汝、力を欲するか?

しゅっ、しゅっ、と繰り出されるリズパンチを周りの大人達が笑みを浮かべながら見守っています。


なんでまた急にリズは強くなりたいと思い立ったのか。

ぶっちゃけ、単純な武力ならばリズ自身には必要とは思えません。なぜならリズには御護りとして御使いステラが居ますから。そんじょそこらの羽虫などワン(猫)パンでしょうし。


「リズ」


私が呼ぶとリズは小鼻をむふー、と膨らませながら「はい!」と返事を返してきました。


「どうして、強くなりたいと思ったのですか?」


なんでそんな事聞くの?と言わんばかりに首を傾げるリズ。


「私も思ったよ、リズちゃん。何かあったら私が護衛として守ってやるよ?」

「儂も聞きたいのぅ。リズ嬢ちゃんは何故力を欲しいのじゃ?」


ぽく、ぽく、ぽく、音が聞こえてきそうな表情でピンクの頬っぺに指を添えて考えること十数秒。リズはゆっくりと話し出しました。


「リズは、リザティア・ガルトラムはまだこどもです。


ルーお姉ちゃんみたいにやさしいまほーもつかえません。


カメリアお姉ちゃんみたいにおっきなオノでまものをたおすこともできません。


アキサメお父さんみたいにちょーつよくて、しゅばしゅばしゅばって、てきをやっつけたりできません。

ふしぎなスキルでみんなをえがおにすることもできません」


リズ...


「でも」


ぐっ、と小さな両拳を胸の前にもってきて、


「リズは大きくなったらへんきょーはくさまになるのです。


たいせつなガルトのひとたち、おやしきのメイドさんやりょうりにんたち、サーシャおばあさま、レオンおじいさま、それに、それに、うんとたくさんのひとたちをまもらなくちゃいけないです。

えがおをまもらなきゃいけないです。


みんながたのしく、しあわせにくらしていけるように。


だから、こわがりでなきむしで、よわむしなリズはように、


だれよりもいちばんげんきでえがおでやさしい、そんなつよいにんげんになりたいのです!!」


とても力強い決意表明に皆が度肝を抜かれています。


「だってリズは、


レオンおじいさまとサーシャおばあさまのまごで、


アキサメお父さんのむすめで、


リザティア・ガルトラムなのですから」


改めて思います。

この幼子は確実に歴史に名を残すような女傑となるでしょう。

この歳で、自分の為に奮う力より、人を幸せにする力が欲しいと。


あの両親阿呆からどうやったらこんな娘が産まれ育ったのか本当に不思議ですよ。

確実にレオンさんのDNAでしょうね。


「うむ。天晴れじゃ、リズ...いや、リザティア・

ガルトラム嬢。

儂、ガンドリックはその心意気に感服致しました。

儂から小さな女辺境伯様に、御身に降り掛かる災いから身を守る為の鎧一式を誂えさせて頂きたく」


胸の炉の火が燃え上がっております、とドワーフ流のやる気をみせながらいるガンドリック氏。


「よしなに」


と返したリズの目が虹彩に光ったように見えたのは一瞬で、もしかしたら光の加減かも知れません。


「アキサメしゃん、ちょっとそうだんがあるにゃ」


と、いつの間にか私の肩にのるステラが私にだけ聞こえる声量で囁いたのです。

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