えた相手はもちろん爪にがっしりと捕まっている牧之瀬天恵のことだ。
どうやら長引きそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます