第11話 太陽に出会う7
2学期は凛太朗にとって最悪な始まりの連続だった。
初日だけでも森近の言いつけを守りに守って早めに来たのだが、それがあざとなった。教室内の前の机に早めに提出していた日記は、一部のクラスの児童たちが興味本位で読み始めたのだ。ノートにぎっしりと文字の並んだ日記を見た児童たちは、ガリ勉で暇人だと凛太朗を笑った。その笑っている一部の者で真面目に書く者はいなかったから、余計にそのような感想が出てきたのだ。凛太朗としては、文字を書く練習の一環であったが、そんな理由はきっとどうでも良いのだろう。その様子を見かねた高橋は、回し読みをしている生徒から日記を取り上げようとする。
「んだよ、お前、あいつの味方かよ。」
「お前、いつから偽物のアメリカ人になったんだ。」
そう言って、高橋もが非難の対象となり、馬鹿にされる。凛太朗としては、他人を巻き込みたくない気持ちが強かったが故に、無視できなくなった。
「返せ。僕の日記。破れたら先生に怒られるだろ。」
どうすれば、相手の加虐心を刺激するのかを理解していた。必死になる素振りを見せれば良いのだ。
「お前、先生が怖いのか。」
「ママやパパがいっつも呼ばれてるもんなぁ。」
「それは、僕と喧嘩してるお前らも一緒じゃん。」
凛太朗が一言発すれば、矛先はすべて凛太朗に向く。一部の児童は、常に隙を探していた。凛太朗が、ノートを無理に取ろうとした結果、揉み合いになった。その後、いつも通り、すぐに担任の安藤が駆け付けたので、怪我をするには至らなかったが、凛太朗の日記が書かれたノートは、床の上に放り投げられ、薄汚れ、みすぼらしいものとなった。
その日以降も、事あるごとに、凛太朗の喧嘩を止めようと、高橋は、仲裁に入るようになった。夏の登校日の森近の言葉に責任を感じてのことだろう。だが、それが余計に周りの児童を盛り上げる結果となり、喧嘩が起これば、そこに暴力は付き物となった。
「淳、僕のために巻き込まれる必要はないよ。そのうち、怪我したらどうすんだよ。親も呼ばれるかも……。」
「いいよ、約束しただろ。助けるって。親が呼ばれたところで、俺は別にどうでもいい。」
「よくわかんない部屋に呼ばれて、すぐに帰れないの、ちょっと嫌だと思うけど。」
「まぁ。それは。でも、呼ばれるのは、俺だけじゃないだろ。お前ももれなく付いてくるよな。」
そう言って笑う高橋は、頼りに見えた。
そして、そんな会話を交わし、しばらくした初秋のよく晴れたある日。凛太朗が下校中に複数の児童から取り囲まれることが起こった。それは、同じクラスの土井だけじゃなく、他のクラスの名前の知らない者もいた。
凛太朗は、裕福な家庭で、甘やかされて育ってはいたが、決してひ弱なわけではない。ただのボンボンがすかした態度で調子に乗っている、大半の者はそう思い、油断をしていた。
高橋という、仲裁に入る者がいない状態での喧嘩は、お互い歯止めが効かなかった。
凛太朗は、取り囲まれ、複数人からの暴力を受け、揉み合いになった。痛みに耐えながらも、負けじとやり返していた。凛太朗は、他人に遠慮することはなかった。引けば1人の自分が大きな負傷をすることがわかっていたからだ。
そして、終盤、その中の1人に含まれている土井に腹部を蹴られ、倒れそうになったが、凛太朗は負けじと掴みかかった。以前からの鬱憤もそこに込められていた。火事場の馬鹿力と言ったもので、土井を押し倒すのは容易かった。力いっぱい押し倒した弾みで、凛太朗の膝が地面に激しく打ち、蹴られた時よりも、痛みが走った。土井はというと、押し倒された弾みで背中を強打し、その痛みに気を取られたからか、凛太朗に顔面を殴られるのを回避できずに、頬にストレートで凛太朗の拳が入った。凛太朗が何度もそうすることに周りは青ざめ、去る者もいたが、土井を守ろうと、引き離そうとする者もいた。2人は引き離された結果、凛太朗の身を案じる者はその場にはおらず、すぐにその場を去った。
凛太朗は、痛みに耐えながらも普段は絶対に寄ることのない自宅付近にある公園で休むことにした。むしゃくしゃした気持ちで家に帰りたくはなかったのだ。
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