第6話 神儀式

 中に入ると広い教会ではあるけれど、流石に一回で全ての人は入れないようだ。

 でも、僕らはセバスが教会の神父さんに儀式を受けに来たのではなく、見学に来たと伝えて中に入れて貰った。


「いっぱい居るね〜、みんな同い年なんだね〜」


 リラがそう言ってキョロキョロしている。取り敢えず30人ほどが親と一緒に礼拝所に入っている。神父さんの説明が始まる。


「一人一人、名前を言いますので呼ばれた人は私のところに来て下さいね。そして、この水晶に片手を置いて神様に祈って下さい。そうしたら、自分の能力を神様が教えてくれますからね」


 そして、名前を呼ばれた子が神父さんの前に行き、水晶に手を置いて祈るとその子自身に能力が伝わり、更にその能力を紙に印刷した物が水晶の下にある機械から出てくるようだ。ソレを受け取って子供は親元に戻る。

 印刷されたものを読みながら自身の子供に説明している親たち。読めるという事は庶民の識字率が意外と高いんだね。僕はそう思いながらセバスに心話で尋ねた。


『無償で教会はやってるの?』


『この5歳の時と10歳の時は無償で行っております。15歳になりますと銅貨5枚で、20歳で銀貨2枚、25歳以降は金貨1枚と高くなります』


『ふーん、そうなんだね』


 この時に僕は過ちに気がついた。僕の右手はセバスの左手と繋いでいて、僕の左手はリラと手を繋いでいた事を忘れていたのだ。


『凄ーい!! ねぇねぇ、トーヤだよね? ちゃんと喋れるんだね〜』


 難なく心話で話しかけてくるリラ。その心話はセバスにも聞こえている。


『なっ! トーヤ様、リラの声が聞こえるようですが……?』


『ウン、ソウダネ…… リラとも手を繋いでるのを忘れてたんだ……』


 僕は正直に自分のミスをセバスに報告した。するとセバスがリラに言う。


『いいか、リラ! この事は私達だけの秘密だ。ガルンやラメルにも言ってはいけないぞ。トーヤ様がいいと言うまでは誰にも言うんじゃないぞ!!』


『うん、分かった〜。パパやママにも言わない』


 その返事を聞いて僕もセバスもホッとしたんだ。そして、どうせだからとこのまま三人で心話を続ける事にしたんだ。 


 三人で心話で会話を楽しみながら、儀式を見ていたら一人の女の子がオズオズと水晶の前に行き、手を置いた。それから、神父さんが印刷された紙を渡す前にチラッと見てからその子に告げる。


「フェルさん、後でお話したい事がありますから、帰らずに待っていて貰えますか?」


 神父さんの言葉に女の子は頷き、神父さんに促されて僕達の方にやって来ると、僕達の横に立って印刷された紙を真剣な表情で見始めた。

 横からその子よりも背が高いリラが覗き込み、僕達に言った。


『うわー、この娘凄いよー。気力が62に、魔力が145もあるよー』


 へー、だから神父さんが引き止めたんだね。僕はその娘を見極眼で見てみた。すると、



名前:フェル・テルマイヤー(侯爵家四女)

年齢:五歳

種族:人種

位階レベル:7

性別:女

性格:根暗・妄想魔人

称号:無し

体力:22

気力:62

技力:28

魔力:145

魂力:100

技能:魔力操作・身体強化(小)・属性魔法(1)【赤・水・緑・茶・金】・剣技(1)・短剣術(3)

加護:ククリヒメの加護

   【不屈】


 アレ? この娘も貴族なんだ。何で庶民の教会に来ているのかな? 僕が不思議に思っていたら、セバスが周りに聞こえないようにその娘に話しかけた。


「そこのお嬢様、失礼ながらテルマイヤー侯爵家のフェル様とお見受け致します。私はログセルガー公爵家に仕えております、執事のセバスと申します。一度だけテルマイヤー侯爵家へと用事でお伺いした時にお目にかかる機会を得ましたが、覚えておられますでしょうか?」


 流暢にそう言うセバスを見てハッとした顔をするフェルちゃん。そして、うつむいてボソボソと喋りだした。


「いえ、お人違いかと思います。私は貴族様ではありません…… ただの庶民です」


 うん、その受け答えが既に貴族だよ、フェルちゃん。勿論セバスも気がついている筈だけど、そのままフェルちゃんの言葉に納得したように返事をした。


「おお、それは失礼したね。本当にソックリだったから。ゴメンよ」


 ちゃんと庶民に対する言葉遣いに変えるのがセバスが優秀な証拠だね。けれども、セバスがそう返事をした時に、フェルちゃんの顔が歪んだのを僕は見てしまった。そして、それにリラも気がついたようだ。


「フェルちゃん、私はリラ。ログセルガー公爵家で父が庭師をしているの。よろしくね」


 明るい雰囲気でリラがそう言うと、フェルちゃんもつられて挨拶を返した。


「フェルです。リラちゃん、よろしくね。家は街でパン屋さんをしているから、両親ともにココに来れなかったの」


「ウワー、パン屋さんなの! セバスさん、私帰りにフェルちゃんのパン屋さんに行きたい! あ、忘れてた。この男の子はウチの養子でトーヤっていうんだ〜。喋れないけど、こっちの言ってる事は理解してるから話しかけてあげてね」


 リラの加護、【頭脳明晰】がフル稼働している…… 凄いなあ、リラは。セバスも軽く目を見張ってるし。


「あ、あの、リラちゃん、家は忙しいから…… また今度でお願い。トーヤくん、フェルです。よろしくね」


 僕はフェルちゃんにニコニコ顔で頷いて、軽く頭を下げた。


 そうしたら神父さんがフェルちゃんを呼びに来た。神父さんに連れられてフェルちゃんが行くと、その後に別の神父さんがやって来て、セバスに言った。


「セバスさん、実は…… 少しお力をお貸し願えませんか。テルマイヤー侯爵家のご令嬢の件なのですが……」


 と、フェルちゃんの為に力を貸して欲しいと言う。セバスは僕の方を見るから僕は頷いてセバスに許可を出したんだ。

   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る