第35話 白いポピーに包まれて4 sideR

 突然の訪問者は、深夜0時を過ぎた頃にやって来た。室内に設置された内線が鳴る。普通の人間ならば、こんな時間に、と疑問になるかもしれないが、凛太朗はその点慣れていた。




 「夜遅くにすみません。フロントです。ウイさんがいらしていますが、通してよろしいでしょうか。」




 凛太朗は、了承し、ウイの到着を待つ。10分もしないうちにウイは、凛太朗の家へと到着し、インターホンを押す。「入って。」という声の後、すぐにドアロックが解錠される。




 「こんばんわ。荷物があるのに、迎えに来ないのは紳士じゃないわね。」




 そう言いながら部屋に入ってきたのは、仕事終わりであろう、髪を巻き、スーツを着たウイだった。




 「……うるせぇよ。だったら来てほしいって言いなよ。」




 そう言いながら、凛太郎はソファにどっしりと座る。




 「そういうのは、自分で、気付いてするものよ。」 




 「いちいち癪に障る奴だなぁ。」




 「はぁ、躾がなってないわね。昴は私のことをいつでもちゃんと名前で呼んでくれるのに。」




 「僕とあいつを一緒にするな。んで、何の用。」




 ウイの方をちらりと見ると、持っていた荷物は花束だったようで、その包みを開けていく。




 「綺麗でしょう。白いポピーよ。花瓶もないだろうと思って、持って来てあげたわ。」




 そう言いながら器用に花瓶にポピーを生けていく。




 「花なんて、ゴミになるだけだろ。わけのわかんねぇもの持ってくるなよ。」




 「失礼ねぇ。これは、店には縁起が悪いけど、そう、私達にはぴったりの花だと思うんだけどね。」




 「縁起の悪い花が、ぴったりねぇ。どうせ、罪人だの、非情だのそんな意味だろ。」




 「花言葉は、忘却、眠り。思い当たる節があるでしょう。」




 「天音さんか。」




 「そうよ、あなたは、関わるべきじゃない。忘れなさい。」




 「お前に何がわかる。僕は天音さんのことが―――。」




 凛太朗は、勢いよく立ち上がり、ウイに言う。




 「でも、言えなくて、手放した。臆病だったから?自信がなかったから?情けないわ。」




 図星を突かれ、それ以上何も言えなくなる。




 「……何が言いたい。」




 「1番は、忘れること。でもね、そうは思っていても彼女はきっとあなたの元に現れる。中途半端なことをして彼女を悲しませるくらいなら、全て明かすのも、私はいいと思う。ま、そこは考えなさい、よく眠ってね。じゃあ、私は帰るわ。迷える子羊よ。」




 そう言い、ウイは、帰って行った。カウンターの上には、白いポピーが美しく咲いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る