第58話 陛下の決定
僕たちはロッテンマイヤー公爵家の馬車で王宮に急いで向かったんだ。
到着して直ぐに陛下の私室に案内された。そこには心底疲れそして僕たちに、特に僕を見て申し訳なさそうにするハール様も居たんだ。そして、陛下からの第一声を聞いてその理由が僕たちにも明らかになった。
「トーヤ! 私は国王だよな? だけど、その国王を差し置いて寄親に国宝級をプレゼントしてるなんて、私は悲しいよ…… 先ずは全ての民を統べる私にプレゼントしてくれてもいいんじゃないかな? フェル嬢もそう思わないか?」
はい、僕とフェルはガクッときてます…… この人が国王陛下で大丈夫なのかと…… 幸いにもここは私室だ。直答しても大丈夫な場所でもある。
「陛下、何よりも先ずはお話を聞いて頂けますか?」
フェルが僕の代わりに陛下にそう言ってくれた。陛下はフェルと僕を見て頷く。
「有難うございます。何故、トーヤが先に寄親であるハール様に国宝級である腕輪をプレゼントしたのか申しますと、私の実家であるテルマイヤー家からの報復を心配したからです。腐っても【元影】であった者たちですので、安全を優先したトーヤの事をどうかお叱りにならないで下さいませ。そして勿論、ハール様とのお話合いが終わった時点でトーヤは王族の方々にも同じ腕輪をお渡しするつもりだった事もここにお伝え致します」
一息にここまでフェルが言って、言い終えたタイミングで僕は腕輪を取り出したんだ。それは、ナニワサカイ国の王族の方々用のも含めて個数がある。
「お、おお。そうであろう。私はトーヤの事をもちろん信じていたぞ」
いや、嘘ですよね…… 陛下、目が泳いでますよ。
「うむ、ちゃんとナニワサカイ国の王族にもお渡しするからな」
途端に機嫌が良くなりニコニコしだした陛下にハール様がボソっと言った。
「全く、若い頃から何も変わっておらん…… 現金なやつじゃ……」
「聞こえてるぞ、ハール!」
「おや、聞こえましたかな? まあ、私にも愚痴ぐらい言う権利はございますからな」
ハール様はしれっと返事をした。
そして、やっと本題に入る。
「さて、ハールから相談があった件なのだが。テルマイヤー家はロッテンマイヤー公爵家に吸収合併とする。その領地についてどうするかはハールの一存に任せる事となった。早速だが明日の朝に私の書状を持ち、王太子であるセレスと共に、ハール、トーヤがテルマイヤー家に
僕たちは陛下の決定を聞いて跪いて了承の意を示した。
それからセレス様と第二騎士団団長との打合せを済ませてハール様の屋敷に戻った。
「いや、済まなんだの皆。陛下が駄々を捏ねてのう…… 私も腕輪が欲しいなんて言い出しての…… 全く王妃殿下が居られたらそんな事を言っても
ハール様がそう言って僕たちは夕食を食べ終えて早めに就寝したんだ。
翌朝、僕たちは準備を済ませてテルマイヤー家へと出向いた。僕とフェル、ハール様だけだ。テルマイヤー家に着くと既に門前にセレス様と第二騎士団が揃っていたんだ。
「来たか、トーヤ。フェル嬢も一緒とは思わなかったが、いいのかい?」
そう言うセレス様は
「ん? ああフィリップ殿は後学の為に来られたんだ。ナニワサカイ国でも恥さらしの貴族は居られるようでな。どのような采配で行うのか見てみたいそうだよ」
「何て言うてるんは表向きの理由で、ホンマは
おお、フィリップ様も方言丸出しだ! ルソン陛下だけなんだね、方言を使われないのは。
「セレス様、私も実家の行く末をこの目で確認したいと着いてまいりました。何があろうとも自分の身は自分で守れますので、大丈夫です」
フェルがセレス様にそう答える。そんなフェルを見てフィリップ様が言う。
「なんや、こんな可愛い娘がトーヤくんの婚約者なんや。僕の婚約者に爪の垢を煎じて飲まさなアカンな……」
ご自分の婚約者の事をそんな風に他人に言ったらダメですよってフェルが注意してたよ。
そして、恐れおののいている門番に門を開けさせ、僕たちは屋敷に向かって進んだんだ。
けど、屋敷は既に誰も居なかったよ…… 置き手紙が1枚だけあったけどね。
【愚かなる王家とロッテンマイヤーへ……
貴様達の暗き過去がこの国の貴族たちに
未来の王家テルマイヤー家より】
コチラの動きを読んでいたみたいだけど、自分たちの汚点がばら撒かれる事の確認はしてなかったようだね。うん、僕たちは笑って待つ事になりそうだよ。
そして、その日のうちに各貴族家に極秘文書が配られた。その内容に腹を抱えて抱腹絶倒する貴族が相次いだとかなんとか……
だって、テルマイヤー家長男、次男の学園での試験解答用紙に書かれた点数が、2桁いってないって! 更には長女、次女の淑女教育の補習時間が日数にして30日を超えていたり……
それだけじゃなく、テルマイヤー家の当主の学生時代の成績表なんかも公開されてるし、コレは笑いよりは怒りで表現されたけど、裏帳簿や悪事の数々も明らかになったんだ。
笑ってみるつもりだったテルマイヤー家だったけど、この結果を何処かで隠れて見ていたんだろうね。コソコソと変装して国を出ていこうとした所を捕まって陛下の御前に連れて来られたようだよ。
そして、陛下はテルマイヤー家は表向きは取り潰しとしたんだけど、その領地などはロッテンマイヤー公爵家が管理する事を他の貴族に通達して、この騒動を終わらせたんだ。
捕まったテルマイヤー家の人たちとひっそりと僕とフェルが会ったのはまた別の機会にお話するよ。
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