第15話
俺たちは病院を出て、タクシーを使い自分たちの街へと戻るということになった。理由は燐が一刻も早く文音ちゃんの謎感覚の正体を知りたいからだそうだ。
謎の感覚について詳しいことは今から、天恵が話してくれるらしい。たいした相談もなしに決めたんだから相当な理由があるんだろう。まぁなかったらまたアイアンクローするまでさ。
万全を期して、俺と天恵はタクシー乗車前にトイレに行くと、装いまたも軽い会議をした。
特別な地下室なので、誰もいないし、燐と文音ちゃんは外でタクシーを待たせているので、俺ら二人きりだ。だから気にせず堂々と話し合う。気にすることといえば、人を待たせているので、時間くらいだ。やや早口気味に色々巻いて話す。
「大丈夫か? あと本当なのか?」
「宇宙人ってのはまだわからない。あくまで仮の呼び方。だけどあんたが聞きたいのはそういうことじゃないわね」
こいつ超能力者か? ということも浮かんだがそんくらいはわかる。短くとも濃い付き合いだ。コミュ障なこいつでも察することくらいはできるか。
「探す存在はこのさい置いておくとして、俺たちのせいで超能力が覚醒した可能性とかないのか?」
最初は機械関係によるものでなく、ドッキリかと思ったほどだぞ。もう再会はないと踏んでたからな。
天恵が聞いた話によると、高鈴文音ちゃんは超能力者らしい。能力的には超能力者と聞いて驚かなかったのかというと、以前本物がいるなんてことは聞かされたし、そもそも超能力者というかそれに近しい人物に会ったことがあるので、別段驚きはしなかった。
で、彼女が言うには救出後に、自分の超能力の精度が増し、同時に今まで感じられなかった不思議な感覚の発生源が感じられるようになったらしい。
そしてその場所がなにを隠そう俺らが住む街にあるらしく、この不思議感覚がなんなのか調べたいそうだ。そこで土地勘があり、地元民である俺の同行要請したというのが主な経緯だそうだ。
覚醒したならまだしも、俺たちのやってることを勘づかれたり、バレるなんてことないよな? 夢の録画やその先の機械完成。そして、その先の目標を他人に知られるのは得策ではない。彼女の超能力が必要になったとしてもだ、協力関係を築くのは色々見極めてからのほうがいいのは確かだろう。少なくとも急ぐ必要はないのは確かだ。
「なくはないわ」
おい。
「けど、低そう。そういった実験はやってみたことあるいったのは覚えている?」
夢に干渉して、特殊な能力を身に着けるみたいな話か。確か干渉できなくて頓挫したって話だったな。
「それと同じ。強化された理由は気になるけど。材料がなさすぎる」
なら心配はしなくていいのか。あとはバレる可能性は?
「そこの心配もあったけど、大丈夫そう。彼女の超能力って肌で触った物体から記憶や記録を読み取るチカラみたい」
なるほどね。
「実際色々試してみたいけど、あまりやると人道に反する場合が出てくるから当面はそのままね」
時間があったらお前は今人道に反してるよなと言いたいが待ち人がいるため喉から出かけた言葉を呑み込み、別の言葉を吐き出す。秘密をバレない対策ってのはーー
「接触を避けるために距離をとればいいわけか」
「そう。直接触れらない場所にいればいだけ、なにより無機物限定みたいだから、そんな注意を払わなくていいみたい。念のためにあんたは助手席。多分、お金払う燐を真ん中にして、私は端の窓側に座るわ」
そうすりゃ必然的に、燐を挟んで天恵と文音ちゃんは距離をとれるわけか。
「了解」
「それともあんた彼女にさわりたかったの?」
「ねーよ」
そのセリフで口裏合わせ終了として、俺たちはタクシーを留めてくれていた二人の元へと向かった。どうやら不安材料は気にするほどのことではないらしい。
二人の元へ向かう途中天恵は無邪気に、「心配しなくても大丈夫。それよりも地球外生命体なら、高度な科学技術を持ってるはずだからかなり進歩するかもしれないわ」などと浮かれ気味だった。
もしも、そうなったら誰が交渉するんだ。誰が。などと思ったが。予測できなすぎるので考えるのは放棄した。
