第13話 太陽に出会う9
「どうしてこんなひどい怪我をしたの。」
女の子が痛々しい傷口をじっと見つめながら、言う。
「……けんかした。」
少し間があいて、凛太朗がぼそりと言う。
「誰と?」
「……クラスの奴。」
「相手は、大丈夫?」
「……知らない。」
「そっか。」
凛太朗は、あまり話したくはなかった。それは、女の子に酷い態度を取ってしまったからでもあった。2人でゆっくりとやりとりしているうちに、女の子の弟である天詠が片手に箱を持って戻ってくる。
「天音ちゃん、ママのお道具箱持ってきたよ。」
この時、凛太朗は、初めて女の子の名前が天音であることを知る。
「ありがとう。早かったね。」
「うん、すごく走った。」
「転んでない?」
「うん。転んでない。」
2人は、仲の良い姉弟であることが一目見てわかった。
天詠から救急箱を受け取り、天音はすぐに道具箱を開ける。中に入っている容器を開け、手慣れた様子でピンセットを使い、消毒液に浸された脱脂綿を1枚取り出す。その脱脂綿を凛太朗の傷口にそっと当てる。
「痛っ。」
先程、流水をかけた時とは比べ物にならないような声が上がる。
「ごめんね、しみるよね。」
脱脂綿には、薄い血液が付き、傷口には白い泡がついていた。それを見た天詠は「ちゃんと、ばい菌消えてるね。」なんて言っている。
「ごめん、痛いと思うけど、もう一枚使うね。」
そう言い、天音が脱脂綿を取り換え、もう一度同じように、消毒する。次は、凛太朗も覚悟をしていたようで、黙って天音の手先を見つめていた。しかし、その表情は、痛みに耐えるように、眉間に皺を寄せていた。
「終わったよ。」
そう言いながら、天音は、ガーゼをそっと傷口に当て、サージカルテープで固定する。
「……ありがとう。その……振り払って悪かった。」
「気にしないで。私も、ごめんね。名前、聞いてなかったね。私は、天音。水瀬天音。こっちは弟の天詠。」
そう言うと、天詠は改まって、凛太朗にぺこりと礼をする。
「僕の名前は、庵原凛太朗。」
「庵原凛太朗くん……じゃあ、凛ちゃんだね。これからよろしくね。私、この公園によく来るの。次合ったら遊ぼうよ。3人だと、できる遊び増えるから嬉しいな。ね、天詠。」
そう天音が天詠に言うと、嬉しそうに「うん。」と言うのだった。
先程の喧嘩のことなど、凛太朗はすっかり忘れていた。理不尽に暴力を振るうものもいれば、無条件に優しさを与えてくれる太陽のような者もいる。
日本に来て、凛太朗の家庭を気にすることなく接してくれる人間、天音に会えた、生涯忘れることのない日になった。
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