第6話

 家から飛び出して、すぐは散歩時の我が愛犬のように軽やかだった天恵の足取りがここに来て、ぴたりと止まった。

 現在は防水仕様のパソコン画面をにらみながら、念仏のようにブツブツと独り言を唱えていた。俺は黙ってただただ天恵から雨風を防ぐ、壁役に徹していた。


 「わかんない。この辺りから上手く距離が把握できないというかつかめないというか途切れてる」


機械を使っての居場所特定の原理は知らないとしても、夢が人に影響を与えるのは知ってるし、今までも体験しているからな。しかも、今回は緊急救命信号的なものだから、相当強いのだと、とても正確なものになるらしい。いい体験と悪い体験が記憶に残りやすいように。こういった場合は突発的に起こったとて、割かし簡単に解決するものなのだが、今回は道筋や糸口を見つけられないようで天恵は心底焦っているようだ。

 そんな姿をみて俺も焦ったのか壁役を一時中断し、「じゃあどうするんだ? 手当たり次第に探すか?」


 夢の断片映像からこの辺りにいるのは十中八九正解だろう。把握できてないが、一刻を争う事態なんだ。早いほうがいい。

 俺の提案には答えたず天恵は黙り込む。そして、ゆっくり口を開き、「機械を入れた経験があるあんたなら正確な位置が特定できるかも。でも……」


 なにかを言いかける天恵の言葉をさえぎって俺は、「さっさとしろ」


 俺はその方法も聞かずやるように、迫る。


 「デカイ身体で急に距離詰めないでよ。びっくりするじゃない。あんたのことなんてどうでもいいから、もう準備してるわよ。ほらすぐに場所がわかるはず。って何私を置いて勝手に走り出してんの!?」 


そのあとのセリフはよく聞こえなった。おおよそ後方では、『こっちはパソコン持ってるんだから。そんな急がないでよ!』みたいなことを言ってるんだろうが、俺は気にせず、五感では表せないような感覚に引っ張られるように走る。なーに見失うほどの速度を出すつもりはないし、あいつの足の速さと持久力はともに高水準だというのは知っている。この速度なら追いつけるだろう――

 一秒でも早く彼女を見つけなくてはならないのはあいつもわかってるはずだ。ある程度の無茶は承知の上だ。


え? なにこれ、俺の身体速度は制御できてるけど。それ以外あんまりコントロールできなさそうな感覚なんだけど?

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