シリアス展開にならなくて一安心

 俺は帰宅後、急いで由香ちゃんに携帯で連絡することにした。一緒に登下校するあの時間を、2度と失いたくないからだ。


文面に悩んだが【明日も、一緒に登下校してくれる?】にした。するとすぐに返信が来て【もちろんですよ】の一言。


由香ちゃんは気にしてないのかな? 俺は志保ちゃんにも、ほぼ同文を送ってみた。

彼女は朝が弱いので、ではなくのみだ。


志保ちゃんもすぐに返信が来て【当たり前じゃないですか】と来た。


あれ? 自然消滅すると思ったのって、俺だけ?

2人の切り替えが早いの? 俺がウジウジ気にし過ぎなのか?


どちらにしても、明日も登下校できることが確定した。一安心。



 次の日の朝、俺は由香ちゃんと待ち合わせてる分かれ道に向かう。

昨日に続き、今日も先に待っていてくれた。


「おはよう。由香ちゃん。今日も早いね」


「本当に今来たばっかりなんですが…。行きましょうか」


昨日の件、本当に気にしてないのか、訊いてみたい気がするが悩むな。



 「服部さん。昨日のあれってどういう意味ですか?」

通学途中、由香ちゃんが口を開いた。まさか、彼女から訊かれるとは…。


「俺、志保ちゃんの予想に反して、パンツ見ちゃったじゃん。その後も3人とも黙ってたし、もしかしたら一緒に帰ることが自然消滅すると思って…」


俺は本音を言う事にした。変に強がって、一緒の登下校がなくなることは絶対に避けたいからだ。


「そういう事でしたか。志保ちゃんはああ言ってましたが、観られる覚悟はあったと思いますよ」


「え?」

予想外の答えに戸惑う俺。


「だってそうでしょう? 本当にパンツを観られたくなかったら、スカートをまくったりしません。今日の帰りでは、逆に志保ちゃんがネタにするかもしれませんよ。『先輩、昨日のあたしのパンツ、どうでしたか?』ってね」


志保ちゃんならあり得そうだ。これなら、俺から話を切り出しても良かったかもな。



 由香ちゃんと並んで歩いている時、突然突風が吹き、前を歩いている女子生徒のスカートがめくれた。か。…いいね。


女子生徒がスカートを抑えている間、バイクが一時停止を無視して曲がっていった。

おいおい、あの子がスカートを抑えてなかったら、ぶつかってたんじゃないか?


女子生徒は後ろをチラ見した後、歩き出した。


「ねぇ…。服部さん」

何故か由香ちゃんの声のトーンが怖いんですが。


「な…なにかな?」

勇気を出して、横にいる彼女を観る俺。


「私と志保ちゃんのパンツだけでは飽き足らず、あの子のパンツまで見たいんですか? どれだけ欲求不満なんです?」


ジト目で観られる俺。…なんか癖になりそうです。


「す…すみません」

ここは謝っといたほうがいいな。たとえ、俺が悪くなくても。


「まぁ、男の人ですから、そんなものですよね」

由香ちゃんは諦め半分に言う。


「もしかして、直人君も似たようなことを?」

由香ちゃんの兄で、俺と同級生の真壁直人君のことだ。


「…そうですね。はだけた女の子キャラが描かれた本を、リビングに置きっぱなしにしたことがあります。幸い、父と母にはバレませんでしたが、私は見てしまいました。言葉では説明しにくい、複雑な気分になりましたよ…」


真壁君も大変だな。俺は心の中で同情した。



 校門に着いた。俺達は学年が違うので、昇降口が別だ。


「じゃあ、今日も校門でね」

言う必要ないかもしれないが、言わないと落ち着かない。


「わかりました」

笑顔で答えてくれる由香ちゃん。


昇降口で靴を履き替えている時に思った。お昼休みにも会えないかな?

登下校だけでは物足りなくなってきたからだ。


でも、俺は由香ちゃん・志保ちゃんと付き合っている訳ではないし、彼女達がクラスメートと一緒の昼食を望んでいたら?


急いては事を仕損じる。そういう事を訊ける流れになることを祈ろう。



 放課後、俺は校門に向かう事にした。

おや? 今日は2人がいないな。俺が待つことになるか。


俺はのんびり待つことにした。


「すみません。先輩」

志保ちゃんは小走りしたのか、ちょっと息が切れている。


「あれ? 由香ちゃんは?」

近くに由香ちゃんの姿が見えない。


「すぐに来ますよ。先輩が1人で寂しいかな~と思って、あたしだけ先に来ました」


「友達を1人にするのはダメじゃない?」

男1人より、女子1人のほうが何かと問題ありだろう。


「まかちゃんとは学校にいる時ずっと一緒ですし、たまにはあたしが先輩を独り占めしたいんですよ~」


志保ちゃんはそう言って、俺の腕にしがみついて胸を押し付けてきた。

制服の上からでも、胸の柔らかさが伝わってくる。


「…志保ちゃん? 何やってるの?」

いつの間にか由香ちゃんが来ていた。胸の柔らかさに夢中で気付かなかった。


「まかちゃんか。びっくりした。…見てわからない?」

由香ちゃんが来てなお、しがみつきと胸の押し付けをやめない志保ちゃん。


「付き合っていない人に、そういうのは止めたほうが良いと思うけど」

由香ちゃんの言い分が正しいな。男なら簡単に落ちるし、勘違いするぞ。


「あたし、まかちゃんと違ってお兄ちゃんいないし、甘えてみたいんだよ。…あ、そういえば先輩知ってた? まかちゃんにお兄ちゃんがいること?」


「知ってる。しかも、俺と同じクラスなんだよ。偶然だよね」


「な~んだ。知ってたか」

つまんなそうに言った志保ちゃんは、俺の腕から離れた。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

ここは俺が仕切ったほうが良い気がする。一応年長者だし。


「ええ」


「は~い」


由香ちゃん・志保ちゃんがそれぞれ答える。



 「ねえねえ先輩。昨日のあたしのパンツ、どうでした?」

思わずむせそうになる俺。思わず由香ちゃんを観る。


「何でまかちゃんを観るの?」

不思議そうにする志保ちゃんに、朝のやり取りを説明する。


「まかちゃんに読まれていたか~。それと、パンツを観られたぐらいで一緒に帰るのを止めたりしませんよ。裸だったら、少しは考えるかもしれませんが…」


志保ちゃんの裸か。さっき胸を押し付けられたから、意識してしまうな。


「先輩、あたしの裸を想像しましたね? わかりやすいな~」

またからかわれた。悔しいが想像したのは事実なので、何も言えない。


「服部さんは朝からパンツ観たいと願うぐらい、欲求不満だからね」

由香ちゃんが朝の件を志保ちゃんに説明する。


「先輩、まかちゃんとあたしのパンツだけでは物足りないんですか? 誰これ構わず見せる訳じゃないのに、ひどいな~」


「ご…ごめん」

ここで反論すると火に油を注ぎそうなので、謝っておく。


「くれぐれも、の女子に手を出すのは止めて下さいね」

志保ちゃんにマジトーンで言われてしまった。さすがにそれはないよ。


「それは私も気になってました。服部さん、お願いしますね」

由香ちゃんにもクギを刺される始末。俺って、そんな風に観られてるの?


ん? あたし達以外? 言い間違いか、言葉のあやだろう。

ツッコまないほうが良いか。



 いつもの分かれ道に入ったので、俺達は別れた。


パンツが見えるトラブルが起きるのは良いけど、1人の時に起きてほしい。

そう思う俺であった。

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