◉決意表明

「ーー以上です、陛下」


 私の報告を聞いた国王陛下は、目を瞑り眉間に皺を寄せた。

 少し考えがまとまったのか、目を開き開口一番にこう言った。


「何それ、チョーめんどくさいじゃん」

「泣かすぞ愚弟アホ?」


 ...ウチの弟は公私がはっきりしている。


 民からは〈賢王〉と敬われ、その政治手腕は他国からも賞賛されている。ゆくゆくは歴史に名を残すであろう〈表〉の顔と、いい歳こいてこの巫山戯たキャラの〈裏〉の顔。

 もちろん、家族や親しい者の前でしか出さないが。


「エリスお姉たまコ〜ワ〜イ〜」

「黙れ髭面の中年が。貴様の顔のほうがよっぽど怖いわ」


 ヒドいッ!とどこからか出してきたハンカチを噛んでいる愛すべきバカは、私があまり相手をしないと理解すると、その表情筋を締めなおす。


 一拍ののち視線を向けられた男、この愚弟の幼馴染でもある宰相はそれを受け止めて盛大に溜息を吐き出した。


「御姉弟喧嘩でしたら後程ご存分にどうぞ、陛下...大公妃殿下におかれましても、その辺にして頂きますれば。

 で、本題に戻させて頂きますが、この度我が国で行われた勇者召喚の儀集団拉致問題に関しましては現在調査中にて御座います」


 苦虫を潰した表情、ともとれるその顔には痛いところを指摘されたのだろう、あまり良くない。


 おそらくは、宰相ですら後手だったのであろう。


「そう...そちらは任せます。

私は私なりに調べるし、暫くはやらなくちゃいけない事も出来たから...元辺境伯の件も宜しくね」

「そういえば姉上、そのアキサメという男は今後どうするのでしょうか?」

「どう、とは?」


勿論分かってる。知らなかったとはいえ、身内がやらかしたのだ。彼だって被害者の1人なのだ。


例え、本人アキサメがそれを気にしていなかったとしても。

だが、私達王国は勇者達被害者を先ず何とかしないとアキサメと、アキサメを〈御館様〉と崇拝する存在達の不興を買うだろう。それだけは何とかしなければ、王国...いやこの大陸はもとより世界そのものがどうなるか分からない。

アレらはそういった類いのナニかだ。


「いや、我が国に迎え入れる、とか」

「無理ね」

「...何故、とお聞きしても?」


まぁ、そう思うの気持ちは分からなくもない。でも、


「これは、臣下としてではなく、1人の血の繋がった姉としての忠告よ。心して聞きなさい」


ゴクリ、と喉を鳴らす音が聞こえた。


「貴方は夜空を照らす月を見て、私を照らせと言うのかしら?

春風に向かってこちらを扇げと言うのかしら?

恵みの雨にあちらも潤せと言うのかしら?」


いまいちピンと来ていないのか、弟は首を傾げていた。

昔から、この子は考える時にこめかみあたりを小指の先で掻く。

ふふふ、と変わらないその仕草に笑みが溢れた。


アキサメを欲してはだめよ、ルージー。

彼は自由で在りたいの。

そのチカラを持つが故に、人よりも悩み、苦しみ、藻掻きながら、生きているの。

私達と何ら変わりない、1人の人間なのよ。

だから私は、」


私は。


「アキサメの側に立てるように、

アキサメと同じ景色を見れるように、

伴に歩めるように」


不意に弟が驚愕したように呟いた。


「つ、ついに姉上に春が...姉上に浮いた話が!?」


私は照れを隠すように、可愛い弟の顔を鷲掴みにした。


「痛い!?イタイです姉上ッ!」


私の顔は、赤かったに違いない。


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