パンツに愛される男

 家に帰り自室に着いた俺は、制服をかけた後に部屋着に着替える。

その後、ベッドに寝っ転がりながら今日1日を振り返った。


登校時、俺の前を歩いていた真壁まかべさんのパンツを観たことで俺達は知り合った。

下校する時に、真壁さんの幼馴染の渡辺さんとも知り合う事が出来た。


1日で女子2人と仲良くなったんだもんな。俺は神様を信じないタイプだが

これが神様のおかげなら、信じても良いかもしれない。



夕飯を食べて風呂を済ませた後、俺は真壁さんに連絡した。

明日、初めて一緒に登校するためだ。待ち合わせは…、あの分かれ道で良いか。


そのように伝えたところ【わかりました。あの分かれ道で待ってますね】と返信が来た。明日は何を話そうかな? 今から楽しみだ。



 翌日、待ち合わせ場所に行くと、真壁さんは既に待ってくれていた。早いな。


「おはよう。待たせちゃってごめんね」


「いえ。私が早く来ただけなので。…では行きましょうか」


俺達は並んで登校を始める。



ハイテンションの渡辺さんがいないと静かだな。彼女について訊いてみようか。

共通の話題として最適だろう。


「渡辺さんって、昨日言ったけど朝が苦手なタイプなの?」


「そうみたいですね。私は志保ちゃんと小学校からの幼馴染ですけど、小学生・中学生の時は、一言も言ってませんでしたよ。言い出したのは、高校生からです。高校生になって夜更かしが増えたからだと思っていますが、体の変化もあるでしょうし、深入りはしていません」


「そっか~」


ただの寝不足ならいいけど、病気なら心配だな…。

俺がどうこう言う事じゃないけど。



…そうだ。俺のクラスにいる真壁君とのつながりを訊いてみるか。

違ったら謝れば良いよな。


「間違っていたら悪いけど、真壁さんってお兄さんいる?」


「いますよ。兄が1人。それがどうかしたんですか?」


「俺のクラスに『真壁直人まかべなおと』という人がいるんだけどさ、その人と真壁さんって兄妹かな? と勝手に思ったんだ。それを訊きたくてね」


「真壁直人…。私の兄です。兄と同じクラスとは知りませんでした」

クラスについては話してないからね。知らないのは当然だ。


「やっぱりそうなんだ。良かった、謎が1つ解けたよ」


「それは良かったです」

俺に微笑みかける真壁さん。


真壁さんと仲良くなるなら、真壁君とも仲良くしたほうが良いよな。

話せるタイミングを見つけて話してみよう。



校門に着いた。やはり真壁さんとおしゃべりすると、あっという間だな。


「じゃあ今日も、一緒に帰ろう。良いかな?」


「もちろんです。志保ちゃんにも声をかけますね」


「うん。わかったよ」


昇降口が違うので、俺達は別れた。



 今日の体育はバスケだ。4チームに分かれたのだが、俺は真壁君と同じCチームになった。今はAチームとDチームが試合中。残りは審判または待機だ。


俺は、のんびり試合を眺めている真壁君に声をかけた。


「真壁君、ちょっと良いかな?」


「服部君? どうかした?」


「実は、君の妹さんと話す機会があってね。妹さんと仲良くさせてもらうなら、お兄さんの真壁君とも仲良くなりたいって思ってさ」


「わざわざ気を遣わなくていいのに。由香が服部君と話す機会か…。何かあったの?」


きっかけを訊いてきた真壁君。学年が違うから接点はない。

気になるのは当然だろう。


「パン…」

危ない危ない。「パンツを観た」なんて言ったら、俺の印象最悪だよな。


「パン?」

訊き返してくる真壁君。どうごまかせそうか?


