つよくなりたいのですっ!

久しぶりの気まぐれ猫の出張営業を無事に終え、ガンドリックさんの工房へとカメリアとリズを連れて歩く。

ルーチェは種族進化(?)の影響か、体内魔力の制御が必要だと、ソラが魔力制御を教えているので宿でお留守番。

その他のメンバーにも休日としてヘケトの街を楽しんでおいで、とお小遣いを渡してあります。

アンナやフェルミナは恐縮していましたがウチはホワイトな職場ですからね、と少し強引に休ませました。それでも頬が緩んでいたので間違いでは無かったのでしょう。


で、駄神ズことロイロとウェネト(なんか今度の宴会の幹事になったらしく常時居る模様)は部屋で打ち合わせという名の悪巧み中。

今日喚ばれているのは...まぁ後でいいでしょうね。出てきてそうそうフラフラとどっか行きましたし。アレもロイロに負けず自由神ですからねぇ。


「アキサメお父さん!ガンドリックさまはどんな方でしょうね?」

「う〜ん...定番テンプレなら偏屈なお爺さんでしょうか?私もドワーフという種族はあまり知らないのです」

「リズもドワーフさんとは初めておあいします!たのしみです♪」


リズはご機嫌良さげにステラを肩に乗せたままカメリアと手を繋いだままスキップしています。

鍛冶屋にお使いではありますが、こうしてお散歩するのも楽しいのでしょう。リズの鼻歌をBGMに大通りをリズのペースで歩みます。


セルジュさんから渡された地図の通り進めば、そこには他の建物よりも一回りお宅が。屋根の上の煙突から煙が昇っているので鍛冶屋だとは思いますが、〈ヘケト一〉と噂のガンドリック氏の工房とは一目ではわかり辛いかも。


「ほぇー...ここがガンドリックさまのおうち」

「何とも趣きのある工房だねぇ」

「狙ってこじんまりとしているのかも知れませんね」


リズは目を丸くして、カメリアは苦笑いを浮かべながら、私の言葉になるほど、と。


「とりあえず入りますか」

「はい!ごめんくださーい!ガンドリックさまはいらっしゃいますかー!」


リズが元気な声でお伺いをたてると、工房の中から人懐っこい、そして大声量の返事が。


『おーい!開いとるから入ってこぉーい!』


私達は軋む木戸を開いて中へ。


「広ッ!?」

「うわぁー!?ふしぎです!とってもひろいおうちです!」

「空間拡張...」


ガンドリック氏の工房は外見からは想像も出来ない程に広く、綺麗な工房でした。魔法建築(?)と言えば良いのでしょうか、とにかく驚きです。


「いらっしゃい、レオンとこの孫娘か?話は聞いちょるからの、先ずはお茶にしようか」


奥からそう言いながら出てきたのは、いかにもドワーフ、といった体躯で真っ白な髭を生やした翁。

優しい目つきとは裏腹に身体中に刻まれたその傷痕は決して鍛冶の腕だけでは無いと物語っています。


「はじめまして、リザティア・ガルトラムともうします。そふ、レオンのおつかいでまいりました。

どうぞ、リズとおよびください」


と口上を述べてカーテシーをするリズ。

なんとも微笑ましいと思ったのは私だけでは無かったようで、


「おぉ、これはこれはご丁寧にリザティア嬢。儂はこのヘケトで鍛冶を生業にしております、ガンドリックという者でございます。どうぞガン爺とお呼びください」


おや?これは孫馬鹿レオンさんと同じ匂いがしますね?


「はいッ!ガンおじいさま!」と、リズが返事すればそれはもうデレッデレで。

しまいにはそのぶっとい腕でヒョイと抱き上げて高い高いする始末...。

リズの可愛さは種族を選ばないようで、きゃっきゃとはしゃぐ姿が愛らしいこと。


「ガンドリック氏、私、リザティア・ガルトラムの保護責任者のアキサメ・モリヤと申します。この度はであるレオン・ガルトラムより鎧の整備を頼まれてお伺いさせて頂きました」


と、スキルを使ってレオンさんの鎧一式を作業台の上へと出す。

ガンドリック氏は一瞬目を見開いたものの、リズをふわりと降ろして軽く鎧をチェックし始めました。

ひと通り見終えたのか、ガンドリック氏は私を見据えてその口を開いた。


「寿命じゃな。

コイツを直すくらいなら新しく作った方が安上がりじゃし、納期も早いのぅ」


どうやら見た目は何とかなりそうでも、鎧の材質がに当てられてボロボロだそう。ガンドリック氏が言うにはミスリルなどの魔法金属ならこういった事態にはならないらしい...ファンタジー要素きましたねぇ。


「じゃがのう、ミスリルは希少でな。儂の工房にも鼻たれ小僧レオンの鎧一式分は無いのう...まぁ、ダンジョンの深層なら採掘出来るんじゃが」


とか言って私をチラチラ見るガンドリック氏。さてはこの爺さん、わたしの力量を理解してますね?


「採って来い、と?」

「ダンジョンツアーじゃよ、若いの」


言い方変えただけでしょうが。


「それにお主なら、それこそお散歩気分で行けるじゃろ?」


この爺ィ...





「はいッ!はい!リズはだんじょんに行きたいですっ!だんじょんでしゅぎょーしてつよくなりたいのですっ!」


その一言に皆が驚いてリズを見ました。


「しゅっ!しゅしゅっ!」


口を尖らせて可愛い猫パンチを繰り出す娘を頭を抱えることとなりました。





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