第14話
小学生六年生とは、思えない丁寧な挨拶に感心などする余裕も、初の再会を喜んでいる余裕などない。俺らはただ呆然と初めて会話を交わす少女の前で平静を装っていた。
軽い混乱状態に陥り、茫然と立ち尽くしている中で、俺は視界の端で天恵のポーカフェイスを捉えていた。よくもまあ冷静さを保てるもんだ。俺は正直自分がどんな表情をしているのか見当がつかん。誰かに手鏡を貸してもらいたい心境だった。
しかし、このまま挨拶を返せないわけにはいかない。
「どっも。郷田源太郎です。これからよろしくね」
動揺を誤魔化すために努めて明るくかつフランク的雰囲気を振りまきながら挨拶してみる。
「はい。よろしくお願いします……」
合わせようとした視線は逸らされた。挨拶も注意しないと聞き逃してしまいそうなくらいのか細い声で返される。最初の張った声での挨拶の面影は全くない。
ちなみにこの時握手をしようと差し出した右手は無視され、所在なさげに俺と文音ちゃんとの間にある空間をぶらついたあと腰に戻って来た。
では、天恵はどういった対応だったのかというとーー
「あ、あのワタクシマキノセメグミというものです」
「は、はい……私は文音と申します。どうか末永く宜しくお願いいたします」
天恵の片言のような挨拶と文音ちゃんの苗字を忘れた自己紹介。なんだこれはと思ったが、理解できた。
この娘はコミュ障だ。あまり人と接するのが得意じゃなさそうだ。大勢ならなんとかなるが、対面だと、緊張してしまうらしい。俺が初対面かつ年上の異性 だから、上手く話せないと思っていたが、どうやら違うようだ。仲良くなるのは時間がかかりそうだ。
「うん。うん。二人とも似てるからすぐに仲良くなれると思ってたんだけど、予想通り仲良くできそうでよかった。よかった」
燐がお見合いをセッティングした世話人や仲人のような笑みで微笑む。
なんだこの光景は。
そんな困惑な眼差しに気づいた天恵がハッとしたように我を戻り、本題に引き戻す。
「で、その子がどうしたの? あんたと違って利発そうな子だけど。なに? 自慢でもしたいの?」
だからなんでお前は面識あるやつにはそうデカイ態度を取るんだ。でも、急に態度を変えたら変えたで不審だから仕方ないといえば仕方のないことーーなのか?
「それに関してはーーあっ。源太郎と文音ちょっといい? すぐ終わるから天恵と話をしたいの」
どうぞご自由にといった具合で両手のひらをみせて許可した。文音ちゃんは無言で首を縦に振った。
わずかばかりの間文音ちゃんと二人だけになる。あまり見ていると、彼女は警戒するだろうと思うので、一瞬だけ彼女をみたあとすぐに天恵と燐の二人に視線を戻し終わった。そのあと、彼女が元気そうでよかったと、ホッと胸を撫で下ろした。そして相変わらず、美しい少女だこと。事故の後遺症などもなさそうで安心した。
なんか視線を感じる。視線のほうへ目を向ける彼女がこちらみていた。警戒とはまた違った不思議そうなものをみる瞳だった。顔になんかついたり、髪型に異常ないはずだがと俺は一人考えを巡らせていると、天恵がちょいちょいと手招きをし、燐が、「文音ちょっと来て」と各自の知り合いを呼び合い話し合いが始まった。なんだ。話が全然見えてこない。さっさと終わらせてくれないかな。
俺は念のため小声で、(なんだって?)
天恵は俺の手を掴み、頭を下げるような手招きをする。俺とこいつの身長差があるのでこちら頭を一.五個分くらい下げなきゃいけないので、疲れる。だから手短に頼む。
(大きな声を出さないでよ)
俺は文音ちゃんを真似るように無言でうなずいた。
(宇宙人を探すわよ)
俺はめんどくさいこととは違う変なことが始まりそうな予感がした。
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