第5話
「この子の名前は
「それ絶対夢で得た情報じゃないよな?」
多分、どっか得た情報だろうか。情報提供は本来ありがたがることだけれど、収集方法によっては現法でも犯罪だ。そちらは減罪のアイデアが浮かばないので関与したくない。
それにこいつ体重は自分より重いから事細かく調べやがったな。背のところは舌打ちしてたし。
「で、どうするつもりだ?」
「助けに行くに決まってるでしょ」
「正気か?」
テレビを見ると災害現場の実況に慣れたレポーターも、ビビりそうな荒れ模様だ。
「正確な場所がわかりそうなのは私達だけだし、それにどうやら流されたみたいで隣の市、つまりは私達の市にいるみたいなのよ」
「ってことは捜索隊が捜索していたとしても、こっちまで探しているとは考えにくいってことか」
「そういうこと。もうすぐ災害のピークも過ぎるし、こっちはそこまで酷くないから、私達だけでもなんとかなるはずよ」
確かにそのようだ。外は荒れているものの、こちらは注意区域なので、テレビで映されている警戒区域の映像よりもやや雨足などが弱いようだ。
説明を終えた、牧之瀬が電子機器の電源を切り始めて、こちらの回答を待っているようだ。
そんなで見つめなくても答えは決まっている。
「しかたないか……」
肩を落とし、救出に向かう覚悟を決める。
見ず知らずの他人のために命を投げだすのは、正直自分でもバカだと思う。
ただ、罪悪感を背負ったまま生きていけるほどの強い精神も、俺達は持ち合わせてなどいない。
もし、ここで見殺しにすれば、それこそ夢見が悪い。
「警察に連絡しても信じてもらえないだろうしね。前と一緒よ」
まあ、ある程度予想はしてたさ。
命の危険がある事態は今回は初だが、こういったことは過去に大なり小なりあった。
生徒会長選挙に関する暗躍。
校長の孫が悪事に手を染めそうになるのを阻止したり。
オカルト研究会の妄言騒動等々etc《エトセトラ》。
"最初はめんどくさいからほっとこうぜ。寧ろ現実にどんな影響を与えるのか観察しよう"と高みの見物を決め込んだ俺達だった。
それはあくまで他人事。校内関係者であってもそれは変わらない。所属は同じであってもこっちには影響はない。そう思ってたら自分達が当時者になっていたなんてこともあり、色々面倒事を解決した経験がある。
今回もそれに近い出来事だ。だから、解決のために動くつもりだ。
「準備するものを言え――っていねーし」
目の前にいたかと思っていた牧之瀬の姿はなく、いつのまにか歌舞伎の早着替えかと思うくらいの早さで無駄に肩が露出していた服を着替え終え、俺の分らしきレインコート
今はなにやら左手に小さなバッグを持ちながら、書き置きらしきメモ用紙に走り書きをしている。
「あんたがウダウダしている間に、こっちは用意はできたわ。行くならグズグズしないで、さっさとそれ着てついてきなさい!」
「ったく」
普段は怠けてる癖にこういう時の行動と頭の回転は本当に速くて、もはや尊敬に値するレベルだ。口が裂けても本人には言わねーけど。
こっちは覚悟をやっと終えたとこだってのに。
俺は妹への連絡と、レインコートへの着替えを同時に行いつつ、一足先に玄関へ向かった牧之瀬の後を追う。
そして、覚悟を決めて、扉を開ける。
先ほど外を見たときよりも雨風の激しさが増しているかのように見えるのは気のせいだと思いこみたくなるほど、天気は荒れていた。
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