第2話 残された人達と転生と

 磯貝澄也が刺されて亡くなった……

 

 一緒に住む筈だった従妹の磯谷香織いそがいかおりは遺体に縋り付き、謝っていた……


澄兄とうにい! ゴメンナサイ、ゴメンナサイ…… 私が澄兄とうにいを頼らなければ……」


 しかし、その時不意に香織の頭に声が響いた。


『香織、気にするな。あの家は名義変更手続きを進めていたから、後はリビングの机の引き出しの中にある手紙を読んでくれ。それで分かるから。あと、俺はどうやら違う世界で……』


澄兄とうにい! 澄兄とうにいの声が…… リビングの机の引き出しって言ってた…… 違う世界でってどういう事なの? そんなの良いから生き返ってよ、澄兄とうにい!!」


 そして、号泣し始める香織。2日後、落ち着いた香織がリビングの机の引き出しを開けるまで、じっと見守っていた存在には気が付かなかった……


「課長〜!! どうして私をおいて亡くなったんですかぁ〜……」


 若手の美弥が遺影の前で大きな声で泣いている。他の課員も同様に皆が泣いていた。


「課長、一言も喋らない貴方の的確な指示が無くなったら、僕達はどうして行けば良いんですか?」


 課長代理の若林はそう言って目からポタポタと涙を零した。 



 ソレを見ている存在が二つ。


『アラ〜、本当に貴方って愛されてたのね〜…… 亡くなってこんなに惜しまれるなんて…… こりゃ、眷族の子が自らを滅しようとする筈だわ……』


「その必要は無いと言っておいて欲しい。俺は新たな世界で生まれ変わる事が出来るのだから……」


『はあ、まあ言っておくけど…… それにしても、私達が管理する世界じゃないから、どんな環境にどんな状態で転生するかも分からないからね〜…… 本当は私の管理する世界の一つに転生してもらう予定だったんだけど…… ゴメンねぇ、スサノオ様にバレちゃってねぇ…… まさかのツクヨミ様の管理する世界になっちゃった、テヘッ!』


 舌を出して可愛らしく言ってくるが、俺にとってはどうでもいい事だった。俺は心に固く誓っていた。次に生まれ変わったら、積極的に喋れるようになるんだと……


「気にするな…… 俺はどんな環境だろうと生きて行く」


『うんうん、そう言ってくれると思ったよ〜』


 暫く俺自身の葬儀を見守っていたがどうやら時間が来たようだ。


『それじゃ、新たな世界でも頑張ってねぇ。ちゃんと誓約は守るから安心してね。それから、ツクヨミ様から許可を頂いたから、私の加護を二つ授けるから…… 元気でね』


「有難う」


 俺はこの何日かで喋れるようになった自称神様に挨拶をした。そして、意識が暗転した。 


 


 気がついたのはまぶたに光を感じたからだ。目はまだ開ける事が出来ないようだ。どうやら赤ちゃんで、母の胎内から出てきた所のようだな。よし、先ずは第一声だっ! 盛大に泣くぞっ! そう思った時に不穏な言葉が聞こえた。


「ーー様、男の子ですがどうやら黒髪です……」


「何だとっ! このアバズレめっ! やはり浮気しておったかっ! ふん、産んだ影響で亡くなったから直接仕置きをする事はできんが…… この赤子は一応私の息子として認知はしておこう…… 名はそうだな…… 適当につけておけ。だが屋敷ではなく離れに住まわせろ。汚らしい獣人の母娘がいたな、あの母娘に面倒を見させるのだ! 全く産まれたばかりなのに泣きもせずに…… 不気味な赤子だ……」


「はい、ーー様。畏まりました……」


 声だけだが、言ってる事は不穏だな。コレは泣くのは止めて状況を確認してからの方が良さそうだ。ますます不気味だと言われそうだが……

 そうか、母は俺を産んだ影響で亡くなってしまったのか…… 俺は産んでくれた母に感謝しつつしっかりと生きていこうと心に誓った。


「旦那様のご命令は聞いたな、ハレ。不憫だが坊っちゃまは離れで暮らす事になった。ラメルとリラ母娘の元に丁重にお連れするのだ。お名前は…… トーヤ様にしよう。初代様の早世された、ご長男のお名前だが…… その名ならば旦那様も文句は言われまい」


「はい、セバス様」


 俺は誰かに抱き上げられた。そしてそのままおくるみに包まれ何処かに連れて行かれるようだ。その道中で、


「お可哀そうに…… こんな家にお産まれになって…… それに亡くなったレーラは旦那様に無理矢理手篭めにされて、浮気など出来る筈もないのに…… どうかこの子がレーラのように不幸になる事がありませんように…… ルナレゲレ様、よろしくお願いします…… 産まれでて泣くことのないこの子に幸を……」


 そう呟きが聞こえた。


 フム、そうか。先程のセバスとこのハレはどうやら味方ではないにせよ、敵でもないようだな。俺の父はどうしようもない者のようだが……

 連れて行かれる先にいるラメルとリラという者はどうだか分からない。やはり先ずは確認だな。


「ラメル、居りますか?」


 俺を片手で抱いて扉をノックした女性はそう扉に向かって言った。と言っても俺に見えている訳ではない。何せ赤子だからまだ目が見えないのだ。


「はい、ハレさん。居りますよ」


 扉の開く音がして違う女性の声が聞こえた。


「まあ、ハレさん。その子は?」


「ラメル、旦那様のご命令です。貴方がコチラのトーヤ様を育てて下さい。レーラの忘れ形見です……」


「では、レーラさんが……」


 ラメルさんが絶句した雰囲気を感じた。


「貴女もリラが産まれたばかりで大変でしょうけどお願いしますね…… それとガルンは?」


「主人はまだ庭に…… 大丈夫です、主人も何も言いません。私達が大切にお育て致します」


「それでは、よろしくね…… トーヤ様、ご壮健に……」


 俺はハレからラメルさんに手渡されたようだ。目が見えないって不便だな。しかし、何か非常に心地好い柔らかいモノが体に当たり安心感が半端ない…… コレはアレだな…… そう、アレオッパイだ!!

 俺は包み込まれるような安心感のなか眠ってしまったようだ……




 

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