「パンダのストラップを妹さんが落としてさ。それを俺が拾ったのがきっかけだよ」

咄嗟にごまかしたが、これでどうだ? 正直に話すよりマシだろう。


「ふ~ん。これからも由香と仲良くしてもらえると嬉しいよ」


「もちろん。俺からお願いしたいぐらいさ」


AチームとDチームの試合が終わり、BチームとCチームの試合が始まる。

俺達の出番だな。


「行こうか。服部君」


「ああ」


真壁君と話せたし、充実した時間だったな。



 下校時、真壁さんと渡辺さんが待っていた。


「先輩。遅いですよ」

渡辺さんは、ちょっと不機嫌になっていた。


「ごめんごめん。2人が早いんだよ」

寄り道せずに来てこれだぞ? どうすりゃいいんだ?


「先輩と帰るの、楽しいですから。早く来ちゃいますよ」

渡辺さんの待ち切れない様子が伝わってくる。


「渡辺さん、嬉しいこと言ってくれるね」

まぎれもなく本心だ。女子と帰る事なんてないから不安なんだよ。


「渡辺さんなんて堅苦しいなぁ。『志保』で良いですよ」


「…だったら、私も『由香』って呼んでください」


「わかった。『志保ちゃん』『由香ちゃん』って呼ばせてもらうよ」


「は~い」


「わかりました」


志保ちゃん・由香ちゃんが、それぞれ返事をした。


出会って2日目で、名前呼びを許可してもらえるとは。良い感じじゃね?

ちなみに、俺の呼び方は2人に任せるように言っておいた。



「志保ちゃん。今日の朝は大丈夫だった?」

朝、由香ちゃんにも訊いたけど、本人にも確認してみる。


「昨日は大袈裟に言い過ぎたかもしれません。遅刻せずに登校できてるので大丈夫ですよ」


そう言って、Vサインをする志保ちゃん。


だったけどね」

由香ちゃんがボソッとつぶやく。


「もう、まかちゃん。先輩には言わないでよ~」


3人で笑い合う。こんな時間がずっと続いてほしいよ。



「ねぇ、先輩…」

いきなり耳元で囁いてくる志保ちゃん。


「な…何?」


「あたしのパンツ…見たいですか?」


急にどうした!? まぁ、興味はあるけど。


「ちょっと!? 志保ちゃん」

由香ちゃんは戸惑っているが、志保ちゃんは話を続ける。


「先輩は風を味方にして、まかちゃんのパンツを観ましたよね? なら、今度は何を味方にして、あたしのパンツを観てくれるんですか?」


ここまで挑発するんだ。中にスパッツやショートパンツを履いているな。

パンツを期待した俺をバカにするのが流れだろう。


…いいよ。乗ってあげよう。わかっても乗るのが男だ!


「観たいね。頼むよ」


「服部さん! 正気ですか!? 志保ちゃんこそ、こんな人気のあるところで…」


「今は周りに誰もいないじゃん。大丈夫だよ…」

そう言って、少しずつスカートをまくり上げる志保ちゃん。


スカートが太もも上半分に入り、本当にパンツが見えそうなタイミングで

志保ちゃんの後ろを、大きな虫が飛んで通り過ぎた。羽音がデカいな。


羽音にビビった志保ちゃんは、スカートを持ったままの手で耳を塞ごうとした。

おいおい、そんなに手を上に上げたら…。


志保ちゃんのパンツが丸見えになった。黒か。しっかり覚えたぞ。


由香ちゃんは、志保ちゃんの手を強引に開かせて、スカートを下ろさせた。


「志保ちゃん。本当にパンツが見えてた! 気を付けて」


「あたしだって、本当に見せる気はなかったよ。…これが先輩の力か。虫まで味方にするとは思いませんでした。パンツに愛される男ですね。まったく」


「それより、何でスパッツとかショートパンツを履いてないの?」

本当にパンツが見られると思ってなかったので、俺も戸惑っている。


「さっきも言ったでしょ? 見せる気はないって。そろそろ止めよう、というタイミングで虫が飛んでくるんですもん。予想できませんよ」



 この後は、3人共無言だった。なんとなく気まずいからだ。そして、分かれ道に差し掛かったところで「また明日」と俺が声をかけて別れた。


おいおい、このまま自然消滅は嫌だぞ。今日中にフォローしておこう。

そう心に決める俺であった。

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