◉貴女にも〈天使の祝福〉を。①

「お客様、これでハンドケア体験は終了です。いかがでしょうか?」

「凄いですッ!私の手がこんなにキレイに!」


 目の前のお客様が自分の手を見ながら凄く嬉しそうに目を輝かせ、見る見るうちに笑顔になります。


 アキサメさんが異世界、チキュウから仕入れてきた奇跡のハンドクリーム、〈天使の祝福〉。

 私が〈気まぐれ猫〉とアキサメさんに出会うきっかけになった大切な、思い出の商品です。




 物心がついた頃には孤児院にいた私は、同い年の子たちよりも身体が幼くて...左右の瞳の色が違いました。

 〈半端者ハーフエルフ〉。

 そう、孤児院の若いシスターたちが私のことを呼んでいるのを偶然聞いた時からか、はたまた視察にいらっしゃった若い頃のガルトラム辺境伯様、リズちゃんのお父様から侮蔑したような視線を向けられた時からか。

 色違いの瞳オッドアイを通して捉える世界が急激に色褪せていきました。


 大変だった、と思います。

 年頃になっても他の子たちよりも幼い体躯の私には働き口も少なくて...でも、なんとか〈なごみ亭〉の店主さんに雇ってもらえて、孤児院を出て住み込みで働けるようになりました。

 店主の奥様が出産のために抜けた代わりだったということもあり、お仕事はたくさんありましたが、丁寧に教えてくれる人達に恵まれ楽しい日々を過ごせました。


 でもそれは一時的なものだと、私でも分かりました。

 奥様の復帰後の身の振り方を考えなくちゃ、と休みの日に街を歩いていた時、偶然目についた屋台には、それなりの時間にも関わらずお客さんが全くいなくて。


(ハンドクリーム?なんだろう?)


 屋台の店主さんはお隣のスープの屋台に気が向いてて、商売っ気が全然感じない綺麗な黒髪黒眼の若い男性。

 気になり出したら止まらなくて、声を掛けてみました。


『あの〜すいません?』


 うふふ。ちょっとびっくりした顔をした店主アキサメさんの顔は、今でも鮮明に覚えています。


『いらっしゃいませ。〈気まぐれ猫〉へようこそ!』


『お客様、当店は様々な商品を日替わりで取り扱っておりますので、店に並ぶ商品は仕入れ状況で変わります。

 本日は、〈天使の祝福〉というハンドクリームをご用意しております』


 ハンドクリームってなんだろう、と聞けば、


『失礼な事をお伺いしますが、お客様は手荒れで嫌な思いをした経験はございますか?』

『手荒れ?冬の寒い時とか、お仕事でお洗濯や皿洗いしたりするとカサカサになります。酷い時はひび割れて血が出るので、その時は薬草を擦り潰して塗りますよ。ただ、あまりあの匂いが好きじゃないので普段はそのままです』


 それに、薬草だってタダじゃないから。

 それを聞いた上で店主アキサメさんは驚くほどの提案をしてくれました。


『教えて頂きありがとうございます。それではお客様、宜しければ一度当店の〈天使の祝福〉を使ってハンドケアを体験してみませんか?』

『え!?体験ですか?私、そんなにお金持って無いのですけど...』


 だって、その時は次のお仕事を探している最中だったから。


『勿論無料ですのでお気になさらず。

 実は、私もこのハンドクリームをどうやってお客様方にお伝えしようかと悩んでいたのです。そこで、お客様にお手伝い頂けたらとても助かります』

『無料なら良いですが、ハンドケア?を体験したらそのハンドクリームを買わないといけないのですか?』

『お買い上げは、気に入って頂けたらで結構ですよ。

 どちらかと言うと私の実演販売の助手をして欲しいというお願いなので、終わった後で甘くて美味しい物をお給金代わりにご馳走様します』


 え!?そんな高価な食べ物ももらえるの!?

 甘いものなんて、中々食べれないのに!


『甘くて美味しい物!やります!やらせて下さい!』


 私は、すぐにその提案にのりました。

 だって、食べてみたかったんです、甘くて美味しいもの。


『ありがとうございます。では、私、店主のアキサメといいます』


 そう、自己紹介していただいたので私も挨拶しました。


『私はルーチェっていいます!宜しくお願いします、アキサメさん!』

 


 この出会いが、私の人生をとても素晴らしいものに変えてくれるなんて。

 その時はこれっぽっちも思ってなかったんですよ、アキサメさん。



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御一読頂きありがとうございます。


今回はルーチェちゃんの回想からのスタートとなりました。

次回は駄猫神ロイロも登場します。


これからも、「面白かった」とか「頑張って」とか思って頂けたら、とても嬉しいです。

もしよろしければ、♡、☆、コメント、フォロー、頂けるとモチベーションに繋がります。

誤字脱字も教えて頂けるとありがたいです。

〈よくばり〉ですいません。


では、また次話でお会いできたら幸いです。

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