ちなみになぜ謎感覚の発生原因が宇宙人だと仮定しているのかというと、、「この前宇宙空間から謎信号が送られたってニュースがあったでしょ。もしかしたらそれに関係してるかもしれないから。むろん決めつけはよくないけど」だそうだ。
あとは勘違いの可能性も聞いてみたが、低いらしい。少なくとも、研究進展の可能性はあるらしい。
さらに天恵はだけでなく、医者で夢視る機械の開発関係者がいうんだから信憑性はかなりあるとのことなので、楽しみらしい。
よくよく考えればバレる可能性も低いどころか。俺たちが助けたなんて発想すら浮かばないだろうな。
救出劇もハナっから彼女自身火事場の馬鹿力で公園にたどり着いたと思っているらしいし、どうやらこいつは燐に正確な研究報告もしてないみたいだからな。
最後の疑問点である謎組織の潜入の可能性は、「ない」と即座に却下されたのでないそうだ。まぁこの街は色んな意味で襲うやつはいないだろうというのは俺は知ってるけど。
***
ってなわけで、会議を終えた俺ら二人は予定通りの座席に座り、タクシーに乗った。
天恵の予想通り、燐は後部座席の真ん中に座り、運転手に「さっき伝えた位置に向かってください」発射合図を告げると、車はゆっくりと走り出した。どうやら待っている間に目的地をあらかじめ伝えたいたらしい。
ここに来るさい移動手段として使った自転車はどうしたのかというと、「あとで二人の家に届けとくし、帰りもタクシーで家まで届けるから」と燐が半ば強引に推し進められてそのようになった。
ともかく俺が願うのは俺らの街から発せられている、謎感覚の発生源があだなすものでないことを祈るだけだ。
おっともう一つ祈ることがあった。それはどうか俺が文音ちゃんに嫌われてませんようにということだ。
現在俺らはタクシー降りて、自分たちの街へと戻ってきていた。時間にして約十五分といったところだ。
タクシーに乗ってる間はたいした時間ではなかったのに、超能力者少女である彼女がずっとこちらを見ていたために妙に長く感じた。
えーと……嫌われるようなことしたかな。コミュ障で俺のことが苦手そうなタイプとはいえ、流石に嫌われるような言動はとってないはずだぞ。それとも俺は未だ出会ったことはないが、生理的に無理な人間というカテゴライズに分類されてしまったのだろうか。
そんなことはつゆ知らず、天恵と燐は文音ちゃんが感じ取っているらしい異常発生源の場所を探すのと、正体について議論していた。やれ、宇宙人や未来人やらいってるが、そんな変な連中は集まってほしくない。ちょっと前にそのカテゴリーに分類される人物がこの街から離れたばかりなのだから。
長い十五分が終わり、残りの二人である俺と文音ちゃんは当初の予定通り、俺は観光ガイドのようにこの方角なにがあるのかなんかの質問に答えたりし、文音ちゃんはコンパスのようにときどき「こっちから感じる」と指示を出していた。
一時的にとはいえ、一体なんの集まりなんだこれは?
タクシーの運転手のおっちゃんもこんな気持ちだっただろう。ヤバイオカルト研究会の集まりかなにかと。
集まらないでほしいと思ってたが、すでに集まってきてしまったようだ。
早く終わらせて解散させたいところだ。
◇◇◇
タクシーを降り、探索を続けて乗車時間と同じ、十五分ほど歩いたところである感情が沸きあがった。
俺いる?
天恵と燐は相変わらず謎の感覚の正体や彼女の不思議な力の議論を続け、文音ちゃんも引き続き、コンパス役に徹しいてる。
で、俺に与えらたガイド役だが、その役目は現在、「あーこの辺ならこの道のほういいわね」などと天恵がガイド役の兼任を始めたからだ。
俺も知ってるけど、ここいら一帯は天恵の家からそう遠くない。俺も詳しいがわざわざ聞くほどでもない。
よかったな燐タクシー代は俺一人でも事足りそうだぞ。なんなら天恵の家でお茶でも飲むか、などと能天気に考えていると、突如空気が変わった。
別に危険を知らせるようなものではない。しかし、確かに空気が変わった。それを変えたのは超能力少女である。彼女の発言によるものだ。
「あの二階辺りです」
彼女は数メートル先の建物を指さしながら、堂々と告げる。その指さす建物に俺と天恵は驚いた。
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