第59話 ナニワサカイ国へ

 フェルの実家のゴタゴタが片付き、更にはサーベル王国とナニワサカイ国との間での話合いも終わって、僕たちはいよいよナニワサカイ国へと向かう事になったんだ。

 ラウールさんとサハーラさんに待たせてしまってゴメンナサイとフェルと2人で謝ったら、


「ハイナイト伯爵、有難う。これで私もサハーラも安心して結婚出来るよ」


「フェル様、ご実家があんな事になってしまって…… お辛いでしょうにお気遣いいただき、有難うございます」


 って言ってくれたよ。本当にこのお2人は素敵な方たちだと思う。末永く友人としてお付合いして貰いたいな。フェルも同じ意見のようだよ。


 王宮の1室に案内された僕らは、フィリップ殿下によってナニワサカイ国の王宮へと転移した。


「さあ、着いたで。ようこそ、ナニワサカイ国へ! 皆さん、歓迎しまっせ!」


 フィリップ殿下はニコニコと笑顔でそう言ってくれた。それからその部屋を出たら侍女さんが大勢いて、僕たちは各部屋に案内されたんだ。


「トーヤ様はコチラのお部屋でお過ごし下さい〜。はい〜。 フェル様はお隣です、はい〜」


 な、何か独特な言い回しをする侍女さんが僕についたよ。『はい〜』は語尾につけないとダメなのかな?


「後ほど、アカネ王妃殿下の私室にご案内致しますので、それまでゆっくりと部屋でお過ごし下さい。はい〜」


 僕は侍女さんに頷いて返事をして部屋に入った。部屋は広くて清潔感に溢れているよ。トイレもお風呂もある。部屋を見ていたらノックの音が聞こえたから僕は扉を開けた。


「トーヤ、お着替えしないとダメよ。その格好だとアカネ様に失礼になるわ」


 フェルが入ってくるなり僕にそう言ったから、僕は慌てて道具箱からそれなりの服を取り出したんだ。


「うん、それなら大丈夫だと思うわ。お着替えが終わったら呼んでね」

 

 そう言ってフェルは部屋を出ていった。着替えが必要な事を伝える為に来た訳じゃなさそうだね。部屋で待機していた侍女さんが着替えを手伝おうと近づいてきたんだけど、僕は手で制して必要ない事を伝える。


「私の仕事なのにお断りされてしまいました、はい〜」


 そう言って悲しそうに下がる侍女さん。ちょっと悪い事をしたかな? そう思ったので着替え終わった僕は侍女さんにフェルを呼んで来てほしいって筆談で伝えたんだ。


「畏まりました、フェル様をお呼び致します。はい〜」


 その『はい〜』が段々と心地よくなって来たよ。聞く為に何か用事を言いつけちゃうかも知れない。注意しなくちゃね。

 侍女さんに呼ばれたフェルが部屋にやって来た。そして、開口一番に


「トーヤ、あの侍女さんはヤーコさんという名です。あの『はい〜』は耳に心地良いですね」


 とニッコリ笑って言ったんだ。良かったよ、僕と同じように思ってくれて。


 それから僕はヤーコさんが居るから筆談でフェルと会話を始めた。


「トーヤ、ナニワサカイ国では木を見せて頂くとの事でしたが、何か目的の木はあるのですか?」


【うん、フェル。実はヒノキっていう木がこの国にあれば良いなと思ってるんだ。あと、木で浴槽を作れる職人さんも探したいんだ】


「ヒノキですか…… 聞いた事がないですね。ジーク様やカーズ様ならばご存知でしょうか?」


【兄さんたちは来てのお楽しみって言ってたから、僕の知るヒノキそのものか、似た木があるんじゃないかなって思ってるよ】


「そうなんですね。でも何故その木なのですか?」


【うーん、そうだね…… 説明するのは難しいんだ。ただその浴槽は湯を柔らかくしてくれるし、新しい物は香りが良くて心も落ち着くんだよ。あ、そうだフェル。この部屋のお風呂を見てみない? 僕は見たけど木で作った浴槽だったよ? フェルの部屋はどうだった?】


「私はまだお部屋のお風呂は見ておりませんわ。そうなんですね、木の浴槽なんですね。是非とも見てみたいですわ」


 とフェルが言った時にヤーコさんが喋り出した。


「ご歓談中に私のような者が喋るのをどうかご容赦下さい、はい〜。このトーヤ様のお部屋とフェル様のお部屋の浴槽について一言述べさせていただきます。はい〜。このお部屋の浴槽に使われている木はスギヒノと呼ばれる木です。はい〜。フェル様のお部屋の浴槽はタカノマキという木が使用されております。ご参考までに。はい〜」


 おお、凄い。知りたい情報をヤーコさんが教えてくれたよ。スギヒノは恐らくヒノキだと思うんだ。タカノマキは高野槙こうやまきだろうね。水に強い前世でも浴槽に使われていた木だよ。後は少し安価だったさわらの木なんかがあればいいなあ。

 ヤーコさんの話を聞いて嬉しそうな顔をした僕を見てフェルが言う。


「フフフ、どうやらトーヤの知りたかった情報を教えて貰えたんですね。ヤーコさん、有難うございます」


「私はしがない侍女ですので、勿体無いお言葉です、フェル様。はい〜」 


 それからフェルが僕の部屋と自分の部屋の浴槽を見て感動し、その感想も含めて僕と少しだけ雑談筆談していたら、どうやらアカネ様の準備も整ったらしく、僕とフェルは部屋を出て案内されるままにアカネ様の私室に向かった。


 部屋にはジーク兄さん夫妻にカーズ義兄にいさん夫妻、ラウールさんとサハーラさんも僕たち2人の後に入室してきたんだ。そして、僕たちが揃ったのを見て家令さんらしき人が、


「国王陛下、王妃殿下、王太子殿下のご入場です」


 と宣言した。アカネ様の私室だけどルソン陛下も来られるんだね、なんて失礼な事を思ったのは内緒だよ。


「さあさあ、そないに立ってないで座りいな。トーヤくんもラウールくんもようこそナニワサカイ国へ。ウチの国の木が目的なんは分かってるけど、木は逃げへんからね。ちょっとユックリしても大丈夫やろ?」


 アカネ様の言葉に僕たちは素直にソファに座って、頷いたんだ。


「それでな、今日はもうこの王宮で休んでもらうだけなんやけど、明日からウチの国の文化も見てもらえたら思うて。勿論、材木問屋にも案内するさかい、ソコは安心してや」


 おお、前世では時代劇でしか聞いた事がなかった材木問屋さんがあるんだ。僕は内心でワクワクしてしまったよ。


「ウチの国で一番大きい材木問屋のキノクーニャ屋が王都にあるさかい、期待してもろてエエで!」


 キノクーニャって…… 紀伊國屋きのくにや? もしかして問屋の主は文左衛門さんかな?

 僕のこの疑問は翌日に分かる事になったよ。 

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