親友は突然に

 連絡先を交換した後は、お互い無言で登校した。

…もう校門が見えてきた。いつも早く感じるな。


真壁さんが連絡先を訊いてくれたんだ。

次のアクションは、俺が起こそう。


校門に入る直前、真壁さんに「今日、一緒に帰ろう」と誘ってみた。

急がば回れ。千里の道も一歩からだ。


「良いですけど…、う~ん」

返事の割に、歯切れが悪い真壁さん。


「ゴメン、無理ならそう言って良いよ」


「そうじゃないんですけど…、いつも友達と帰ってるんです」

帰りは? 行きは一緒じゃないのは何でだろう?


「そっか…、俺は良いけど友達は嫌がるか…」

無理強いは良くないよな。


「同じクラスなので、服部さん入れて3人で帰って良いか訊いてみます」

笑顔で答えてくれる真壁さん。良い子だ。


「ありがとう。よろしく頼むよ」


その後は、学年ごとに昇降口が違うので別れた。



自分の教室に着いてボーっとしている時に着信が来た。

【友達に服部さん入れて3人で帰る許可をもらいました。放課後、校門で】


やった~。叫びたかったけど、教室内なのでちょいガッツポーズで済ませる。

すかさず【わかったよ】と返信する。



自己紹介の時に真壁さんの名字を訊いてから、気になっていることがある。

俺のクラスにも「真壁」という人がいることだ。真壁直人まかべなおとと言う。


話したことは皆無で、挨拶と体育の時にちょっとぐらいか。


真壁という名字は珍しいと思うけど『同じ苗字=兄妹』は短絡的か?

タイミングが合えば、どちらかに確認したいな。



 放課後、校門で真壁さんと友達らしき人が待っていた。

俺に気付いた真壁さんがちょっと手を振ったに対し、友達は大振りだ。


「先輩がと一緒に帰る約束をした人ですね!?」

友達が興味津々な様子で俺を観る。


「そうだけど…、君は?」

この友達、テンション高いな。


「あたし、まかちゃんの幼馴染の渡辺志保わたなべしほです」

頭をぺこりと下げた渡辺さん。


「俺は服部慎一はっとりしんいち。真壁さんから聞いてるよね?」


「はい。よろしくおねがいしま~す」


お互い挨拶を交わす、俺と渡辺さん。


「それよりも…、さっきから言ってるまかちゃんって何?」


だからです。先輩、察し悪いな~」


会って数秒でナメられてしまった。真壁さんに情けないところを観られたな。

彼女を観たところ、クスクス笑っていた。


「志保ちゃん、テンション高いでしょ? 年上の服部さんでも振り回されますか」


年下に振り回されて恥ずかしくなったので「いつまでも校門でしゃべってないで帰るよ」と急かした。真壁さんは素直に応じてくれたが、渡辺さんはしぶしぶだ。


渡辺さん、敵に回すと面倒そうだ。意識しておこう。



 「男っ気がないまかちゃんが、先輩と一緒に帰りたいって言いだした時はビックリしましたよ~」


渡辺さんはそう言いながら、真壁さんを観る。


「真壁さん可愛いのに、男っ気がないの? 信じられないよ」

俺は渡辺さんに訊いてみる。


「でしょ? この子、可愛いんだから、ちゃんとオシャレすれば良いのにね」


「も…もう、2人ともやめて」

真壁さんは耳を赤くしている。ちょっとからかい過ぎたか?


渡辺さんの言う事はわかるが、真壁さんがオシャレすると今以上に他の男の注目を集めてしまう。真壁さんが可愛いことは、俺だけが知っていればいいんだ。



「そういえば、まかちゃんと先輩の出会いのきっかけって何なんですか?」

渡辺さんが俺と真壁さんを観て言ってきた。


「あれ? てっきり、真壁さんから聴いたと思ったけど?」

知らない人と帰りたがっていたら、出会ったきっかけ訊かない?


「それが『帰る時に話す』の1点張りだったんですよ。ここは男らしく先輩から説明して下さい」


目をキラキラさせながら俺を観る渡辺さん。


「真壁さん…、話して良い?」

内容がないようなので、確認は欠かせない。


「はい。良いですよ。…なるべく声のトーンは控えめでお願いします」

俺も大声で話すつもりはないよ。…パンツが出てくるし。


俺は渡辺さんに出会ったきっかけを正直に話した。



「あはは。出会ったきっかけがって。冗談でしょ?」

大笑いしている渡辺さん。そう言いたくなるよな。


「気持ちはわかる。でも本当なんだよ。ね? 真壁さん?」


真壁さんは恥ずかしそうに頷く。


「じゃあ、まかちゃんのパンツの色も観ましたね?」

ニヤニヤしながら俺を観る渡辺さん。


「もちろん。ピ…」

言いかけて俺は悩んだ。パンツを見られたことは真壁さんも知っている。


だが、パンチラなのかパンモロなのかは知らないはずだ。

俺が観たのはパンモロだが、真壁さんのためにダメージは最小限にするべきだ。


ここは紳士らしく、ぼかした言い方にしよう。


「ピンク…だったと思う。チラッとしか見えてないからね」


「本当ですか~? しっかり見たんじゃないんですか~?」

ジト目で俺を観る渡辺さん。…何で真壁さんまでジト目なの?


「…まぁ良いでしょう。そう言う事にしておきますか」

渡辺さん、その言い方は絶対納得してないね。


彼女には嘘をつけないかもしれない。



 「あたし達の家、この道を右に行くとすぐなんです」

渡辺さんは分かれ道の中央で止まり、右側を指差す。真壁さんも頷く。


「俺は左に行くとすぐだね」


ここまで来れば、自宅まで数分だ。


「ここまで一緒ってことは、お互いの家は近いね。明日は3人で一緒に登校しようよ」


俺は真壁さんだけでなく、渡辺さんも誘ってみた。


「すみません。あたし、朝弱くて。約束に間に合う自信がないんです」


「もしかして、真壁さんと朝一緒に登校しないのって…」


「はい。そういう事です。あたしもまかちゃんと登校したいんですけど…」

体質の問題なのかな? それなら仕方ないか。


「その代わり、先輩がまかちゃんをリードしてあげて下さいね」

そう言われて、お互い顔を合わせる俺と真壁さん。…ちょっと恥ずかしい。


「そうだ。先輩。帰る前に、連絡先の交換をお願いします」

断る理由がないので、サクッと交換を済ませる。


「今日はありがとうございました。まかちゃん、行こ」

別れ際に2人が俺に手を振ってくれたので、俺も振っておく。



ただの帰り道が、女子と帰るだけでこんなにも楽しくなるのか。

明日の登校は真壁さんと一緒だ。楽しみだな~。

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